オリジナル C

時おり呪いが透きとおる後
ご都合設定があります





『…もしもし苗字です。伏黒くんどうかした?』

「苗字!今どこだ!」

『え?こ、高専だけど…』

「チッ…、」

『なんで舌打ち…?』






廊下を歩いていると任務に行ってるはずの伏黒くんから電話がかかってきたから出て素直に答えると何故が大きな舌打ちがお見舞された。酷すぎない?





「俺を見かけても話しかけるな!」

『見かけてもって…、任務中じゃないの?』

「終わらせた!今から俺も急いで帰るから、見かけても話しかけるなよ!」

『……大丈夫?任務中に頭ぶつけちゃった?家入さん呼んでおこうか?』







珍しく伏黒くんの言っている言葉の意味が分からない。あべこべだ。…使い方合ってるかな…?伏黒くんは焦っているのか車のドアの音が聞こえたと思ったら窓の人に急いで高専に帰るように伝えていた。声的に伊地知さんだ。可哀想に。





「とりあえず俺のことは無視しろ!」

『……………うん、まぁ、伏黒くんがそう言うなら…、』





私が渋々頷くと伏黒くんは電話を切った。私は首を傾げながら廊下を歩いていると、虎杖くんと野薔薇が居て声をかけて、一緒に廊下を歩いた。






『2人とも任務終わり?』

「そう。今日は虎杖と一緒だったよ。本当疲れたわ」

「釘崎だって気ぃ抜いて呪霊に後ろ取られたじゃん!」

「私のはわざとよ、わ、ざ、と!」

「うっそでぇー!」






2人の掛け合いに笑っていると、前に見慣れた後ろ姿があって声をかけようと右手を上げてさっきの会話を思い出す。





『……………』

「あれ?伏黒じゃん!」

「ちょっと何無視してんのよ伏黒!」







虎杖くんが伏黒くんに駆け寄って、声をかけるのに肩に手をかけようとした時、突然伏黒くんが振り返って虎杖くんに向かって右手で拳を作って突き立てた。……え?何してるの?






「うぉあ!?危ねぇな!言ってからにしてくれよ!」

『そういう問題なのかな…?』

「…………誰だよ。オマエら」

「「………へ?」」

『……伏黒くん?』






顎を引いて私たちを睨みあげる伏黒くんは敵意100%って感じだ。嬉しくない100%だ。私が名前を呼ぶと彼は低く唸るようにギラリと私を睨んだ。え、なにこれ怖い。





「…あ?……なんで俺の名前知ってんだよ」

「いやいやいやいや!俺ら同期だろ!?」

「アンタこそどうしたわけ?そういう嫌がらせ?珍しいわね」

『………………なんか、伏黒くん縮んだ?』




私が首を傾げながらそう言うと、虎杖くんと野薔薇がジッと彼を見て声を合わせて、確かに、と言った。それに着ている制服も高専の物ではなくブレザーだ。






『えっと…、伏黒くんではあるんだよね?』

「……だからオマエ誰だよ。勝手に名前呼ぶんじゃねぇ」

「うわっ!苗字に冷たい伏黒とか初めて見た!」

「私ビデオ撮っていい?後で嫌がらせで使うから」

「ふざけんな。近づくんじゃねぇ。つーかここ何処だ」

『と、とりあえず先生のところ行こうよ。伏黒くんも、悪いんだけど付いてきてくれる?』

「はァ?なんでオマエの言うこと聞かねぇといけねぇんだよ」

『あ、はは…、』





私が苦笑を浮かべていると、後ろから五条先生の声がした。本当に呪術師は後ろから声をかけることしか出来ないの?……………あ、私もさっき虎杖くんと野薔薇に後ろから声かけてた。






「おっ、恵ここに居たんだ。勝手に居なくなるなよ。探すの面倒なんだけど」

「…………ここ何処だよ」

「高専」

「何処だって聞いてんだよ!」






五条先生は今の伏黒くんともコミュニケーションが取れるみたい。凄いなぁ。流石は最強。






「ていうか本体どこ?僕お守りするの嫌なんだけど」

「ガキ扱いすんな」

「えー?15歳なんてガキでしょー!ププー!恵ってばおませさん!」

「………殺す」






五条先生は手のひらを口元に当てて、もう片手で指をさして言うと伏黒くんは手のひらを握りしめていた。というか、え?15歳?





