つめたい指のひとのやさしさの証明





『やっと少しだけ温かくなったね』

「そうか?」

『指先があんまり冷えなくなった!』







私が両手を伸ばして伏黒くんの前に突き出すと、何を思ったのか彼は私の両手を取ってにぎにぎと握った。そういうことじゃ無かったんだけど…。




「本当だ。冷たくない」

『それに今日はお花に水あげてないから』

「毎日やるもんじゃないのか?」

『昨日凄い雨だったからあげなくてもいいんだって。狗巻先輩が朝言ってた』

「へぇー」

『急に興味無さそうにしないで』

「…聞かないといけないのか?」

『聞いてくれたら嬉しいです』

「…じゃあ聞く」





伏黒くんの少し眉を寄せながら小さく頷く姿が可愛くて手を離して抱きつくと、彼も背中に手を回してくれた。すると後頭部に小さな痛みが走って顔を上げると野薔薇が私たちを睨んでいた。




「教室でイチャイチャすんじゃないわよ!暑っ苦しい!!」

「良かったな。さみーからちょうどいいだろ」

「そういうことじゃないだろ!」

「あれ?今日は苗字も任務無いんだなー」

『虎杖くんおはよう』

「おーっす」





私が少し体を離そうとすると背中に回っている腕に力を込められてまた頬に制服が押し当てられる。まずい。温かくて眠くなってきた。





「おい苗字寝るな。もうすぐ授業始まる」

『…これはまずいですよ、伏黒くん。瞼が上がりません』

「なに?苗字おねむ?」

「でも次は五条先生の授業でしょ?サボれないわよ」

「五条先生サボってもすぐ見つけるもんなー」

『……五条先生ならサボっても、』

「はいはい、許されないからねー。名前もさっさと恵から離れて席に着いてー」





五条先生の声が聞こえて顔を上げると、教壇に既に立っていた。気配が無さすぎて不気味だ。夜に現れたら通報レベル。





『…今日はお休みにしませんか』

「しないよー。僕がやる気ない日なら自習でも良かったんだけどねー。カップルがイチャイチャしてるの見るくらいなら授業やるよ」

「自習でいいですよ」

「ほら、恵も勉強したいってさ」

「言ってません」




仕方なく伏黒くんから離れて席に着く。するとペラリと一枚の紙が五条先生から渡されて目を通すと、先生はニヤニヤと笑った。




「はい、名前は今から任務ね」

『…授業じゃないじゃないですか』

「うん。外で棘が待ってるから一緒に行ってきて」

『五条先生の授業よりはマシですからね。いってきます』

「わー、本当に可愛くなくなったねー」






五条先生はそう言いながらも楽しそうに笑っていた。私は眠い瞼を擦りながら教室を出て外へ向かうと狗巻先輩が既に車に乗っていた。





『お待たせしました』

「おかか」

『狗巻先輩と一緒ならすぐに終わりそうですね』

「高菜」





私が後部座席の狗巻先輩の隣に乗り込む時に彼の指先に手が触れてしまい、先輩の指先が酷く冷たい事に気づいて首を傾げる。





『大丈夫ですか?凄く手が冷たいみたいですけど…』

「いくら、ツナ」

『さっきまで水触ってたから冷たいんですか。…あ、私カイロ持ってますよ』





私がポケットに入れていたカイロを渡すと狗巻先輩は両手でそれを受け取り楽しそうにシャカシャカと振っていた。





『素早く終わらせて寮でぬくぬくしたいですね』

「…おかか」

『えぇ…、狗巻先輩って任務好きなんですか?』

「…ツナマヨ、…いくら」

『真希さんのことまた怒らせたんですか…』






このままで良いって言った狗巻先輩に驚くと、また悪ノリで真希さんを怒らせたから寮に帰りたくないと言った彼に納得していると、ゆっくりと車が出されて私は早く帰って伏黒くんと何食べようかな、なんてまだお昼にもなってないのに夜ご飯のことを考えていた。



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