陽当たりのわるい夢



『苗字名前です。今日はよろしくお願いします!』

「私は二級術師の東海林だ。よろしく」





私は任務で横浜に来ていた。すると二級術師の東海林さんと組むように言われ、美しいお姉さんが現れて一瞬呼吸が止まってしまった。本当に綺麗な人だなぁ。




「ちなみに私は戦うタイプの呪術師では無い。だから戦闘は君に一任させてもらうよ」

『はい!分かりました!』

「私の方が階級は下なんだ。そんな固くならないでいい」





すると東海林さんは笑いながら水晶を取り出して、数回撫でた。すると顔を上げてゆっくりと私を見た。動作の一つ一つが綺麗でドキドキしてしまう。





「私の術式は未来予知のようなものでね。何処にいつ呪霊が現れるかが分かる。だから後は頼んだよ」

『わかりました!』





私は東海林さんの未来予知の元、その場に行くと時間通りに呪霊が現れた。そのおかげで任務は簡単に終わり、私は何故か東海林さんとご飯を食べていた。





「君は本当に強いんだね」

『え?東海林さんのおかげです!』

「恋人は居るの?」

『…へ?』





突然の変わった話題に私が間抜けな声を出すと東海林さんは綺麗な所作でお肉を口に放り込んだ。今居るお店は如何にもお金持ちの御用達の見た目のお店で私はドギマギしてしまう。





『い、います…』

「だろうね」





東海林さんは色っぽく唇を舐めると、お箸を置いて水晶を取り出した。私が首を傾げると彼女はフッと笑って艶っぽく首を傾げた。





「君の運命の相手を見てあげようか?」

『…え!そんな事も出来るんですか…!?』

「こっちが本業でね」

『本業?』

「占い師をやっている。呪術師は趣味…というか資金集めだ」

『占い師…』




そういえば野薔薇が占いに行きたいと言っていたなぁ、なんて思って居ると東海林さんは「で、どうする?」と聞いた。私は背筋を伸ばして少し緊張をしながら口を開いた。





『そ、それって私じゃなくても見れますか?』

「例えば?」

『写真と誕生日とかで私じゃなくて他の人の運命の人を見て欲しいんです』

「出来るよ。顔と名前、そして生年月日が分かればね」




私はスマホを取り出して、彼に悪いなと思いながらも東海林に見せて名前と生年月日を伝える。





『名前は伏黒恵、誕生日は12月22日です』

「ほぉ。顔が整っているな」

『そうなんです…!』





私が少し前乗りになると東海林さんは少し目を見開いて、手の甲を口元に当てて笑ってしまった。急にどうしたんだろう。





「君も存外可愛らしいところがあるようだね。自分の彼氏を褒められて喜ぶなんて」

『おっ、お恥ずかしい…』

「どれ、見てあげようか」





東海林さんは任務の時のように水晶を撫でると、私を見てゆっくりと口を開いた。その答えに私は目を見開いて空気が抜けた様な声を出してしまった。






***







「伏黒ー!」





虎杖に名前を呼ばれてスマホを見ていた顔を上げると、右手をブンブンと振りながら俺の元に来た。近いのにわざわざ走ってくるなよ。





「今日の任務は楽に終わりそうだなー」

「まぁ、相手は二級だからな」

「俺も伏黒も一級なんだからもう少し賃金あげて欲しいよなー」





虎杖は両手を頭の後ろで組むとボヤくようにそう言った。確かにもう少し欲しい。苗字がこの間独り言でラテやミルクティが作れるコーヒーメーカーが欲しいと言っていた。どうせ渡すならいい物を渡したい。





「ここだな」






俺たちが任務地に着くと、そこは今にも崩れそうなコンクリート出てきた建物だった。東京にもまだこんな場所あったんだな。
俺と虎杖で中に進むとある一角に呪霊の気配を感じて警戒心を強める。





