残念 もう逃げられない

「レオナさん!いい加減にしてくれないと名前さんに全部話すっスよ!?」

「あ?」

「言われたくなければちゃんと練習には出てください!」

「…うるせぇな」

「オレだって色々手は貸したんスから!むしろお礼くらい貰ってもいいはずっスよ!?」

「わかったわかった、今度な」

「よっし!言質とったっス!」




ラギーはそう言って笑った。こいつがこんな事でキレている訳もなく、全てはこの褒美を貰うための演技だったのだろう。名前に話すと言ったのも本気ではなく、ただ褒美をあやかるためのネタ≠ノ過ぎない。こいつのこういう容量の良さがオレの気に入っているところでもある。




「それにしてもエグい事しますよね〜。ストーカーをでっち上げて名前さんを怖がらせるなんて」

「でっち上げては無ぇだろ」

「まぁ?本当にストーカーは居ましたけど、本当にただストーキングしてただけじゃないっスか。物は取ってないし、隠し撮りなんて事もしてない。すれ違う回数を増やしたり〜とかそんな可愛いストーキングっスよ」

「ストーカーに可愛いもクソもあるかよ」

「シシシッ、実際に物を取ってたのはオレで、その指示を出てたのはレオナさんっスもんね〜」

「何の話だかさっぱりだな」

「証拠さえ残らなければ、真実にはならないっスからね〜。学園長まで丸め込んじゃって。本当に悪どいっスね〜」

「あ?オレはクロウリーの学校経営の大変さを知って、優しさで手を貸してやっただけだ」

「う〜わっ、サラリとそんな嘘まで」





****




「おい、クロウリー」

「おや、キングスカラーくん。どうかしましたか?」

「オマエにいい話を持ってきてやった」

「…いい話、ですか」

「学園を運営するのって大変だよな」

「えぇ、まぁそうですね」

「何が大変って………、金だよな」

「……おやおやキングスカラーくん」

「条件はたった3つだ」

「聞くだけ聞きましょう」

「1つは名前をサバナクローに迎え入れること。2つはオレの可愛いオイタを見逃せ」

「ふむ…、1つ目はまぁ、飲みましょう。2つ目が少し問題ですねぇ」

「オイタっつってもそんなに大層な事じゃねぇよ。強いて言うなら正当防衛だ」

「なるほど…。まぁ良いでしょう!その条件を飲みましょう!それで残りの1つは?」

「アイツを…、名前をこの世界に留める事だ」

「…ほぅ?」

「名前が残ってくれた方がオマエの仕事も減るだろ。オマエもオレもwin-winの関係だろ?」

「…分かりました!全ての条件を飲みましょう!」

「はっ、最低な野郎だな」

「何を言いますか!生徒の願いを叶える!なんと良い学園長なんでしょう!!」



そう言ってクロウリーは大声を出して笑い、ピタリと笑いを止めると目を細めた。




「ほら、私、優しいので」


そう言ったアイツの顔は悪以外の何者でもなかった。



****



「片腕の調子はどうだ?」

「おまえっ、おまえは!!」

「本当なら全てを砂にしても良かったんだけどな。利用出来るもんは最後まで利用してやるよ」

「なんの、はなし、」

「名前は元の世界に帰りてぇみたいだけどな」

「…は、」

「オレがそんなの許すわけねぇだろ」

「っ、」

「可哀想だよなァ。帰りてぇのにオレがそれを邪魔してんだからなァ」

「おまえ!彼女のことが好きなんじゃないのか!」

「あ?」

「好きなら彼女の幸せの為に帰る方法を探せよ!なんでっ、なんで邪魔なんて!!」




キャンキャンうるさいこいつの顔を掴んで黙らせると、ヒュッと喉が鳴るのが聞こえて下がっていた気分が少しだけ良くなった。




「…オレがオマエと同じだと思うなよ?」

「ど、ういう、意味だ、」



口では虚勢を張っているが、体はカタカタと震えていてその姿が無様で笑えた。



「好きとか愛してるとかそんな安っぽい話じゃねぇんだよ」



歯をカタカタと音を鳴らしているこいつの頭を離して顔を覗き込む


「そんなに言うならオマエがあいつを救わねぇとなァ?」





言っただろ。利用出来るもんは最後まで利用するってな。




****


『レオナくんっ!!』


名前を呼ばれて口元が上がりそうになるのを必死に抑える。ここでわざとこいつに切りつけられたら名前はどんな顔するだろうか。それを想像してまた顔がニヤける。



『レオナ、くん』





泣き出しそうな顔に幸福感に包まれるのを感じる。こいつの目にはオレしか映っていない。それがどれだけオレを奮い立たせるかこいつは知らない。




『すきっ、だいすきっ、レオナくんがっ、居てくれてよかったっ、ほんと、に、すき、』




それを聞いて鳥肌が立った。やっと手に入れた。ずっと欲しかったものを、やっと、


恨めしそうに睨む男を名前にバレないように鼻で笑う。



「バカか」




騙す方が悪いんじゃねぇ


騙される方がバカなんだよ。





*****



「それで?もしかしたら今までやってきた悪行がバレたかもしれないっスけど?どうするんスか?」

「話した張本人がなに他人事決め込んでんだ」

「え?オレ何か手伝った方が良いっスか?」

「そんな楽しそうな顔をしてる奴に頼む程バカじゃねぇ」

「ちぇ〜」



ラギーから視線を逸らし、冷や汗を流しているであろう名前を見る。


「レオナさんがどうやって名前さんを丸め込むのか楽しみにしてますよ」

「はっ、言ってろ」

「うわ、わっるい顔」

「オレは忙しいんだよ。どっか行け」



さて、どうやってドロドロにしてやろうか




*****



「まっ、将来のレオナさんがどれだけグータラになってようと大丈夫っスよ!」

『…え?』

「それに気づかなければ幸せになれますよ」

『サボってるレオナくんって事?』




狂気それに気づかなければ幸せになれますよ






後ろから名前に近づいて肩に手を置くと、大袈裟な程に肩をビクリと揺らした。それを見て名前の耳元に口を寄せる。




「そんなに震えてどうした?名前」

『っ、レ、オナ、くん、』



振り返った名前と目が合い、涙を浮かべた瞳にゾクリと背筋が震えた。



「どうした?言ってみろ」

『レオナ、く、』





「オレが、助けてやるよ」







これが悪役オレ


本当のハッピーエンドだ




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