「恵ー、名前に告ったってまじ?」
「…………誰から聞いたんですか」
「え?硝子」
「…………」
見た目は大人しそうでもやっぱり家入さんはこの人と同期だなと感じた。俺がジト目で睨んでも五条先生は楽しそうに笑った。だからこの人俺に教材運ぶの手伝わせたのか。
「で?どうなの?」
「……告りましたけど」
「うひゃー!んで?名前はなんて?」
「なんでそこまで答えないといけないんですか」
「生徒の恋だよ?しかも一回り離れた教師への恋!これは気になるでしょ!」
「とりあえず保留ってことになりました」
「保留?やっぱり教師だから?年上だから?」
「名前さんと会った時あの人はまだ教師じゃ無かったですし、歳なんて大した問題じゃないでしょ」
「いやいや!名前が恵に手を出したら問題でしょ!未成年だよ?犯罪だよ?」
「出されないですし。出されたとしても合意の上です。それに俺が卒業すれば何ら問題ありません」
「卒業って…。入学してまだ半年だよ?あと2年半もあるんだよ?」
「2年半なんてあっという間です」
俺はガキの時からあの人に惚れてる。今までの期間を考えたら2年半なんて一瞬だ。
『あっ!恵ー!』
名前を呼ばれて窓の外に顔を向けて下を見ると名前さんが少し遠くに立っていて、右手を大きく振っていた。その笑顔の周りには何処か花が見える気さえする。
「あれで付き合ってないの?あんなの絶対恵のこと好きじゃん。僕にあんな笑顔向けたこと無いんだけど?」
「………」
「それに名前って傑が好きだったんでしょ?傑にもあんな顔した事ないけど?」
保留にしたのは名前さんで、生徒と教師の線引きを守るように言ったのも名前さんだ。
俺は深く溜息を吐きながら片手で教材を持ってもう片方の手で顔を覆って空を仰ぐ。……勘弁してくれ。
「………五条先生」
「ん?なぁに?」
「あの人絶対俺のこと好きですよね」
「まぁ、あの笑顔じゃあね。そう思っても仕方ないし、その答えは正しいと思うよ」
「…………本っ当、狡ぃ」
こっちは2年半その約束を守らないといけないんだ。頼むからグラグラ揺らすのは止めてくれ。
「ほら恵、下で名前が手を振ってるよ。振り返してあげないと」
ケラケラ笑う五条先生に腹が立ったが、俺は何としてもその約束を守らないといけないし、あの人にも守ってもらわないといけない。
「………2年半、長ぇな、」
「だから言ったデショ?」
2年半が一瞬なんて言ったのはどこの馬鹿だ。2年半って約912日だぞ。どこが一瞬なんだよ。
『恵ー!今日病院行こうと思うんだけどー!一緒に行かなーい?』
「だってさ、恵」
可愛さ余って憎さ百倍ってこの事か。本当に勘弁してくれ。そう言っても俺に選択肢何てものは無いし、あっても意味が無い。
「行きます!」
『やったー!ありがとう!』
クッソ、早く2年半経ってくれ。五条先生最強なんだから時の流れくらい早くしろよ。
「……あー、……生徒辛すぎだろ、」
そう言った自分の声はどこが嬉しそうで、ガキかよと小さく自虐的に笑ってまた下に視線を向けた。
「………まじで2年半後、覚悟しててくださいね」
挑発的な笑みを浮かべながら呟くと、名前さんは不思議そうに首を傾げていた。逃げられるのは今のうちですよ。まあ逃がさねぇけど。逃げられれば逃げられるほど燃えるんで。俺はまだ見たことの無い恋敵を思い浮かべて口角を上げる。負ける気がしねぇ。
「帰りにラーメン食いに行きましょ」
『ラーメン!』
まずは2年半かけて着々と好感度でも上げるとしますよ。
まあ結果は見えてるんですけどね。
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