008





レオナくんの部屋でお世話になってから2週間が経って、寮での事件の恐怖を忘れ始めた頃に彼にお礼を述べた。



『学園長が言うにはもうすぐ寮が直るみたいなんだ。だから明後日には自分の部屋に戻れると思う』

「あ?」

『本当に長い間お世話になっちゃってごめんね!学園長が魔法でちょちょいっと直してくれればよかったんだけど…』



そう言うとレオナくんはベットの上で鼻を鳴らして尻尾をビタンと1度だけベットに叩きつけていた。



「まぁ、良いんじゃねぇの」

『お礼は必ず』

「本当にしつけぇなテメェは」



レオナくんが許可をくれることで酷く安心した。もうあんな事は起こらないのだろうと。





*****




「で?どうっスか?久しぶりの1人の生活は」

『どうって…、特に変わらないかな…。以前の生活に戻っただけで…』

「へぇ〜。甘ちゃんな名前さんの事だから、レオナくんが居ないと眠れな〜い、とか言ってんのかと思ったんスけどね」

『…だからそれ私?似てないよ…』

「自信作なんスけどね〜。仕事も順調そうで良かったっス」

『心配してくれてありがとう!もう平気だよ!』

「いや、オレは別に心配してないんスけど」

『え?』

「レオナさんが名前さんの様子見てこいってうるさいんスよ。あぁ見えて心配してるんでしょうね」

『……』

「…そんな恋する乙女みたいな顔しちゃって!あーぁやだやだ!空気がピンク色で居心地悪いんでオレはもう行くっスね!じゃあまた」

『恋っ!?ちっ、違うからね!?ラギーくん!?』



ラギーくんが去って行って、両手を頬に当てると熱くて、胸の鼓動も早くなっている気がした。



*****




「…名前、さん、」

『え?』



夕方に資料を持ちながら廊下を歩いていると後ろから不意に名前を呼ばれて振り返ると、そこにはあの男の子が居た。



『…え゛、き、みは、』

「名前さん、名前、さん、」

『なん、でっ、やだっ、来ないでっ、』




男の子は片手を伸ばすと私の手首を掴んだ。その拍子に持っていた資料がバラバラと地面に広がって落ちてしまったけどそんな事を気にしている場合では無かった。


「危ないんです…、本当に、」

『離してっ、やだっ、』



なんでレオナくんが近くから居なくなると、悪い事が続くのか。


「ボクと一緒にっ、逃げましょう、あいつらは危険だ、ボクと、ボクと一緒に、」

『やだっ、離してっ、っ、こわ、い、』




グイグイと腕を引かれる。必死に足に力を入れるけど体は前に引っ張られる。段々と散らばった資料達から遠ざかって行く。


『離してっ、やだっ、』

「ボクが名前さんを、救ってあげるんだ、ボクがっ、」

『たすけてっ、やだっ、』

「大丈夫、ボクが、救ってあげる、大丈夫だよ、」



男の子が角を曲がると、廊下は真っ暗でこのまま進んだらマズいと脳の警報が音を立てる。けれど次の瞬間に低い声が廊下に響いた。



「よぉ。また会ったな」

「っ、おまえっ、」

「片腕じゃあ足りなかったか?それなら残ってる片腕も砂に変えてやろうか?」

『レオナくん、』



ずっと頭の片隅で考えていた。彼なら助けてくれるんじゃないかって。どこに居たって見つけてくれるんじゃないかって。




「危ないんだっ、こいつの傍にいたらっ、だめなんだ、だから、だからぼくがっ、」

「妄想もここまで来るといっそ清々しいよなァ?」


そう言ってレオナくんは笑うと、ふっと、顎を引いて彼を睨みつけた。



「誰の許可を取ってそいつに触ってんだ」

「っ、」


レオナくんの殺気にも似たものに男の子は少しだけ後ずさると私の腕にギュッと力を込めた。


『痛っ、』

「ボクが救ってあげないと!ボクが!ボクだけが彼女を救えるんだ!!だからっ、だから邪魔をするなぁっ!!!」

「オマエは余程馬鹿らしいな。オレに勝てるわけ無ぇだろ」



男の子は私の腕を掴んでレオナくんの方に走り出して魔法を出した。けれどレオナくんに勝てるはずも無く防御魔法で打ち消されてしまう。



「……」

「ざまぁねぇな」

「…っ、」

『…レオナくん!!!』




男の子は隠していたナイフを取り出してレオナくんに振り被り、切りつける。咄嗟に腕で防いだけれど彼からは血が出ていた。



「…テメェ」

「っ、おまえがっ、お前が悪いんだ!ボクが彼女をっ、オマエらから救ってやるんだ!!」

「チッ、」


レオナくんは大きく舌打ちをすると、魔法を出して男の子の足元を凍らせた。



「くそっ、くそっ!!おまえらが!!おまえが!!」

「…うるせぇ。黙ってろ」



男の子の口元にも氷が現れて口を塞ぐ。それでも声を出し続けているのか鼻息が荒くなっていた。



『レオナくんっ!!』




慌てて彼の元に寄って、腕を確かめる。血はまだ流れていて止まる気配が無かった。



『どっ、どうしよっ、私のっ、私のせいでっ、』

「…落ち着け、これぐらい何ともねぇよ」

『血がっ、どうしよっ、ごめ、ごめんねっ、私のっ、私がっ、』

「……名前、」

『え、』



初めて名前で呼ばれて顔を上げると、額に温かいものが触れて、直ぐに離れた。レオナくんが近くにいて、キスされたのだと気づく。



「…落ち着け」

『レオナ、くん、』

「血が出てるだけで、大して深い傷じゃ無い。こんなもんじゃ死なねぇよ」

『レオナく、…レオナくんっ、』




頬を優しく撫でられて、そのまま頭を撫でられる。それだけで私は酷く安心してレオナくんに抱きついてしまった。




『よかっ、良かったっ、生きてるっ、レオナくんっ、よかっ、』

「腕切られたくらいじゃ死なねぇよ。オレはオマエと違って貧弱じゃ無ぇ」



彼はそう言って笑うと、私の頬を持ち上げた。






「…無事で良かった」

『っ、』





酷く安心したように、優しく言うもんだから、またボロボロと私の瞳からは涙が溢れた。



『レオナくんっ、』

「はぁ…、何回呼ぶんだよ。どんだけオレの事好きなんだよオマエは」

『すきっ、だいすきっ、レオナくんがっ、居てくれてよかったっ、ほんと、に、すき、』

「バカか」




そう言ってレオナくんは優しく笑って私の唇に酷く甘いキスを落とした。


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