ほら余計な事を知っちゃった

「名前さ〜ん」

『ラギーくん?どうしたの?』

「いや〜?レオナさんとは順調っス?」

『…急になに?なんか裏でもあるの?』

「裏なんて無いっスよ〜。人聞きが悪いな〜、ってあれ?仕事じゃないんスか?」

『うん。学園長に頼んで貸してもらったの』

「ふ〜ん、元の世界に帰る為にっスか?」

『そう。ユウくんも色々調べてくれてるみたいで。私も頑張らないとなって』

「……へぇ。」


ラギーくんは私の前の椅子に座ると肘を付いてこの上に顎を乗せて私をジト目で見た。



『な、なに?』

「…レオナさんとデキてんのに帰りたいんスか?」

『……』

「恋人を置いて自分は元の世界に帰るんスか?」


私を責め立てるような口調で話すラギーくんにバクバクと心臓が早くなる。恐怖心なのか、それとも図星を付かれた気まずさからなのかは分からなかった。


『……』

「随分と白状なんスね〜。あんだけ助けてもらったのに自分は恩も返さずさようなら〜って?」

『……もちろん、恩は返したいと思ってる。レオナくんとラギーくんには本当に感謝してるの』

「じゃあその恩人のレオナさんに帰るなって言われたら?帰らないんスか?」

『……凄く、悩むと思う』



確かに心の何処かでは彼に引き止めて欲しいと思っている自分がいる。彼のそばに居たい。ずっと一緒に居たい。けれど、



『私は、帰ると思う』

「……レオナさんに言われても?」

『うん、帰るよ』

「どうして?」

『もちろんレオナくんは凄く大切だし、大好きだけど、…でも、それでも向こうの世界にも大切な人がいるの。親とか友達とか』

「レオナさんよりそっちの方が大事って事っスか?」

『…優劣は付けられないけど、でもそう思われても仕方ないっていうのも分かってる』

「…ふぅ〜ん」



ラギーくんは薄目で私を見ると、ふっと目を緩めて優しく微笑んだ。



「そこまで意思が硬いならオレは止めないっスよ」

『…ありがとう、』

「そんな名前さんに敬意を払って少しだけヒントをあげますよ」

『…ヒント?』



ラギーくんは元の世界の戻り方を知っているんだろうか?と思いながら彼を見つめると、目尻を下げて笑った。その笑顔があまりにも慈愛に満ちていて胸がドキリと音を立てた。



『ラギー、くん?』

「名前さんは可笑しいとは思わなかったんスか?」

『…え?』



突然の言葉に呆けたような声が出て恥ずかしくなったけれど、ラギーくんは気にした様子もなく私に向かって人差し指を立てた。



「ひとつずついくっスよ?」

『え、ラギーくん?』

「まずひとつめ。レオナさんにストーカー被害を話してから変わった事はありませんでした?」

『え?…かわった、こと?』

「視線を感じなくなった、とか」

『それはレオナくんがそばに居てくれたからでしょ?』



中指を立て、2本の指を立てる。


「そんじゃ、ふたつめ。レオナさんからリング貰いましたよね?防御魔法を込めた」

『う、うん。貰った、けど、』



ラギーくんが何を言いたいのかが分からなくてしどろもどろになりながら答える。



「貰ったその日に襲われるなんて変だと思わなかったっスか?」

『………え?』

「そもそも、あの寮には学園長が施した防御魔法が張ってあったのになんでストーカーは寮に入れたんスかね?」

『へ、』

「あんなデカい魔法を解けるのなんて寮長レベル…、しかも寮長の中でも魔法を知り尽くしてる人だけっスよ?……そんなこと出来るのって誰なんスかね?」

『ちょっ、ちょっと待ってよ!』



ラギーくんは私の言葉を無視して薬指を立てて、全部で3本の指を立てる。





「みっつめ。オレが名前さんが住んでた寮に行った時、匂いについて言ったっスよね?」

『確かに、言った、かも』

「レオナさんはサバナクロー生だって言ったんスよね?」

『可能性があるって、』

「オレが感じたのはサバナクロー生とは違う匂いだったんスよ。サバナクロー生は少なからず獣臭がするんですよ。それを獣人オレたちが間違える事は無いんスよ。これは断言出来るっス」

『で、でも、レオナくんは、』



私が口を開くとラギーくんは遮るように小指を立てる。


「よっつめ。レオナさんが切りつけられた時変だとは思いませんでした?あのレオナさんっスよ?不意打ちとはいえ素人のナイフ捌きを避けられないって本気で思ってるんスか?」

『ま、待ってよ、ラギーくん、何を、』




私の額から汗が吹き出る。嫌な汗が流れ落ちる。気持ち悪い。まるで水の中に居るような気分になる。息が苦しい。




「あっ、これは関係無い話なんスけど!レオナさんって本当にお金持ってるんスよね〜!」

『…え?』



突然の話題に頭がついていかない。そんな私に気づいているのか分からないけどラギーくんはニコニコと笑っていた。



「あの人、お金は勝手に湯水のように湧いてると思ってるんじゃないかってくらいに羽振りが良すぎるんスよ〜」

『ラ、ラギーくん、待って、なんの、話を、』

「ところでこれも余談なんスけど、最近は学園長も羽振りが良いんスよ!教室をリフォームしたり、学園長室の壁紙変えたりとか他にもいろいろ。……まぁそんな話はどうでも良いんスよ!」




ラギーくんはふっと表情を潜めて、口元だけをゆっくりと持ち上げて笑った。笑っているのに射止めるような視線に心臓が嫌な音を立てる。




「最後のヒントっスね」

『や、めて、』

「名前さん、その学園長に借りた本って、」

『ラギーく、ん、』



ラギーくんは立てていた指でスっと本を指さしたけれど、それを目で追っている余裕なんて私には無かった。




「本当に元の世界に帰る為の本なんスかね?」








ピキリと心臓が音を立てた。





『ラ、ギー、くん、』







私が呼ぶと彼は席から立ち上がって、頭の後ろで頭を組むとシシシッと笑った。いつも可愛いと思える笑い方も今では死刑宣告の様に重たく私の耳に響き渡る。






「帰れると良いっスね!元の世界にっ!」






*****





「おいラギー」

「レオナさんがこんな所に居るの珍しいっスね〜」

「はっ、オレが居るのを分かってて名前に話したんだろうが」

「あれ?バレちゃいました?」




オレが悪びれも無く笑うと、レオナさんは予想通りというか、余裕そうに笑っていた。




「どうせ今更事実を知った所でアイツが頼れるのはオレしか居ねぇ」

「本当に歪んだ愛っスね〜」

「それに手を貸したのはオマエだろ」

「それが弱肉強食ってモンでしょ?弱い人間は強い人間に利用されるか、駒にされるかの2択で、弱い人間を使う強い人間に使われるのが1番利口っスよ」

「はっ、こいつの何処が可愛いんだよ」

「シシシッ、オレは自分を可愛いなんて言った覚えは無いっスよ?勝手に周りが言ってるだけで」

「オマエ本当はオレより悪どいんじゃねぇのか?」

「そんなことないっスよ!……でも、まぁ仕方ないっスよね〜」



だってオレ達は、





悪役ヴィランなのだからーーーー






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