透けて消えるまばたき

シャレにならないミスをしてしまった。




「ちょっと!早く資料!」

「あと10分はかかります!」

「駄目!あと5分で仕上げて!」





大手の取引先との打ち合わせの資料を作り忘れ、使うデータも間違えて消した。私の周りでたくさんの人が慌ただしく動いてくれているのに私は動けずにボーッとしてるだけ。頭では動かないとって分かってるのに体が動かない。




『……っ、』





寒気がして肩を震わせると後ろから人間のものでは無い腕が私の両脇から現れてた。私の体をまさぐってゆっくりと上にあがってきて私の顔をベタベタと触れる。そして骨ばった指が私の口をこじ開けて奥まで差し込まれる。





『っ、ゥグェェッ…!』

「苗字さん…!?」

「苗字さん!」






地面に倒れ込むと遠くから名前を呼ばれる。でもどんどん瞼は下がって完全に意識が落ちる直前、彼の姿が見えた気がした。





『…ふ、…しぐろ、く、』





もしかして、あなたなの、






***




目を覚ますと知らない天井だった。匂いからして病院なんだろうなって思った。


『………ん、』

「苗字!大丈夫…!?」

『………田中、くん?』






私が上体を起こすと、彼は優しく背中に手を当てて起こしてくれて重たい体を起こす。





『………打ち合わせは?』

「どうにか間に合ったよ。みんな苗字ばっかりに頼りすぎたって反省してる」

『……ごめんなさい、』

「なんで謝るんだよ。まぁ体調は自己管理だからな。ちゃんと休めよ?」

『……うん、』





私が俯くと田中くんは私の頭を撫でた。そのままにされていると不意に田中くんが真面目な声を出した。




「…俺で、良ければ聞くけど…、」

『…え?』

「苗字って色々我慢するだろ?だから、俺でよければ話聞く」

『…ううん、大丈夫だよ。ただの体調不良だから』

「何かあったんだろ?苗字は人を頼らないからなぁ、」

『本当に、ただの体調不良だよ、』

「苗字はいつも周りを見てるからなぁ、自分に関して関心無さすぎるんだよなぁ」

『…た、田中くん?』





目が合ってる筈なのに何処か目が合わない田中くんに私は恐怖を覚えて、わざとらしくない様に頭に置かれた手を外すとガシッと腕を掴まれる。





『っ、な、なに…?痛いよ…、』

「苗字は前から伏黒しか頼らないからなぁ」

『ふっ、伏黒くんは関係無いでしょ…!』

「……ほら、アイツの名前を出しただけで目の色変えた」

『そ、そんな事っ、』





ナースコールで人を呼ぼうか迷ったけど、会社が同じな事を思い出して留まる。




「でも、苗字は俺の事愛してくれてるもんな…」

『……は、』

「スマホの暗証番号も俺の誕生日なんだろ…?可愛いなぁ…」

『なんで、スマホの番号知って…、』




それに私のスマホの暗証番号は中学校の時から伏黒くんの誕生日だ。そんな番号にしてる自分が気持ち悪いけど。私が目を見開くと田中くんは恍惚とした表情を浮かべて嬉しそうに笑った。言葉と顔が合ってない。




「可愛いなぁ…、俺の事大好きだなぁ…」

『たっ、田中くん…?どうしたの?』

「名前…、名前っ…、」

『わ、私っ、気分悪くなったから、せ、先生呼んで来るっ…、』





私が手を払ってベットから降りようとした時、顔に痛みが走ってそのすぐ後にお尻に痛みが走った。





『………え?』

「あぁ、ごめんな…?でも名前が逃げようとするから…、痛かったよな?ごめんなぁ、」




私は自分の左頬を抑えると微かに腫れていて、唇からは血が出でいた。それで殴られたんだって気づいた。私は必死にお尻を引きずりながら下がると田中くんはユラユラと体を揺らしながら私に近づいて私の目の前にしゃがみ込んだ。






「名前、俺のために伏黒に会うのやめてくれたんだよな?嬉しかったぞ?やっぱり俺は愛されてるなぁ」

『な、なんで、』

「会社で伏黒の匂いをさせてた時は流石に頭に来たけど…、でも嫉妬させたかったんだよな、俺に。そう思ったら可愛くて怒れなかったよ…」

『ヒッ…、』






田中くんは私の頬を両手で包み込むと私の腫れた頬をグリグリと刺激した。頬に鋭い痛みが走って反射的に田中くんの手を掴むと彼は至極嬉しそうに笑った。





「…やっぱりな、俺の事好きなんだよなぁ、だって俺たちは出会った日から恋人だもんなぁ」

『い、痛いっ…、』

「好きだよ、名前、ずっと…、」







田中くんは震える私の体を抱きしめると耳元でねっとりと熱を含んだ声で言った。






「愛してるよ…、……犯したいくらいにっ、」





その言葉に何故か頭が真っ白になって彼を引き剥がそうとしていた手から力が抜けてダラリと地面に落ちる。抵抗しないとと分かっているのに、なのに体が言うことを聞いてくれない。



そして私がゆっくりと瞬きをした瞬間、視界が一瞬で真っ黒に染まった。






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