運命を宝石にして胸に飾るなら




「……苗字、俺の彼女じゃねぇのか」

『伏黒くんには彼女いるでしょ…?』

「だから苗字だろ」

『………え?』

「…は?」





私は両手で頭を抑えてグルグルと思考を巡らせる。どうしてそんな事になっているのか皆目見当もつかない。すると伏黒くんは私の腕を取った。顔を上げると不機嫌そうに顔を歪めた彼の顔が街頭に照らされていた。





「彼女じゃねぇってどういうことだ」

『わ、私が聞きたいよっ、私がいつの間に彼女になったの、』

「3年前だろ」

『……3年前!?』




私が驚くと更に彼の顔は不機嫌に染まっていった。私はパニックに陥ってしまった。





『さ、3年前…?あれ?3年って何年?何日?何秒だっけ?あれ?』

「同窓会で会った後に付き合っただろ」

『……同窓会…?』

「………オマエ、まさか、」






同窓会の記憶なんてほとんどない。気づいたら私は伏黒くんの部屋に居たんだから。そんな私の様子に気づいたのか彼は目を見開いた。





「おまっ!本当っ!……有り得ねぇ…」

『え?…え?ご、ごめん、』

「分かってないのに謝るな」

『………はい、ごめんなさい、』





私が謝ると伏黒くんはガシガシと自分の頭を掻いて深い溜息を吐いた。今まで見たことないくらいの深さだった。すると彼はポツリポツリと語り始めた。





「……同窓会の後に、オマエがベロベロに酔ってるから俺が介抱した。けど家知らねぇし、ホテルに行く訳にもいかねぇから俺の家に連れてった」

『そ、それは多大なるご迷惑を…』

「そしたらオマエがキスしたいって言うから、」

『………多大すぎるご迷惑を、』

「だから、俺はオマエに聞いたんだよ。俺の事好きなのかって。そしたらオマエが泣きながら俺の事中学の時からずっと好きだって…、」

『……………土下座します』

「すんな。…それで、俺も中学の時から苗字の事好きだって言って、それで付き合ってくれって言ったら、オマエ泣きながら頷いたんだよ。忘れんなよっつたのに…、」

『………………ん?』






ちょっと待って欲しい。そんな記憶は全く無いし、それよりも伏黒くんの口から驚きの言葉が聞こえた気がする。私の聞き間違いかもしれない。拗らせ過ぎたかも。





『……伏黒くん、念の為に聞いてもいい?』

「なんだよ」

『…わ、私の事、好きなの…?』

「はァ?」




ほらやっぱり聞き間違いだった!伏黒くんめっちゃキレてるもん!すぐに謝らないと!




『ご、ごめ、』

「好きでも無い女抱くわけないだろ!しかもオマエ高校に入ってすぐに連絡寄越さなくなるし、電話かけても通じねぇし!俺がどんな思いで…!」

『だっ、だって!伏黒くん彼女いたし…!』

「いつだよ!俺がいつ苗字以外に彼女作ったんだよ!」

『かっ、髪が肩くらいのっ、可愛い感じの、女の子…、』

「誰だよ…!」




伏黒くんはキレながらもスマホを取り出して操作すると私の前に渡した。






「どいつの事だよ…!」

『えっ、…えっと、……この子!この子だよ!伏黒くんの彼女!』

「違ぇって言ってんだろ!…しかもこれ釘崎じゃねぇか!巫山戯んなよ!」





渡されたスマホの画像欄から探して伏黒くんに教えると彼は何故か私にキレた。……ずっとキレてるけど。





「コイツは高校の同期で仕事仲間だ!」

『でもっ、距離近かったし…!』

「じゃあ俺が釘崎とキスしてる所見たことあんのか!ねぇだろ!」

『なっ、ない、けど…、』

「…俺がどれだけ………ああクソっ…、馬鹿らしい…!」





伏黒くんはぐしゃぐしゃと自分の頭を掻くと、私を睨んで溜息を吐き出して、ゆっくりと落ち着いた声で口を開いた。





「………もう一度だけ言う。確かに言葉足らずだった俺も悪い。酔ってる奴の言葉を信用したのも悪かった。少しな、本当に少し。ミジンコ程度にな」

『ぜっ、全然悪く思ってなさそう…!』





私が上体を引いてそう言うと伏黒くんは私の手を取って真面目なトーンで言葉を続けた。





「俺は中学の時から苗字が好きだ。付き合ってくれ」

『……わ、たしも、中学生の時から伏黒くんの事が、好きです…、…よ、よろしく、お願いします』

「俺は付き合ってるつもりだったんだけどな」

『もっ、申し訳ありません…』





私が肩を落としながら言うと、彼は手の甲を口に当てて楽しそうに笑った。そして私の頭を撫でると指を絡めて歩き出した。




『……付き合ってると思ってたならどうして外にデート行かなかったの?』

「俺出かけるの好きじゃねぇし。苗字も出かけたいって言わなかったし」

『言ったら出かけてくれた?』

「当たり前だろ」

『そ、それに、キ、キスマークとか、残してくれなかった…』

「は?残していいのかよ。オマエが最初に残さないでって言ったから俺は我慢して付けなかったんだぞ」

『……言いました?』

「言いました」





全部私の勘違いであり、酔ってたせいで覚えていない私が悪かった。なのに浮気相手だと思い込んで距離を取ったり…、…うん、最低だな、私…。




『……これから伏黒くんの彼女面していい?』

「彼女面ってなんだ。彼女なんだから面も何も無いだろ」

『…いっぱい一緒に出かけたい』

「…人混み凄い所はたまにな」

『手とか繋いでTDL行きたい』

「…平日の人が少ない時間なら」

『……伏黒くんの隣を堂々と歩いていいの?』

「堂々としてくれないと困る」





伏黒くんは私の手を握ったまま洋服の中に入れるとじんわりと手先が温まった。



『伏黒くん、大好き』

「……俺も、」




伏黒くんは私から顔を逸らしながら小さかったけど確かにそう呟いてくれた。遠回りしちゃったけど、今が幸せだから、いいや。終わりよければすべてよし、なんて。


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