剥がれ落ちた怜悧を撫でる



「苗字、今日晩飯は寮で食うのか」

『今日は夕方から任務なんだぁ。だから虎杖くんと食べて』

「分かった」





彼は表情を変えることなく、頷くと私の背中を見送った。そのまま私は任務へと向かうために車に乗り込むと中にはパンダ先輩が既に乗っていた。





『パンダ先輩!』

「おお!2年で一緒に行くって言ってたのは名前か。よろしくな」

『よろしくお願いします!』





隣に乗り込んで右手でモフモフと毛並みを楽しむ。うんうん、いい手触りだ。





「恵とは順調か?」

『順調、だと思いたいです』

「最近、恵が門で女と会ってるって噂が流れたのが原因か?」

『…まぁ、否定は出来ないですけど私が勝手に気にしてることなので』

「棘も心配してたぞ。最近、水やりの時に名前が元気無いって」

『狗巻先輩にお礼言わないとですね。心配してくれてありがとうって。それに最近、水やりサボっちゃってましたし』

「棘はしたくてしてる事だ。別に怒ったりしねぇよ」





そんな話をしながら任務地に着き、難なく任務を終えて車で高専に戻り、少し手前で下ろしてもらいパンダ先輩と歩いていると微かに声が聞こえた。





「よければこれ、授業で作ったんです」

「虎杖に渡しておく」

「あ、ありがとう、ございます、」






伏黒くんの声と女の子の声だった。それですぐにあの子だと気づく。すると私の隣にいるパンダ先輩が不安そうに私を見下ろすのが分かった。私はグッと唇を結んで、パッと顔を上げる。





『私、向こうから戻りますね!』

「名前、」

『お疲れ様でした!』





私はわざわざ裏門を目指して歩き出す。パンダ先輩は私を気遣ってか何も言わなかった。今はそれが有難かった。スタスタと裏門を潜り校舎裏へと移動して膝を抱えて座り込む。お尻が冷たかったけど気にしてられなかった。






『………伏黒、くん、』






お腹の辺りがグルグルと渦巻いてる。嫌な感じ。暗くて汚くて醜悪で重たい。私はどうしてこうなの。どうしてこんなに汚いの。




『……いや、…いやだ、いやだよ、』






離れないで、私だけを見て、他の子なんて見ないで。ずっと一緒に居て、愛して、私を、私だけをもっと、愛して、他の子を呼ばないで、見ないで、触れないで、笑いかけないで、話しかけないで、嫌だ、嫌だ、離れないで、死ぬまで、死んだ後も一緒に居てよ、縛り付けてよ、あなたの隣に、私を。狂ってしまうほど、私を愛してよ、






『…すき、だいすき、あいしてる、』





大好きなの、伏黒くんが、好き、大好き、あいしてる。ずっと一緒にいる、絶対に隣から離れたくない。離したくない。私の隣に縛り付けたい。私以外を見れなくしたい、私以外を呼べないようにしたい、私以外に触れられなくしたい。あいしてる、愛してるよ、言葉なんかじゃ足りない。行動なんかじゃ足りない、呪いだけじゃ足りない、





『…伏黒くん、…ふし、ぐろく、』





嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ





『ーっ、』





こんな汚い私なんか、消えちゃえ、居なくなれ、劣等感に押しつぶされそう。自分が嫌いだ。私なんか居なくなれ。消えろ。




死んじゃえ、






「………ツナマヨ?」

『っ、………狗巻、先輩?』





優しい声が響いて顔を上げると、狗巻先輩が私の顔を見て目を見開いていた。







ーー同時刻 東海林






「そういえば、あの子の運命の相手を見るのを忘れたな」






ふと思い出したように東海林は水晶を取り出して愛おしそうに撫でる。






「……………口に難があり、身体のどこかに蛇を刻まれ、大きな愛で包み込み、体全体で愛情を示してくれる男、ねぇ…?」






東海林は面白そうにそう呟くと、水晶を仕舞いながらひらりと姿を消した。



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