おなじ音を持つ異形





『これは!私が食べたがっていたプリン…!』

「昨日の任務帰りにコンビニに寄ったから買ってきた」

『ありがとう…!』




学校も任務の無い休みの日に食堂に向かうと、伏黒くんが私にビニール袋を渡してくれて中を見ると私が気になっていたプリンが入っていた。私は感動してプリンを天井に掲げると彼は眉を下げて小さく笑っていた。





「えー?なになに?プリンー?」

『伏黒くんが買ってきてくれたんです!』

「恵も優しいところあるじゃーん!」





食堂に現れたら五条先生に見せると、伏黒くんを揶揄う様にツンツンと啄いていて叩き落とされていた。すると先生は痛くもないだろうに手を抑えながら私に顔を寄せる。





「僕にも頂戴?」

「駄目に決まってるでしょ」

『嫌です』

「ちぇー、前までくれたのに」

『いつの話してるんですか』




私がジト目で見つめると五条先生は女子高生の様に人差し指を顎に当てていた。その姿にイラッとしたけど、伏黒くんもムカついたような顔をしてたから少しだけ気持ちが晴れた。





「えー、僕も食べたい」

「お金あるんですから自分で買ってきてください」

「恵は本当に名前以外に冷たいよね」

「そんな事ありません」




伏黒くんは先生の相手をするのが疲れたのか意識をご飯に向けて手を合わせて挨拶をするとお味噌汁に口をつけていた。私もプリンを楽しみに手を合わせてご飯に手をつける。




「…生徒が冷たくて僕悲しい」

『…あ、ピーマン入ってる』

「それくらい食え」

『……』

「プリンあるだろ」

『…プリンのために、頑張って食べる』






私がパクリとピーマンを口に含むと伏黒くんは私のお皿に自分が頼んだおかずを乗せてくれた。しかも私が前に好きって言ってたやつ。優しい、好き。





「…こうやって恵は名前の好感度を着々とあげていくんだね」





五条先生の言葉に私は口をモグモグとさせながら顔を上げると、伏黒くんが口を開いた。




「恋人でも好感度を上げることは大事ですから」

「名前は?どうやって恵の好感度上げてるの?」

『………』





私は口を動かしながら首を傾げて定食に視線を落とす。そしてオレンジ色のそれを掴んで伏黒くんのお皿に乗せる。





『どーぞ』

「人参じゃねぇか」

『伏黒くん人参好きでしょ?』

「一度も言って無い」

「けど食べてあげるんだね」





人参を食べてくれた伏黒くんのお皿にお肉を乗せた。すると伏黒くんは私のお皿にデザートのオレンジとパイナップルを乗せてくれた。




『伏黒くん好き』

「………あー、なるほどね。名前のこの言葉に恵の好感度は爆上げなわけね」

「恋人に好きだって言われて嫌な気分になる男は居ないでしょ」

「嫌な気分どころかイヤらしい気分になっちゃう?」

「アンタと一緒にしないでください」

「またまた〜、恵も男でしょ?」




伏黒くんの肩に腕を乗せた五条先生に、伏黒くんは鬱陶しそうに眉を寄せた。私はその間にご飯を食べ終えて彼がくれたフルーツを味わって食べると、待ちわびたプリンの蓋をベリベリと剥がした。




「二人が楽しそうならいいけどね」




五条先生はポンポンと伏黒くんの頭を撫でると、流れるように私の頭も撫でた。プリンをモグモグと味わいながら顔を上げると五条先生は口元を緩めていた。





「でもたまには周りもちゃんと見なさいね」

『…?…はい』






私が首を傾げながら頷くと五条先生はウンウンと頷いた。そして私たちに背を向けるとヒラヒラと右手を振った。



「浅い川も深く渡れ、って言葉を忘れちゃ駄目だよ」

「…?」

『…?』



私たちは同時に首を傾げると、五条先生は振り返りもせずに食堂を出て行ってしまった。私は伏黒くんに視線を戻してゴクンとプリンを飲み込んだ。





『浅い川も深く渡れって、浅い川であっても深い川と同じように用心して渡らなければいけないっていう戒めの言葉だよね』

「あの人が言うことを真に受けてたら疲れるぞ」

『…ま、そっか』





私はまたスプーンで掬ってプリンを口に運ぼうとすると、掬う量が多すぎたのかプリンがボトリと容器の中に落ちてしまった。その音がやけに耳に響いた気がした。



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