才あるものの劣等



「伏黒さー、苗字の事好きなんじゃねぇの?」

「は?」





任務に向かっていると虎杖が突然そう言った。俺は眉を寄せて虎杖を見ると、コイツはキョトンと首を傾げた。





「好きに決まってんだろ」

「ならなんで別れたの?」

「…そんなの、」





俺が知りたい。俺だってなんで別れたのか心当たりがない。あったら直してる。けれど苗字は頑なに俺には非が無いと言う。




「伏黒はそれでいいの?苗字と別れたままで」

「……俺は、」





俺は苗字が好きだ。だから呪いだって解呪していない。俺まで解呪してしまったら、本当に終わってしまう気がして。





「……俺は、苗字が本当に望むなら同期に戻るのも拒まない」

「……」





苗字に会えなくなるくらいなら、目すら合わせられなくなるなら、触れられないなら、言葉すら交わせなくなるなら、そんな事になるくらいなら、俺は、






「……これ以上苗字と離れなくて済むなら、俺はそれだけでいい」

「…伏黒は苗字と似てるよな」

「俺と苗字が?」

「自分を犠牲にする所とか、自分を押し殺しちゃう所とかさ」




俺は別に自分を犠牲にした覚えは無い。むしろ苗字は同期に戻りたいと言ったのに、本心はそれを拒んでる。未練たらしく呪いをかけた。苗字が死んでも俺の元へ戻って来るように願いを込めて。苗字が死ぬなら俺が殺したい。俺が死ぬなら苗字に殺されたい。酷く歪んだ愛だと自分でも思う。




「…苗字は、俺の愛が重かったのかもしれない」

「本当にそうなのかな」

「…は?」

「怖っ!いや、別に苗字のことを知ったかしようとかそういう訳じゃねぇって!」

「別に何も言ってないだろ」

「顔が言ってるんだよ!」




どんな顔だ。俺が溜息を吐くと虎杖は手を頭の後ろで組んで空を見上げた。





「伏黒も苗字もさ、大体無理する時ってお互いの事を考えた時じゃねぇ?俺から見ても苗字はまだ伏黒の事好きだと思うんけどなー」

「……」

「たまにはさワガママになっていいんじゃない?伏黒も苗字もどこかお互いに遠慮して本音で話したこと無いんじゃねぇ?知らねぇけど」

「……本音、」





確かに俺たちが本音で話し合ったのは去年の苗字が高専で暴走をした時が最後かもしれない。俺達には呪いがあるからと、どこか安心していたのかもしれない。





「それに最近伏黒、女の子と会ってただろ?苗字言わなかったけど、本当は嫌だったんじゃない?自分の恋人が他の異性と会ってたら嫌だろ?」

「……」





俺だったら相手の男を呪うかもしれない。軽率だった。相手には悪いが、正直何の話をしていたのかも覚えていない。覚えているのは苗字について話をされた時だけだ。柄にもなく口数が増えていたのが分かっていた。




「……」

「苗字と話してみなよ。俺だって伏黒と苗字には一緒に居て欲しいしさ!」





本当にコイツは超が付くほどの善人だと思った。少なくとも俺は同期とはいえ、人の恋愛に興味を持てるとは思えなかった。




「…任務から帰ったら話してみる」

「おう!ならさっさと終わらせて帰らねぇとな!」





苗字と別れて以来、初めて任務を早く終わらせようと思った。自然と口元が緩んで虎杖に素直に言葉を紡ぐ。




「虎杖」

「ん?」

「ありがとな」




虎杖は目を見開くと、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべて元気よく返事をした。今日の俺はどうやら調子がいいみたいだ。



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