『……伏黒くん、15歳だったの?ごめん、勝手に同い年だとばっかり…』

「名前落ち着いて、伏黒は私たちと同い年だったはずよ」

「でも五条先生が15っつってたけど?」

「それは、あれよ、……………精神年齢」

『野薔薇、怒られるよ……』






五条先生は私の肩に手を置くとポンッと押して伏黒くんの前に押しやった。え、怖い。睨まれてる。





「とりあえず本体が来るまでは名前が恵のお世話係ね」

『お世話係…?』

「は?ふざけんな。要らねぇよそんなの」

「えー、恵そんな事言うんだ。動画撮っていい?後で嫌がらせで本体に見せるから」

『やめてください…。それに本体って?』

「もうすぐ来ると思うよ。…………お、来たね」





五条先生が顔を上げるとその方向からダダダッと大きな足音がして目を見開く。姿は見えないけど先生の言い方からして本体ってやつなんだろう。すると視線を感じて見てみると目の前の伏黒くんが私を睨んでいた。私が2度ほど瞬きをすると少し遠くから聞きなれた声で呼ばれた。



「苗字…!」

「オマエ…、」

『ん?』






2人の伏黒くんに呼ばれてどっちを見ようか迷ったけど、今は近くにいる伏黒くんに目を向けた。すると少し遠くの伏黒くんが焦っているようだった。けれどそれに気づかない目の前の伏黒くんはゆっくりと口を開いた。





