心許りの疵ばかり



「アンタ最近また任務多くない?」

『え?そうかな?』

「……また学校で暴れ出すんじゃないでしょうね」

『もうしません…』





私が項垂れて謝罪をすると野薔薇はふーんと興味無さそうにポリポリとポッキーを齧った。すると共有スペースでまったりしていた私達の元に真希さんが現れた。私が少しズレると彼女は私の隣に腰を下ろした。




『真希さんお風呂上がりですか?いい匂いします。いつもしますけど』

「人の匂い嗅ぐなよ。変態か」

『嗅いでませんよ…!風に乗って来ただけです!』

「そういえば名前、明日棘と任務だろ?」

『はい。よく知ってますね』

「棘の機嫌が良かったからな」

『…え?』

「……え?待って、狗巻先輩ってそうなの…!?」

「なんだ。野薔薇知らなかったのか。てっきりパンダから聞いてるもんかと思ってた」

「聞いてませんよ!」





野薔薇は立ち上がって前のめりになると、真希さんが野薔薇の頬をグイグイと押し返した。




「オマエ意外と動じないんだな」

『へ?』

「それとも棘に告られたか?」

『…………』

「………え?」

「…は?マジかよ」




私の反応に2人は目を見開いて固まると、真希さんは苦虫を噛み潰したように顔を歪めて下ろしている髪をガシガシと掻いた。





「…あー、まぁ、棘も恵が居るの分かってて言ったんだろうし、いつも通りに接してやれよ」

『分かってますよ』





私が少し笑ってそう言うと真希さんは少しだけ私の顔色を伺うように覗き込んだ。野薔薇は未だに固まっているのか動く気配が無かった。




「……名前オマエ、恵と上手くいってねぇの?」

『…最近みんなそう言いますね』

「恵が女と会ってるって私達の間では専らの噂だ。棘は名前のこと気にしてたけどな」

『……もしかして真希さん、私と狗巻先輩くっつけようとしてます?』

「当たり前だ。同期が初々しい恋をしたんだ。応援くらいしたくなるだろ」




真希さんはそう言うと肘置きに肘を付けて拳を作ると頬を乗せて固まった野薔薇を見ながら口を開いた。




「でも、だからって無理矢理オマエの気持ちを捩じ伏せたいわけじゃない。名前の気持ちあっての話だ」

『…わ、たしは、』

「ぶはぁー!呼吸忘れてた!死ぬかと思った!」

『……呼吸は、しようか…』

「名前どうするの!?」

『ど、どうするのって…』

「どうするも何もコイツらお互いを呪い合う馬鹿だぞ?」

「…まぁ、そうよね」

『2人で引いた顔しないで下さい…』





私が立ち上がると2人はキョトンとして首を傾げた。私は曖昧な笑みを浮かべて共有スペースを出て寒い廊下を歩いていると人影が見えて駆け寄る。




『ごめんね!遅くなっちゃった!』

「別に遅くはないだろ」



伏黒くんは崩れた私の前髪を直すと着ていた上着を私に着せた。私は目を見開いて肩に乗せられた上着を脱ごうとしても伏黒くんが肩に手を置いて力を込めるから諦めて腕の力を抜くと彼も満足したのか肩から手を離した。





『最近はそこまで冷え込まないって思ったけどやっぱり夜はちょっと寒いね』

「ならもっと厚着しろよ」

『さっきまで共有スペースに居て温かかったから』

「鼻赤くなってんじゃねぇか」




伏黒くんは両手で私の頬を包み込むとムニムニと私の頬で遊び始めた。乙女の頬のお肉で遊ぶとは、なんとも外道だ。





『……伏黒くん、』

「ん?」

『大好き』




私の言葉に少しだけ頬を染めて嬉しそうに優しく微笑んだ彼の姿に胸がギシリと嫌な音を立てた。
いつかこの笑みをあの子に向ける日が来るのだろうかと、私はそんな思いを隠して笑みを浮かべた。



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