不定の春をいくつも並べて
人生で最も人を好きになったのはいつ?と聞かれたら私は迷わず中学2年生の時、と答えるだろう。
中学の時の恋なんて…、という人は勿論居るけど成人した今の私が言うのだ。少しの説得力はあるでしょ。
『伏黒くんは高校どこにするの?』
「呪術高専」
『……そんな高校あったっけ?』
「都立」
『……東京?』
「そう」
『じゃあ離れちゃうね。寂しいから連絡してもいい?』
「別にいいけど」
私たちはきっと両想いだったんだと思う。学生によくある何となくそうなんだろうなぁ、みたいなやつ。けど、どちらからも好きとは言わなかった。その時の私はそれでも充分だったし、幸せだった。だから、お互い何も言わなかった。
「名前同じクラス!」
『やったぁー!』
「あ、それに田中くんもだ。それに佐藤くんもこの学校だったんだね」
『私話したことないや』
なんて在り来りな話をしながら私の高校生活はスタートした。けれど頭からは伏黒くんの事が離れなかった。居るわけないのに彼の姿を探してしまう。
『伏黒くん!』
「なんで走って来んだよ」
『だって、伏黒くんが、もう、来てたからっ、』
「息上がってんじゃねぇか」
久しぶりに見た伏黒くんは少し背が伸びたようだった。高校1年生の夏に私が無理矢理誘って夏祭りに来ていた。最初は渋られたけど、どうにか押し切った。
『うわー!人凄い!』
「………」
『まぁまぁそんな嫌な顔しないで!花火始まれば人だって減るよ』
「苗字は花火見に来たんじゃないのか?」
『んー、花火より屋台かなー』
「相変わらずだな」
鼻を鳴らして笑った彼に、本当は花火とか屋台なんてどうでも良くて伏黒くんに会いたかっただけだよ。って言いたかったけど、臆病な私は言えずにただ彼と足並みを揃えて煌びやかに彩られた道を歩くことしか出来なかった。
『急に寒くなったねぇ』
「秋なのにここまで寒いって何?地球温暖化?」
『それは温かくなることだね…』
そんな会話をしながら学校帰りに友達と寄り道をしていると、未だに追いかけ続けている背中が見えて声をかけようと手を上げた時、彼の隣に可愛い女の子が現れた。
「ちょっと!私荷物あるんだから少しくらい持ちなさいよ!」
「自分で買ったんだろ…」
呆れながらも荷物を持ってあげる伏黒くんに私の歩みは止まって上げていた手も変なところで止まった。すると隣に居た友達が口を開いた。
「あれって伏黒くん?」
『そう、だね』
「名前仲良かったよね?声掛けないの?」
『……うん、女の子と、一緒みたいだし』
「え?……本当だ。あれは彼女だね。距離が近い。伏黒くんって彼女居るんだ、なんか意外」
『………そうだね』
本当は何処も意外じゃなかった。だって伏黒くんは本当に凄く優しい人だから。確かに色々な人と喧嘩とかはしてたしボコボコにしてたけど、それでもあの人の根っこは凄く優しかった。少なくとも、私には。
『…彼女、いたんだね』
「ねぇー!意外や意外だ」
『意外、だね…』
勝手に裏切られた、なんて思ってる自分に嫌気がさした。別に伏黒くんは一度だって私に好きとか付き合おうなんて言ってない。私たちの関係は友達。それを勝手に勘違いして両想いなんて思ってた私が悪い。そもそも両想いだったとしてもそれは中学生の時の話。好きな人なんて変わるもの。
頭では理解してる。けれど体は正直で、私は伏黒くんに連絡することを止めた。
元々、私から連絡しなければ彼から連絡が来ることも無い。
もしかして連絡しなくなったら彼から連絡が来るかもなんてちょっぴり期待していた私は本当に可愛かったと思う。
でも私たちの関係はそこで終わった。
← ∴ →