どこにもない心臓のゆき先
私は高校を卒業して大学に進学をした。キャンパスライフはそれなりに楽しかったし、彼氏だって出来た。長続きはしなかったけど、円満な別れ方が出来た方だと思う。
合コンとかだって行った。意外と楽しかった。男の子は優しくしてくれるし、連絡だってすぐに返してくれる。次第に私は伏黒くんのことを過去の事にできた。
最初の一年はただただ辛かった。ふとした時に今彼は誰といるのかな、彼女と笑ってるのかな、なんて思ってひとりで泣いた。
でも二年目には少し楽になって、三年目には忘れ始めて、四年目の20歳の誕生日の時にはすっかり忘れてた。
「ねぇねぇ、あれって伏黒くんじゃない?意外…、同窓会とか来るんだ…」
『…え?』
友達に言われて顔を上げると、確かに成人式には無かった彼の姿があった。中学の時より伸びた背に、少しだけ短くなった髪の毛。確かに伏黒くんだった。
「…ってこっち来るんだけど…!私何かした!?」
『何もしてないよ…』
彼は会場に現れるなり、一直線に私たちの元へと来てジッと私を見つめた。久しぶりだな、この感じ。
『久しぶりだね、伏黒くん。元気だった?』
「……そこそこ」
『そっか。私もそこそこ元気だったよ』
伏黒くんは何処か私を責めるように見つめている気がした。私は口をつけていないで持っていただけのお酒を伏黒くんに渡すと彼は素直に受け取った。誕生日は迎えてるはずだから渡しても大丈夫なはずだ。
「苗字、雰囲気変わったな」
『そりゃあ4年近く経てば雰囲気くらい変わるよ。伏黒くんも丸くなった?』
「……横にか?」
『そんな焦った顔しなくても違うよ…、雰囲気の話だよ』
彼女さんのおかげなのかな、なんて考えてあまりショックを受けていない自分に大人になったな、と思う。今なら伏黒くんともちゃんと友達になれそう。
「苗字、次何飲む?」
『んー、私あんまり強くないから度数低いのがいいな』
「分かった」
合コンに行ってても成人したばかり。お酒はあまり得意じゃない。だから合コンに行っても私はほとんど飲まない。もう少し強くならないとなぁ。なんて思いながら伏黒くんにお酒を渡される。
『これ紅茶?美味しい…』
「…紅茶」
スっと視線を逸らした伏黒くんが気になったけど、別にいっかともう一口飲み込む。そこで彼があまり飲んでいないことに気づいた。
『伏黒くんあんまりお酒好きじゃない?』
「好きでも嫌いでも無い」
『参加費払ってるんだから飲まないと勿体ないよ』
「食べ放題かよ」
『正しくは飲み放題だよ』
伏黒くんは中学生の時と同じように少し鼻を鳴らして笑った。でもその表情はやっぱり何処か大人びていた。
お酒のせいか、酷く懐かしい感覚に陥ってしまった。彼のことが好きだった頃みたいな感覚。これが同窓会の怖いところか。なんて回らなくなり始めた頭で思った。
『……………あれ、』
気がつくと私は知らない部屋にいて、酷く声が枯れていて顔を横に向けると伏黒くんが眠っていた。思わず出そうになった声を抑えてまずはシーツを軽く捲り服装を確認する。おーけー、何も着てない。……何も着てない…?
『………嘘でしょ、』
私は上体を起こして項垂れると、隣から小さく身動ぎした声が聞こえてビクリと体が揺れた。
「……ん、」
『………』
ここが何処なのかは分からないけど、とりあえず逃げることだけに集中しよう。私はそろりとベットから出るために足を床につけようとした時、腕を掴まれて強く後ろに引かれてベットに逆戻りしてしまった。あまりの早業にパチパチと瞬きをすると伏黒くんが私を見下ろしていた。
「……どこ行くんだよ」
『……おはよう、伏黒くん』
「はよ、」
そのまま伏黒くんはもう一度ベットに寝てしまい、私を抱きしめて眠った。おはようの意味とは?というかこの状況は何?どうして普通に寝始めてるの?というか伏黒くんはなんで裸なの?
『ふ、伏黒くん、』
「…あと、5分、」
『…………』
私は諦めて彼の腕の中で瞼を閉じた。諦めて、なんて言ったけど本当はこの温もりを手放したく無かっただけかもしれない。
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