007
寮に戻って荷物をまとめていると扉が開かれ、明るい声が耳に響く。
「名前さ〜ん。手伝いに来たっスよ〜!」
『あっ、ラギーくん!』
「ってあれ?荷物少ないッスね」
『そんなに長くお世話になる訳にもいかないし…。本当に最低限でいいかなって。学園長にも早めに寮を直してもらえるように頼んでおいたし』
「ふ〜ん」
ラギーくんは少し考えるようにそう言うとスンスンと鼻を鳴らした。
「…この匂い」
『え?なにか匂いする?』
「…ここにストーカー来たんスよね?」
『…うん。そう、だけど、』
「あ〜、別に思い出させるつもりは無かったんスけど」
『へっ、平気だよ!』
「無理そうな顔してますけどね」
ラギーくんはキョロキョロと当たりを見回して、また私を見た。
「顔とかって見たんスか?」
『ううん。フード被ってて見えなかった』
「…レオナさんは犯人について何か言ってました?」
『えっと、もしかしたら、その、サバナクロー生、なんじゃないかって、』
「…へぇ」
『もちろん!サバナクロー生を疑ってる訳じゃないんだけど!』
「分かってますって」
ラギーくんは笑うと私の荷物を持ち上げ、歩き出した。
「まっ、レオナさんの近くに居れば大丈夫っスよ!流石にあの人のモノに手を出す馬鹿は居ないんで」
『モノ…、扱い、』
「シシシッ」
*****
『…え?』
「だーかーら!レオナさんの部屋に居候って形で住んでくださいっス」
『……もう1回、いいかな、』
「面倒っスね!とにかく!レオナさんの部屋で生活してください!それじゃあ!!」
『えっ!えっ!?ラギーくん!?』
そう言ってラギーくんは居なくなってしまった。残された私はレオナくんの部屋の前で立ち尽くすしか無かった。
「さっきからうるせぇな」
『レ、オナくん』
「さっさと入れ」
レオナくんは欠伸をしながら部屋に入ってベットに寝そべった。
『あの、他に部屋って……』
「あるにはある。けどオレの部屋から遠いぞ」
『…でも、』
「それに掃除もしてねぇから人が住める状態じゃねぇぞ。ラギーなら住めるって言いそうだけどな」
『…それは褒め言葉ではないよね?』
外は暗くなっていてレオナくんは眠そうにまた欠伸をしていた。
『…ソファ借りてもいい?』
「は?」
『流石に、布団も何も無いのに床はちょっと…、明日の仕事が不安というか…』
「ここで寝ればいいだろ」
『……は?』
そう言ってレオナくんは自分が寝そべっているベットをポンポンと叩いた。
『……レオナくんって冗談言えるんだね』
「誰が冗談を言ったんだよ。さっさと来い。眠ぃんだよ。オレは」
『いやいやいや!流石にそれはダメでしょ!』
「なんでだよ」
『つ、付き合ってないっ、男女が同じベットはまずいよ!』
「オレがオマエなんかに手を出す程女に困ってるとでも思ってんのか」
『…………………………デスヨネ』
一瞬でも自惚れた自分が恥ずかしくなった。
『…寝相悪かったら放り出してね』
「うるせぇし、しつけぇ」
レオナくんに背を向けて布団に潜り込むと、ふわりと彼の匂いがしてホッとする。
『…レオナくんの匂いって、安心する』
「あ?」
『安眠効果でもあるのかな』
「オレをなんだと思ってんだ」
『でも、本当に、安心する、』
さっきまで眠くなかったはずなのに段々と瞼が重たくなって瞳を閉じる。頭の片隅でヨダレ垂らさないようにしないとな、と考えるけど、調整出来るものでも無い。と諦めて思考を停止させる。
『レオナくんには、助けてもらって、ばっかり、だな、』
「ペラペラうるせぇ」
『このことが、落ち着いたら、お礼、しないと、』
「要らねぇよ」
『楽しみに、してて、』
「要らねぇっつってんだろ」
レオナくんの声が心地良くて、私はいつの間にか意識を手放していた。
*****
『………は?』
起きた時にレオナくんに抱きしめられていて酷く混乱したのは記憶に新しい。しかもご丁寧に尻尾まで巻きついていた。
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