ここでやめておきなよ
「はい、そこのおふたりさん。イチャイチャするのも良いっスけど、目の前に半分凍らされてる人がいる事をお忘れなく」
『ラ、ラギーくんっ、』
「…邪魔すんなよ」
「邪魔って…、目の前にもう1人居るんスけど?」
そう言ってラギーくんは男の子の前に立って、瞳の前で片手をヒラヒラと左右に揺らした。
「意識はあるっスね〜。早くしないと凍死しちゃうっスよ〜。ほらレオナさん魔法解いてください」
「…チッ」
レオナくんは大きな舌打ちをすると、魔法を解いたのか氷がパラパラと溶け始めた。ラギーくんは手際良く男の子を縛るとこちらに振り返った。
「とりあえず学園長の所に連れて行くっス」
「さっさと行け」
「はいはい。お邪魔してすみませんでした〜」
『ちっ、ちがっ、』
「いやいや、否定したところでおふたりがあつ〜いキスを交わしてたのは見てたんで」
『っ、ラギーくん!』
「お〜こわっ」
怖いなんて思ってない事を隠そうともせずにニヤニヤと笑ってユニーク魔法を発動させて男の子を連れて行くラギーくんを睨みつけていると、不意に太ももに違和感があって見ると尻尾が巻き付いていて、腰にも手が回されて引き寄せられる。
「いつまでラギーを見てんだ」
『…レ、レオナくんは、恥ずかしくないの?き、きす、見られたこと、』
「あ?別に」
『つ、強いね…、』
本当になんとも思っていないのか、表情を崩す事無く言い退けるレオナくんとは対照的にいつまで経っても引かない顔の赤みを無くそうと必死に手を当てて温度を下げる。すると手の上に柔らかい感触を感じて視線を向けるとレオナくんが瞳を閉じて私の手の甲に唇を落としていた。
『なっ、なにっ、』
「言っとくが、オマエはオレのモンだ」
『え、…え?』
「他の雄に尻尾振るんじゃねぇぞ」
『振らないし、振った覚えもないよ!』
「なら良い」
そう言ってレオナくんはふっと笑った。
*****
レオナくんとお付き合いを初めて知ったことがある。彼は意外と甘えるのが好きらしい。
『…ちょっと仕事しづらい、かな』
「知るか」
私が仕事をしていると隣にやってきて方が触れ合うくらい近くに座るし、基本的に私の体のどこかに彼の尻尾が巻きついている。
『…レオナくんって、本当に私の事好きなんだね』
「あ?」
『私は嬉しいけど…、気を許してくれてるみたいで』
レオナくんは警戒心が強いのか、信頼の置ける相手しか近くに置かないイメージがあったから私を信頼してくれたようで隣に来てくれるのが凄く嬉しかった。
「あ!いた!!レオナさん!!」
「…うるせぇのが来た」
「うるさく無いっスよ!!今日はちゃんとマジフトの練習に出てもらいますからね!」
「面倒くせぇ」
そう言ってレオナくんは私の手首に尻尾を巻き付けた。それを見たラギーくんは私の方に矛先を変えたようだった。
「名前さんが甘やかしすぎなんスよ!」
『わ、わたし?』
「そうやって甘やかすからレオナさんが余計に調子に乗ってサボるんス!」
「別にこいつのせいじゃねぇだろ」
「仲が良いのはいい事っスけど、やることはやってもらわないと!ほら!名前さんからも言ってください!」
『え、えぇ〜…。でも、レオナくん腕怪我してるし…、』
「平気に決まってるでしょ!大して傷も深く無いんスから!名前さんが怪我してる事に責任感じて何も言えないからって堂々とサボらないでください!」
『そ、そんな事は、』
「あるでしょ!現に強く言えないでしょ!」
『ぅぐっ…、』
ラギーくんもイライラしているのか腰に手を当てて尻尾をバシバシと揺らしていた。
『レ、レオナくん、』
「……はぁ、うるせぇな。分かった」
レオナくんはガシガシと頭を掻きながら立ち上がった。
「着替えてくる」
「早くしてくださいよ!?」
「うるせぇな」
本当に面倒臭そうに欠伸をしながら部屋を出ていくのを見送ると、ラギーくんが大きなため息をついた。
「はぁあぁあ…、名前さんと付き合って丸くなったと思ったらサボり癖が酷くなったんスけど」
『私に言われても…、』
「今のうちからあんなにグータラしてるのを見ると将来不安にならないんスか?」
『将来?』
「ほら、名前さんが夢見てる乙女チックな結婚生活っスよ」
『あ、悪意を感じる言い方…』
「今以上のナマケモノになったら乙女チックな結婚生活なんて送れないッスよ?あるのはレオナさんのお世話をするだけの生活っスね」
将来が真っ暗でお疲れ様っス、とラギーくんは意地悪に笑った。
「まぁ、レオナさんの事だからある程度の保証はされてると思いますよ。ほら、あの人第二王子だから。金は溢れるほどあるんスよ」
『…本当にラギーくんには夢がないな〜』
「そんな事ないっスよ!オレにはオレの幸せな未来予想図っていうものがあるんで」
『…でも、私は、』
私はいつか、元の世界に帰らなくてはならない。きっと、ずっとレオナくんと一緒に居ることなんて出来ない。それをレオナくんも分かっているから今を大事にしてくれているんだと思う。
「まっ、将来のレオナさんがどれだけグータラになってようと大丈夫っスよ!」
『…え?』
「それに気づかなければ幸せになれますよ」
『サボってるレオナくんって事?それはもう知っちゃってるから遅いかな〜』
そう言うとラギーくんは、シシシッっと笑った。
「名前」
『あ、レオナくん、』
「マジフトの練習が終わるまで待ってろ」
『うん、わかった!』
今はまだ、こうして彼の隣に立って、手を繋いでくれる彼さえいれば、それだけで酷く幸せだ。
レオナに助けてもらう話
ーENDー
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