蝶を結ぶシルエット(完)
「というわけでリモート飲み会を開催しまーす!」
「どんなわけだよ…」
「でもそんな事言いながらも伏黒は参加してくれるよな」
釘崎から急に連絡が来たと思ったらリモート飲みかをするって言われて俺は慌てて任務を終わらせて酒を買ってワクワクしながら席に着いたのに伏黒はコーヒーカップを手にしてた。なーんだ酒じゃなくても良かったのか。
「…まぁ、今日は俺も話すことあったし」
「へぇー、珍しいな」
「なによ?彼女と別れた?ププー!まっ、7年ならアンタの無愛想にしては持ったほうねー」
「違ぇよ」
伏黒は青筋を浮かべながら否定するとまたコーヒーカップに口をつけた。俺は買ってきた酒のプルタブを折るとカシュって気持ちいい音を立てた缶を一気に煽る。
「…………ぷはぁっー!!美味っ!」
「うわ、親父くさ…」
「だって俺らもう27歳だよ!?もうすぐ三十路じゃん!」
「思い出させんな!馬鹿!」
「えっ、ごめん…?」
俺が反射的に謝ると釘崎もグビグビと持っていたチューハイを飲んだ。いつも思うけどいい飲みっぷりだ。伏黒は無表情のまま立ち上がって姿を消した。俺と釘崎で首を傾げていると、少しして女の人の声が聞こえた。…え?
『ちょっ、ちょっと!今ネイル塗ってるのに…!』
「そんなの後でいいだろ」
『そんなの…!?っていうか伏黒くんはリモート飲みしてるんじゃなかったの!?』
「してる」
『えぇ…!?』
伏黒がまた画面に現れたと思ったら腕の中には知らない女の人がいて、伏黒に抱えられたまま膝の上に座らされて左腕でがっしり固定されてた。…えっと、誰?
「伏黒?それ、えっと…、どちら様…?」
「…7年付き合ってる彼女…!?」
『…あ、伏黒くんの彼女さん』
「違ぇって言ってんだろ」
「…まさか今の私の事じゃ無いわよね…?私に言ってたら新手の悪口ととっていいのかしら」
「それは伏黒に失礼じゃね…?」
伏黒は多分彼女の子の頬を引っ張るとそのまま顔だけを俺たちに向けて口を開いた。
「俺の嫁」
「…え?」
「…は?」
『…へ?』
「…いや、なんで嫁本人が驚いてんのよ」
『…い、今、聞きました…』
「結婚するから、俺ら」
『えぇ…!?』
伏黒のお嫁さん?みたいな人は驚いた様に伏黒を見ていたから本当に今聞いたんだと思う。俺も驚いたし。
「まじか!伏黒おめでとう!」
「おう」
「奥さんは?呪術師なの?」
『……呪術師?』
俺の言葉に彼女は首を傾げてしまった。……えっと、これはもしかして、伏黒サン…?
「アンタ彼女に呪術師のこと話してないの…!?」
「それはダメだろ!話さないと!」
「結婚したら話す」
「それじゃあ遅いって言ってんのよ!馬鹿なの!?」
「結婚してからじゃねぇと逃げられたらどうすんだ」
「………」
「………」
『え?…え?何の話…?伏黒くん、何の話?』
「婚姻届出したら話す」
『えぇ…?』
まぁ、何となく気づいてたけど、こういう所を見ると伏黒も呪術師だよな、って思う。
『気になるんだけど…!』
「この色可愛いな」
『今はネイルなんか後でいいの!』
「なんかって言うなよ」
伏黒は彼女の手を取ると指を絡めて頬を緩めていた。そんな伏黒を見たのは初めてで俺も釘崎もポカンと口を開けてしまった。
伏黒も幸せそうだし、まぁ、うん、あれだ。
「お幸せに」
でも、呪術師の事は結婚の前に言ってあげた方がいいと思う…。
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