不幸をにぎりしめて


『伏黒恵くんだね?』

「……アンタ誰?」

『昨日真っ黒な服で真っ白な頭の奴来なかった?』

「……来た」

『ソレのお友達』




私がそう告げると伏黒恵くんは小さな体で私を睨みあげた。そんな彼の後ろの方に彼より少し背が高いであろう女の子が不安そうにこちらを眺めていた。安心させるように手をヒラヒラと振ると、彼女は控えめに振り返してくれた。




「……何の用だ」

『用は無いんだけど様子見ってところ。君たち子供2人でしょ?心配だからさ』

「別に。必要無い」

『本当に君、小学生?』




私が苦笑を浮かべながらそう言うと、彼は眉を寄せて背を向けた。私が並んで歩くと更に速度を早めた。けど足の長さが違うんだなぁ。





『伏黒恵くんはオムライス好き?』

「…………」

『ケチャップ好きそうな顔してるよね』

「…………」





不安そうに眺めていた彼女の元に辿り着くと、私は足を止めて後ろで手を組んで首を傾げた。





『伏黒津美紀ちゃん?』

「えっと、」

『私は呪術高専の苗字名前です。怪しい者じゃないよ。よろしくね』

「よろしく、お願いします、」

「よろしくしなくていい」

『冷たいね』






私がまた苦笑を浮かべながら、伏黒津美紀ちゃんに彼と同じ質問をした。





『ねぇ、津美紀ちゃんオムライス好き?私オムライス作るのだけは上手なの』




私が聞くと彼女は微かに瞳を輝かせた。その瞳がまるで宝石のようにキラキラと輝いていて思わず目を細めた。




『ちょっとだけ味見してみない?』

「要らない」

「食べたいです!」

『よし!じゃあレッツゴー!』





私と津美紀ちゃんは右手を掲げ歩き出すと後ろから恵くんが呆れたように溜息を吐いていた。本当に小学生らしくないなぁ。彼らの家は思ったよりも綺麗だった。津美紀ちゃんがちゃんとしてるのかな、なんて思いながら持参した袋から具材を台所に並べる。すると津美紀ちゃんが私の隣にやってきて首を傾げた。





「何か手伝えますか?」

『ううん、座って待ってて。すぐに出来るから』





私がそう言うと津美紀ちゃんは素直に頷いて学校の宿題に取り掛かっていた。偉いな、なんて思っていると既に恵くんは宿題を行っていてこの姉弟は自立してるなぁなんて思った。






『はい!おまたせ!』

「わぁ!美味しそう!」

『味は保証する』





私が2人のオムライスを持って台所から現れると、宿題をしまって姿勢を正した。2人の前にお皿を置くと手を合わせてモクモクとオムライスを食べ始めた。





「美味しい!」

『良かった』

「……………」





恵くんもそこそこ気に入ってくれたのか何も言わずに食べてくれた。そんな2人の頭を撫でると、キョトンと首を傾げた。顔はそんなに似てないのにこういう所は似てるなって思いながらぐしゃぐしゃと髪を乱す。





「きゃー!ふふっ、」

「やめろっ、」

『………』





楽しそうにする津美紀ちゃんと私の手を退かそうとする恵くんに私の脳裏には1人の男が過ぎった。




ーー呪術は非術師を守るためにある






あの時はアンタの言ってる事がよく分からなかった。けど、今なら分かる。分かるから帰って来てよ。






『…………強くならないとね。私も君たちも』

「へ?」

「………」

『とりあえず、恵くんはグリンピースを避けないでたべること。津美紀ちゃんは好き嫌いがなくてよろしい!』





津美紀ちゃんは元気よく返事をして、恵くんは少し気まずそうに視線を逸らした。その表情が小学生らしくて私が笑うと、またすぐに顰めっ面に戻ってしまった。



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