屋根の下だと悲しくならない


『ぎゃははははっ!!』

「………」

『だっさ!恵だっさ!ボロボロじゃん!ウケる!』

「…………殴りてぇ」





指さしてボロボロな恵を見て笑うと、彼は青筋を浮かべた。それでも気にせずに爆笑していると悟が現れて私の頭をベシリと叩く。





「ほら、恵がボロボロなのが今年最高の一番の面白さだからってそんなに爆笑しないの」

「アンタら殴っていいですか」

『えー、恵こわーい!』

「うぜぇ…」

『それで?宿儺の器は?』

「火葬場にいるから迎えに行くよ」

『…火葬場?』





悟は説明する気ないのか恵を連れて出て行こうとするから私が見送ると、悟が振り返った。





「なにしてんの。名前も行くよ」

『え、なんで私も行くの。私の担当真希たちなんだけど』

「新入生なんだから顔合わせくらいしなよ」

『学校でいいやつじゃんそれ』





そう言いながらも仕方なく悟の後について行くと恵が私の隣に並んだ。本当に背が伸びたな。出会った頃は私のお腹辺りだったのに。人類って本当に神秘。あんなに小さかったのにここまで大きくなるんだから。




『人間って凄いよね』

「はい?」

『だってお腹の中にいる時はホコリくらいに小さいんだよ?それが今じゃあ私より大きい。人間の成長とは素晴らしいものだね』

「…哲学の話ですか?」

『恵はかっこよくなったねって話』

「………」

『なにその不機嫌な顔』

「…いや、不機嫌ではないですけど、」





眉を寄せて目を細める恵の顔はどう見ても不機嫌だった。絵に書いたような不機嫌に私が笑うと恵はふいっと顔を逸らした。




『新入生どんな子?』

「………根っからの善人みたいなやつです」

『へぇー!恵大好きじゃん!善人!よっ!善人大好き芸人!』

「その言い方やめてもらえますか」






恵に呆れられた。これじゃあどっちが年上か分かったもんじゃない。私もうすぐ三十路なのに恥ずかしい。




『これで一年2人かー』

「名前違うよ。一年は3人」

『え?恵と、宿儺の器と、あと誰?』

「ド田舎から女の子が1人」

『あー、恵残念だったね』

「は?何がですか」

『女の子が2人なら両手に花だったのにね。そんなに落ち込むなよ!』

「落ち込んでません」





恵の背中を慰める為にポンポンと叩くと彼は青筋を浮かべてそう言った。わかるわかる。認めたくないお年頃ね。





『思春期、思春期』

「違います」

『女の子に興味があって当たり前なんだよ?恥ずかしがる必要無いって』

「だから違います」

『心配しなくても私たちは先生だからね。保健体育もちゃんと教えるから安心して?』

「違ぇって言ってるでしょ」





恵は背中を叩いていた手を掴むと足を止めて眉を寄せて私を見た。悟は興味が無いのかさっさと先に行ってしまった。アイツ本当に周り見て歩けないよな。無駄な足のリーチ使いやがって。





「……そんなに言うなら、教えてもらったことアンタに実践してもいいんですよ」

『…………恵』

「なんですか」






私は恵の目を見てゆっくりと言葉を吐き出す。






『それは漫画の読みすぎだよ』







その後恵は私と2週間口を聞いてくれなかった。揶揄いすぎた。反省、反省。



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