花に埋もれて夢を見たい


「名前」

『………傑?』




辺りが真っ白な空間に私と傑だけが居た。彼の姿は高専時代のままで真っ黒な姿がやけに眩しかった。周りは真っ白だからもしかして眩しかったのは周りかも。





『呪詛師が何してんの?』

「呪詛師…?私が?」

『……はいはい、私の夢ね。最ッ悪』

「なんてね。冗談だよ」





傑はそう言うとフッと笑った。その笑い方が前と変わらないから心臓が痛くなった。そもそも傑は死んでる。最初から夢だって分かってたんだけどね。






『高専を襲撃して悟に殺されて、……憎んでる?私たちを』

「憎む?どうして?」

『だって傑には叶えたかった夢があるんでしょ』

「そうだね。私は非術師の居ない世界を作りたかった。呪霊が生まれない世界を」






そう言って傑は上を見つめた。でも空なんて無くてあるのはただの白





『………傑は、』

「ん?」

『……いや、変な前髪だなって』

「キレるよ?」

『冗談だよ』




私が笑うと傑も呆れたように少し眉を下げて笑った。勘弁してよ。そんな顔みたら帰りたくなっちゃうじゃん。馬鹿みたいに騒いだあの日々に。本当に馬鹿。私も、悟も硝子も、…傑も。





『…なに、呪詛師になんてなってんの、』

「あの時の私にはそれしか選択肢が無かったんだ」

『…呪詛師になって、死んでたらわけないよ』

「そうだね。でも、後悔はしてない」

『………しろよ。馬鹿』






私が俯くと傑は珍しく声を上げて笑っていた。そしてフーっと息を吐いて少しだけ首を傾げて言った。





「ごめんね」

『………許さない』

「泣かせたいわけじゃなかったんだけど」

『馬鹿、アホ、前髪、まっくろくろすけ』

「……語彙力は変わらないね」





変わらないよ。私も硝子も。多分、悟も。だから帰ってきてよ。勝手に暴走して先に逝くなよ。私じゃなくてもいいから、悟でもいいから、言ってよ。そしたら少しでも力になれたかもしれないのに。傑の傷を埋めることが、出来たのかもしれないのに。






「名前」

『…なに、』





傑はポケットに手を入れて笑みを浮かべた。ああ、もう。本当に、馬鹿




「みんなを頼んだよ」




その中に、傑も居るはずだったんだよ。何勝手に死んでんの。私が両手で顔を覆ってしゃくりながら涙を流すと傑は私の頭に手を置いた。優しくすんな。死んだくせに。







『……………最悪の夢見だ』




カーテンの隙間から朝日が私の顔を照らして眩しかったから腕でゴシゴシと拭いてから、ゆっくりと息を吐いて体を起こした。何故か腫れぼったい目を無理矢理開いて仕事に行くために支度を始めた。






『入学おめでとうー!』

「ありがとうございます」

『恵も高校生か〜。あんなに小さかった子供がここまで成長するなんて…、感動で、前が見えない、』

「ならもう少し泣くフリしてくれませんか」





高専の制服を着た恵は無表情のままそう言うとジッと私を見た。私が何となく視線を逸らすと恵は腰を折って顔を追った。……なんか腰を折って顔を追ったって韻踏んだみたいになった。チェケラ。




『なに?』

「名前さん泣きました?」

『なんで?』

「目が腫れてていつも以上に目が細いんで」

『よーしっ!今から先輩の怖さを叩き込んじゃうぞー!その綺麗なご尊顔ボコボコしちゃうぞ〜!』

「なにキレてるんですか」





天然か、天然煽り上手か?この生徒ムカつくな。よし、恵は悟に任せよう。煽り上手同士仲良くやってくれ。




『恵の担当は悟だからアイツの所行って』

「何か俺、怒らせました?」

『べっつにー!怒ってませんけどー?』

「うわ、キレ方五条先生と同じなんですけど」

『はァ?』

「うわ、そっくり」





この子本当は私の事ナメてる?嫌い?私何かした?確かに嫌がらせでオムライスにパプリカ混ぜたのは悪かったけどそんな悪口言わなくても良くない?




「大丈夫ですか?」

『大丈夫じゃないよ…、悟と似てるなんて…』

「そっちじゃないです」

『……どっちの話?』

「名前さんが寂しそうにしてる話」

『……寂しいって、子供じゃないんだから』

「でも寂しそうですよ」





恵はそう言って私の目の下を人差し指で優しく摩るから、唇が小さく震えてしまった。それを隠すように笑みを浮かべると恵は少しだけ眉を寄せた。私は大人で君は子供なんだから、私が弱音を吐く訳にはいかないでしょ。





『なに言ってんの。恵が私を悟に似てるなんて言うからショックだったんだよ』

「……そうですか、」




わざとらしくないように恵の手を解くと、彼は少しだけ傷ついたように顔を歪めた。





『ほら、今日から私は先生なわけだから苗字先生と呼びなさい。ほら、呼べ』

「ムカつくんで嫌です」

『先生って呼ばれたい。恵の先輩たち私の事呼び捨てなんだよ?ナメてない?』

「なら俺も名前でいいですよね」

『よくない。敬って。恵くらい私をちゃんと先生扱いして』

「嫌です。他の奴らがアンタを先生扱いしても俺だけは絶対にしません」

『うわー、クソ生意気な新入生』





私は真っ直ぐな眼差しを向ける恵から視線を逸らす。私は恵の保護者で先生で恵は生徒。その関係は変わらないよ。



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