オリジナルB
時おり呪いが透き通る後
「今日は2対2の体術やるよー。チームは面倒だからジャンケンね」
五条先生の言葉に私たち4人は手のひらを出してチーム分けを行った。私とチームは虎杖くんだ。やった。
「頑張ろうな!」
『うん!足引っ張らないように頑張るね!』
「おっ、いい感じにバラけたね!流石僕!」
「先生は何もしてないでしょ。なに自分の手柄にしてんのよ」
五条先生は野薔薇の言葉をスルーするとルールを説明し始めた。中庭の中で何でもありの呪術合戦らしい。死なないようにしないとなぁ。
「よーい!どん!」
先先生のかけっこみたいな掛け声に体が崩れ落ちそうになったけど慌てて体勢を持ち直して正面から攻撃を仕掛けてくる玉犬に意識を集中させる。
「苗字!口閉じて!」
『…え?』
虎杖くんの言葉に目を見開くと次の瞬間には私の体は浮いていた。瞬きすると虎杖くんの顔が近くにあってビックリしてしまった。背中と膝裏に虎杖くんの腕が回っていて横抱きにされていることに気付いた。分かってたけど虎杖くん力持ちすぎる。
「このまま一回距離取る!」
『了解!後ろは任せて!』
「任せた!」
結構私たちも頑張ったけど、何故かキレ始めた伏黒くんに私たちは敗北してしまった。キレた伏黒くん本当に怖かった…。急に怒ってどうしたの?激おこぷんぷん丸なの?
「本っ当に虎杖って馬鹿力よね」
『私の事抱えてたのに走るの凄く速かった!』
私が興奮気味に話すと近くにいた伏黒くんが大きな舌打ちをしていた。最近、不良化が進んでる気がする。進んでるというか、戻ってる?
『舌打ちは良くないよ?不良みたいだよ?』
「まぁ元ヤンだから間違ってはないわね」
「うるせぇ」
伏黒くんはそう言うと教室から出て行ってしまった。あんまり機嫌が良くないみたいだ。夜ご飯の時にゼリーを買ってあげよう。
***
「……」
「えっと、伏黒…?俺になんか付いてる?」
ここ最近、伏黒が俺の事をジッと見ている気がする。気がするっていうか、確実に見てる。俺何かした?
「……オマエ走ったりしてんのか」
「いや?特にしてないけど…」
「チッ…!」
「えぇ!?なんで!?」
俺は素直に答えただけなのに伏黒は大きな舌打ちをして俺を睨んだ。ここ最近の伏黒の情緒が分からない。
「おっ、伏黒はよー!」
「早いな」
「なんか珍しく目が覚めたから走ろっかなーって。伏黒に走ってるかって聞かれて、走ってみよっかなって」
「…俺も行く」
伏黒は既にジャージで元々走る気だったことはすぐに分かった。俺と伏黒は校庭に出てランニングを始めた。気分転換の為なのか玉犬を出して一緒に走っていた。
「俺この後筋トレするけど伏黒行く?」
「………………………行く」
ランニングが終わったあと、伏黒は膝に手を付きながら苦しそうに言った。結構走ったからなぁ。
「…えっと、伏黒、大丈夫?もうちょっと軽いのにする?」
「…うるせぇっ、」
その後も伏黒は筋トレを頑張っていた。意外と伏黒って負けず嫌いだよな。
「最近伏黒も筋肉増えたよな」
「……」
ランニングと筋トレを初めてから数週間が経って、俺がそう言うと伏黒は目をパチパチとさせて少しだけ嬉しそうに口元を緩めた。
『………』
けど最近の問題は苗字だ。
「えっと、苗字サン?俺の顔になにか付いてる?」
『………………目と鼻と口が付いてますケド?』
どこか棘のある言い方に俺はグッと唇を閉じて瞳を閉じる。俺何かしたっけ?
「虎杖」
「ん?どったの?」
「今日も筋トレすんのか」
「あー、うん。その予定」
「なら俺も行く」
「りょーかいっ!」
俺が頷くと殺気にも似た視線を感じてバッと振り返ると苗字が俺をジト目で睨んでいた。…なんで!?
『……………』
「虎杖ー、気にしなくていいわよ」
釘崎の言葉に俺が首を傾げると、釘崎はスマホをいじりながらどうでも良さそうに口を開いた。周りを見ると伏黒が居なくなってていつの間に居なくなったんだ?と思いながら俺は釘崎を見る。
「伏黒が虎杖に夢中だから名前はヤキモチ妬いてんのよ」
「……なんで?」
「そう言う習性なんでしょ」
「どんな習性…!?」
俺が苗字を見ると、瞳からは光が失われ濁った瞳で外を眺めていた。うん、これは重症そうだ。
「で、でもさっ、伏黒に趣味ができるのはいい事じゃん!?」
『…伏黒くんは別に趣味で筋トレしてるんじゃないと思う』
「え?そうなの?」
『虎杖くんの体型が理想なんだと思うよ』
「俺の?なんで?」
「アンタ筋肉お化けだもんね」
「筋肉お化け…!?」
釘崎の言葉にショックを受けると苗字は唇を尖らせて、机に伏せてしまった。
『伏黒くんが私に構ってくれない…!寂しくて死にそう…!しかも最近時間があると伏黒くん、ずっと虎杖くんを熱い視線で見つめてるし…!』
「そんなので人は死なないから平気だし、熱い視線って虎杖の筋肉が羨ましいだけでしょ」
『伏黒くんが細マッチになって更にモテモテになっちゃったらどうしよう…!どうしよう!野薔薇!』
「あんな愛想の無いムッツリがモテるわけないでしょ」
『伏黒くんかっこいいもんね!優しいし!面倒見もいいし!モテないわけが無いよね!』
「私の言葉聞いてないなら聞くんじゃないわよ」
釘崎はどうでも良さそうにそう言って苗字のカバンからトッポを取り出して食べた。自分の物の様に食ってるな。
「伏黒さー、苗字と上手くいってんの?」
「は?」
「最近ランニングとか筋トレばっかじゃん?」
「………」
夜に伏黒と筋トレをしている時にそう言うと伏黒は眉を寄せて少し言いずらそうに口を開いた。
「……苗字を、」
「ん?」
「苗字を抱えて走れるくらい、筋肉をつけたい」
「………筋トレ頑張ってるのって、」
「苗字が虎杖の筋肉に興奮してたのがムカついた」
「…………ソッカ、」
俺を射抜かんばかりの強い視線で俺を睨む伏黒に俺は小さく頷くと、伏黒は筋トレに戻った。俺知ってるよ。前に釘崎が言ってた。
「……伏黒」
「なんだよ」
「頑張れ」
「おう」
リア充爆発しろってやつだろ。とにかく伏黒も苗字も早く喧嘩じゃないだろうけど仲直りしてくれ。2人から妬みの視線を浴びてるのは辛すぎます…。