薄氷を花と偽る



「よーし!お待たせー!飯行こっか!」

『……先生、財布は?』

「え?」

『手に持ってないみたいですけど、』

「ポケットに入れたからね」

『急いで戻って来たみたいな雰囲気出してましたけど、そんなに急いでなかったんですね』

「な、なーんか顔怖いよ?どうしたの?」

『…別に』





私がそっぽを向くと五条先生は誤魔化すように笑っていた。すると野薔薇が私の隣に来て、虎杖くんが伏黒くんの隣に移動した。私と伏黒くんを真ん中に囲むように移動した2人。まぁ、それは良いんだけど…、




『…近くない?』

「え?そ、そう?」

『…私虎杖くんの隣行く』

「えっ!?、なっ、なんで!?俺の方道路側だから危ないって!」

『ならその隣に五条先生を置けばいいんでしょ?』

「僕は置物かなにかなの?」

「名前!アンタたち待ってる間どんな話してたの?」

『別に、普通の会話だけど…、』

「明日の授業の話とか」

『うん、あとは天気の話とか』

「テレビの話とか」




伏黒くんと視線を合わせてそう言うと2人は口をアングリと開けて固まってしまった。その姿に私と伏黒くんは首を傾げると五条先生が話を変えるように声を上げた。




「着きましたー!ここでーす!」

『ここって…、』

「ちなみにここは恵のリクエストでぇーす!」




私は伏黒くんを見上げると伏黒くんは表情を変えずに口を開いた。





「ここに来たいって言ってただろ」

『伏黒くん…!』






当然のように言う彼に私の心臓は大きく脈打った。本当に駄目だなぁ。自分から手放したくせに、嬉しくなってしまってる。私が以前言っていたお店を覚えてくれていることに、私との会話をちゃんと聞いてくれているのだと気づいてしまった。




『しかも五条先生の奢り…!いっぱい食べないと!』

「そんなに急がなくても飯は逃げねぇだろ」

『ご飯は逃げなくても五条先生は逃げるかもしれないでしょ…!?』

「なら財布だけ貰っておくか」

『…そうしよう』

「冗談だ。だからその手に持ってる呪具仕舞え」






伏黒くんに首根っこを掴まれると席にズルズルと運ばれる。そのまま席に着くといつの間にか前には先生と野薔薇、虎杖くんが座っていた。





『私と野薔薇と先生で座った方が広くないですか?』

「わっ、私は今日はここがいい気分なのよ!」

「おっ、俺はトイレ近い方が嬉しいし!」

『その割に一番奥に座るんだね…?』

「つ、机潜っていくから平気!」

『それはやめて欲しいな?』





まぁいいか、なんて思いながらメニューを開くとやっぱり値段が段違いだった。先生の奢りじゃないと来れない。私が迷っていると伏黒くんの細くて長い指があるメニューを指さした。




「これで迷ってんだろ」

『だってもう二度と来れないかもしれないし…、後悔したくないじゃん…!?』

「俺がこっち頼むから苗字はそっち頼めよ」

『え…!?』

「デザートも頼んでいいから」

『伏黒くん…!』




私が瞳をキラキラとさせて見上げると彼はパシリと私の頭を叩いた。前髪を直しながら叩かれた場所を撫でると、虎杖くんは野薔薇の制服を掴み、野薔薇は五条先生の服を引っ張っていた。新しい遊び?




「ちょ、ちょっと先生!どういうこと!?どういうことなの!?」

「俺がおかしいの!?俺が変なの!?」

「大丈夫だよー、可笑しいのは恵と名前だからねー」

「は?」

『なんで!?』




私がショックを受けていると五条先生はどんどん注文を済ませてしまった。出てきた料理に舌鼓を打ってると伏黒くんのスマホが鳴って電話の内容は任務に行って欲しいって事だったらしい。




「まぁ、今度また僕が連れてきてあげるよ」

「お願いします」

「伏黒!頑張ってなー!」

「頑張ってな、じゃねぇ。虎杖もだ」

「えぇ…!?」

「アンタらの分は私と名前で美味しく頂くから安心しなさい」

『気をつけてね』




私がそう言うと伏黒くんはコクリと頷いて任務に向かってしまった。私はご飯に視線を落とすと、目の前から痛い程の視線を感じてゆっくりと顔を上げる。すると野薔薇がジーッと私を見ていた。




『えっと……あ、これ食べたい?食べる?』

「…アンタら別れたのよね?」

『伏黒くんと?…うん、別れたよ』

「なのに距離近くない?」

『でも前からこれくらいじゃなかった?』

「……確かに」





野薔薇は考えるように手を顎に当てると首を傾げながら頷いた。すると隣に居た五条先生が口を開いた。




「僕はさ、生徒には幸せになって欲しいんだよね。ほら、僕優しいから」

『優しい人は自分で言わないですよ』

「それに若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ。何人たりともね」





先生はそう言うと自分が頼んだご飯を口に放り込んだ。私はその姿を眺めて、彼が居ないことを言い事に口を開く。




『…私は、伏黒くんが大好きです』

「知ってるよ。だってイカれてるもん」

『うるさいです。…これからだって一緒に居たいし、私だけを愛して欲しいです』

「なら、なんでよ、」

『伏黒くんはもう十分私なんかを愛してくれた。もう私には幸せすぎるくらい幸せをくれた。今度は伏黒くんが幸せになる番だから、』





私なんかに人生で一番の幸せを味あわせてくれた。普通の人のように愛してくれた。その愛は他の人からしたら重くて狂ってるのかもしれないけど、私にはそれが嬉しかった。彼の事を愛してる。本当は他の人なんて見ないで欲しい。私だけを愛して欲しい。でも、私じゃあ駄目なの。




『伏黒くんの運命の人は私じゃないから。私は自分の気持ちを踏みにじっても、伏黒くんには幸せになって欲しい』






私がそう言うと五条先生は机に肘を付いて私を見るとニヤリと笑って人差し指で指さした。行儀悪い。





「つまりさ、名前も恵も、」





先生の言葉に私は目を見開いてどこか妙に納得してしまった。





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