「先手必勝ー!」

「おい馬鹿っ!!」





飛び出した虎杖に俺は慌てて手を伸ばすが届かず、虎杖は呪霊を祓うと両手を頭の上で組んで体を伸ばしていた。コイツの無鉄砲さにはヒヤヒヤする。




「よっし!帰ろうぜ!」

「オマエな……っ!?」





突然後ろに感じた呪力に振り返ると二級と見られる呪霊が残っていて、その腕の中には俺たちと同い年くらいの女子生徒が涙を流して俺たちを見ていた。





「…これ、もしかしてヤバいやつ?」

「もしかしなくてもヤバいやつだ…!」





俺が舌打ちをすると、呪霊はニヤニヤと笑っていた。二級が狡い手を使うな。でも仕方ない。俺は虎杖に建物から出て行くように伝えると、コイツも俺のやりたいことが分かったのか呪霊を刺激しないようにゆっくりと後ろへと下がり、建物から出た。





「…これで1体1だ。ソイツを離したらどうだ」





俺がそう言っても呪霊は掴んでいる手を緩めることなく俺を見ていた。俺は溜息を吐いて肩を竦めるとゆっくりと胸の前に手を移動させる。呪霊も流石に俺の様子がおかしい事に気づいたのか腕に力を込めていたが、もう遅い。





「術式展開 嵌合暗翳庭」






いつまでたっても俺が弱いままでいるわけにはいかねぇんだよ。







「伏黒ー!お疲れ様ー!」

「お疲れ様じゃねぇ。オマエのその突っ込んでいくクセ止めろ」

「ごめん!マジごめん!」





虎杖も流石に今回は悪いと思ったのか両手を顔の前で合わせると拝む様にそう言った。俺は溜息を吐きながら抱えていた女子生徒を虎杖に渡し、伊地知さんに報告をする。





「終わりました」

「お疲れ様です。…その方は?」

「呪霊に人質にされてたすぐそこの高校の生徒だと思います」

「分かりました。では念の為病院に連れて行きますので助手席に乗せてもらっていいですか?」






伊地知さんの言葉に虎杖を呼ぶと、女子生徒は目が覚めたのか虎杖の隣に立っていた。そして俺の前に駆け寄ると頭を下げた。意識を取り戻したばかりなのに頭を振ったら危ねぇだろ。





「あのっ、ありがとうございました…!」

「別に。任務なんで。それより車乗ってもらっていいですか」

「はっ、はい…!」





俺の言葉に素直に女子生徒は助手席に乗ると、後ろから虎杖に声をかけられる。





「伏黒さぁ、苗字以外に冷たすぎじゃねぇ?」

「はァ?」

「俺たちは伏黒の性格を知ってるから分かるけど、初対面からしたら怖いよ?」

「別にオマエらがわかってるんだから問題無いだろ」

「まぁ、そうなんだけどさぁ」






虎杖は納得していないのか唇を尖らせながら車に乗り込んだ。ガタイのいい男がそんな顔しても気持ち悪いだけだ。




「あのっ、本当にありがとうございました!」






病院に着くなりそう言われ俺は車から降りずに肘を着いていると、虎杖に窓を開けられ強制的に会話をさせられる。余計なことしやがって。俺は早く帰りてぇんだよ。





「……別に」

「宜しければっ、お名前を聞いてもいいですか…?お礼をさせて欲しくて…!」

「要らないんで。それじゃあ」

「コイツ呪術高専の伏黒な!俺は虎杖悠仁!」

「っ、おい!」

「伏黒くんと虎杖くん、ですね!本当にありがとうございました!」

「いえいえ!お大事に!」





車が発進され、俺が虎杖を睨むとコイツはキョトンと首を傾げていた。





「勝手に俺の名前教えんなよ」

「え?だって知りたがってたし…」

「……もういい」





どうせ口だけだ。本当にお礼をしに来るわけじゃない。俺は外を眺めながら帰ったら苗字と何を食うかを考えていた。その途中に虎杖がコンビニに寄りたいと言ったから、ついでに苗字が食いたがってたプリンを買って寮へと戻った。



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