器用貧乏が環になって


『恵また喧嘩?好きだねぇ』

「別に好きでは無いです」

『え?好きじゃないなら何?趣味?』

「どんな趣味だよ」





制服を汚して顔に傷が出来ている彼は私の隣を素通りした。けど私が隣に並ぶと歩幅を合わせてくれる辺り津美紀の教育が行き届いてる。




『お姉ちゃん悲しむよ?』

「津美紀は関係無いでしょ」

『弟が喧嘩したらお姉ちゃんも困るでしょ』

「名前さんも喧嘩するなって言うんですか」

『まぁしないに越したことはないよね』

「あの人もそうですけど保護者ヅラしないでもらえますか」

『あの人?…………あぁ、悟?なに、アイツも保護者ヅラしてんの?ウケる』





私がプークスクスって笑うと恵は鬱陶しそうに眉を寄せて歩みを早めてしまった。いつからあんな反抗的になってしまったのやら。昔はあんなに……いや、昔から反抗的ではあったか。




『そういえば二者面談あるんだってー?私が行ってあげようか?』

「結構です」

『選択肢は3つだけだよ。私か悟か津美紀か。流石にお姉ちゃんと二者面談は恥ずかしいでしょ?必然的に選択肢は2つだね。私か悟』

「保護者ヅラすんなって言いましたよね」

『保護者だもん』




私がそう言うと恵くんは足を止めて振り返って私を見た。彼の表情は誰がどう見ても不機嫌そのものだった。





「うざいんだよ、アンタら。他人のくせに保護者ヅラしやがって」

『その保護者ヅラしてる私たちが居ないと君は自由に生活が出来ないんだよ』

「………」





私が舌を出してそう言うと彼は親の仇を見るように私を睨んだ。私がすぐにヘラリと笑うと彼は舌打ちをしながら去ってしまった。私は肩を竦めて今追っても仕方ないか、と結論づけて踵を返すと見慣れた姿が現れた。





「あれ?恵怒らせちゃった?」

『怒らせちゃった。二者面談断られたし』

「難しい年頃だからねぇ。僕なんてこの間殴られそうになった」

『それはアンタが余計なこと言ったんじゃないの?』

「えー?」





悟は私の隣に並ぶとコンビニで買ったのかあんまんを頬張っていた。私が右手を差し出すと1ミリ位のあんまんの皮を乗せられたから指で鼻を擦って悟の服に付けてやろうと思ったけど無下限のせいで届かなかった。





「あれはただの反抗期だから時間が解決するでしょ」

『悟くんは反抗的終わったんでちゅか〜?偉いでちゅね〜』

「あはは〜、殴っていい?」

『あはは〜、殺す気か?』





私が棒読みでそう言うと突然口に柔らかい物が押し当てられて口を開くと甘みが広がった。あんまんだ。美味しい。





『あのさ悟』

「んー?なに?」

『私あんまんはセブン派なんだよね』

「文句言うなら返してくれる?」

『金持ちがケチくさいな』

「名前だって稼いでるでしょ」

『悟程じゃない』

「だろうね」






悟と話しているとまるで学生だった頃を思い出す。いつも4人で楽しかったのに、彼は私たちとでは心から笑えなかったと言った。あんなに楽しかったのに。楽しかったのは私たちだけだったのかな。






『悟』

「なに?」

『………………悟は楽しい?』

「名前が焼肉奢ってくれたら楽しくなるかも」

『私の5倍は稼いでるくせに』






私が見上げて舌打ちをすると、悟は私の頭に手を置いて雑に撫でるとフッと口元を緩めた。頭と目に巻かれた包帯が厨二臭い。





「僕は楽しいよ」

『……そっか』




その言葉が嘘だったとしても、信じることしか私にはできない。







「どーもぉ!伏黒悟でぇーっす!」

『伏黒名前でぇーっす!』






二者面談に私と悟で言ったら本気で恵に怒られた。1週間は口聞いてくれなかったし、視線すら合わせてくれなかった。巫山戯すぎたとお詫びにオムライスを作ると彼は悪態を吐きながらも完食してくれた。悟は謝りもしなかったから許してもらえるまで3週間もかかってた。ざまぁみろ。



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