「オマエ、さっきからヘラヘラしてて気持ち悪ぃな」

『……へ?』

「オマエみたいな奴見てると吐き気がする」





その瞬間辺りがピキリと固まった気がした。でも目の前の伏黒くんは何でもないようにフイっと顔を逸らし、五条先生だけが楽しそうにピロンッとスマホで動画を撮っていた。






「……あれ?名前?大丈夫ー?」

『へ?あっ、』





五条先生に肩をポンと叩かれて正気に戻る。すると周りも少しずつ動き始めた。遠くにいた伏黒くんが私の元へ来て私の肩を掴むと何故か驚いた顔をしていた。






「……苗字?」

『えっ、な、なに?』

「名前?顔赤いわよ?」

『そっ、そんなわけっ、ないじゃん!こ、ここが暑いのかなー!』

「……名前、今は1月よ」

「もしかして名前、罵られるの好きなの?」

『それは違います!』





五条先生の言葉に慌てて否定すると、本体の伏黒くんが15歳の伏黒くんの頭をバシリと強めに叩いて胸倉を掴んでいた。ぼ、暴力反対…





「……テメェ、なに苗字に色目使ってんだ」

「今のどこが色目なんだよ!離せよ!」

『ちっ、ちがっ、違うからっ、』

「…俺、伏黒も変わってるなって思ってたけど、苗字も変わってんね」

「まさか名前にそんな性癖があったとはね…、人は見かけに寄らないのね」

『違うってばっ!違うのっ!』

「名前、恵なら大丈夫だよ。名前の性癖に付き合ってくれるって」

『だから違うんだってばー!』





私が大声で叫ぶと、伏黒くんは伏黒くんと喧嘩を始めていた。もう、なんなのこの状況…。







「僕が聞いた話だと、任務先の呪霊に呪いをかけられて恵が分裂しちゃったってわけ。ちなみにその呪霊は恵が祓ったから時期に呪いも解けるよ」

『命に問題は無いんですか?』

「それは全然平気」






五条先生はそう言うと楽しそうに頬にガーゼのついた15歳の伏黒くんの頭を撫でた。ちなみに本体の伏黒くんは無傷だった。大人気ない…。





「それより、なんで名前はちっこい恵に罵られて喜んでたの?」

『だからっ、喜んでません!』

「ちっこく無ぇ」





小さい伏黒くんはバシリと五条先生の手を払うと、近くにあった椅子に腰を下ろした。…うん、Theヤンキー




「うわー、本当に懐かしいね。この頃の恵」

「今すぐ戻せないんですか?これ」

「元を辿れば恵の油断がいけないんだよ」

「…………」






五条先生の正論に伏黒くんはまた大きな舌打ちをした。隣でされたから少しビックリした。みんなで討論するみたいに丸くなって座っててちょっと面白い。





「これあとどれ位で治るんですか」

「まぁあと数時間って所じゃない?」

「にしてもよくここまで丸くなったわね」

「これが八十八橋の時に校務員さんが言ってた不良の伏黒かー」





野薔薇と虎杖くんは面白そうに小さい伏黒くんを見つめた。すると小さい伏黒くんはギンっと2人を睨んでいた。うん、まさに不良。何ガン飛ばしてんだってやつだ。





『…………ブレザー…、』

「苗字」

『でも伏黒くんなわけでしょ?セーフ、セーフ』

「………」

『やっぱりブレザーっていいよね。私学ランよりブレザーの方が好き』

「…………五条先生」

「無理だよ。流石にブレザーには変えられない。諦めるんだね」

「アンタの名前のためなら法律すら変えそうな勢いはなんなわけ?」






私が小さい伏黒くんを見つめていると目を覆われる。あの子だって伏黒くんなのに。





『尖ってる伏黒くんなんか可愛いね』

「………………これが、可愛い?」





不思議と嫌悪を混ぜた様な声を出す伏黒くんはゆっくりと私の目から手を離すと眉を寄せていた。ほらあれだよ。この間五条先生が言ってたキュートなの?セクシーなの?ってやつ。それにちょっと甚爾さんに似てる気がする。2人って何故かたまに似てる時があるんだよねぇ。…………伏黒くんには言わないようにしよう。





「…見てんじゃねぇ」

『伏黒くん本当にブレザー似合うね』

「馴れ馴れしく呼ぶな」

『苗字にくん付けが馴れ馴れしい…?』

「つーか呼ぶな。俺はオマエを知らない」

「……そろそろ本気で殴っていいか?」

『自分だからね!?止めてあげて!』





立ち上がろうとした伏黒くんの腕を掴んで止めると、小さい伏黒くんはフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。





「でもさぁ、ちっさい恵ー」

「ちっさく無ぇ」

「名前は将来の彼女だよ?そんな冷たくしていいの?」

「…はァ?これが?」

「指さしてんじゃねぇ、殴るぞ」

『すぐに殴ろうとするのやめようか?』

「本っ当に人ってここまで丸くなるもんねー。これが今じゃ名前に世界滅ぼせって言われたら滅ぼしそうだもんねー」

「でもちっこい伏黒ってなんか可愛いよなー。弟みたいで」

『やっぱりブレザーがいいのかな。ブレザーだからかな?』

「五条先生、俺明日からブレザーで登校しますね」

「うん、いいわけないよね」

「付き合ってられねぇ」





小さい伏黒くんはそう言って教室を出て行ってしまった。私は慌てて追うと、後ろから伏黒くんが五条先生や野薔薇や虎杖くんに引き止められているのか、離せって言ってる声が聞こえたけど今は小さい伏黒くんが心配だった。だってここは彼が知らない場所だし、何より数年後の世界だ。不安で仕方ないと思う。





『待って!伏黒くん!』

「触んな」

『あ、ごめん』





腕を掴むと勢いよく振り払われてしまった。私が素直に手を離して降参する様に両手を肩まで上げると彼は小さく舌打ちをした。私が苦笑を浮かべると彼はどこか焦った様な顔をしていた。






「……早く帰らねぇと、」

『……ねぇ、今って15歳だったよね?』

「だからなんだよ」





彼が15歳ということはひとつ上の津美紀さんは16歳ってことになる。つまり、彼女が呪いを受けてしまった年だ。






『……』





不安じゃないわけが無い。訳の分からない場所に突然連れてこられて、帰れるかも分からない。そしてある日眠ってしまった姉。今の彼は全てが不安定なのだ。





「……………………は、」

『大丈夫、大丈夫だよ』





私は彼の体を抱き寄せると、安心させるように背中を優しく叩く。子供にやることかもしれないけど、何歳になろうが安心するものは安心するんだ。






『助かるよ。絶対』

「……オマエに、何がわかるんだよ、」

『私は、何も分からないけど、でも、大丈夫。だって伏黒くんだもん。君のお姉さんのことは分からないけど、私は伏黒くんのことなら分かるよ』

「俺の事だって、知らねぇくせに」

『知ってるよ。誰よりも優しくて、強くて、温かい人だって。……誰よりも知ってる』






小さい伏黒くんは舌打ちをすると、肩の力を抜いたようだった。私は瞼を閉じて彼の背中をリズム良く優しくゆっくりと叩く。大丈夫、助かるよ。伏黒くんはちゃんとお姉さんを救えるよ。





『今だけでいいから、少しだけ肩の力抜いちゃおう。それでまた戻ったら頑張ればいいよ』

「そんな、悠長なこと、言ってられない、」

『うん、だから今だけ。今だけ休んじゃお。ほんの数時間休んだって神様も怒ったりしないよ。そんなことで怒る神様は神様じゃない』

「……変なヤツ。ヘラヘラしてるわ、俺の彼女だとか、そんなの俺は知らねぇっつーの」






彼はそう言って腕の力を抜いてダラリと下げた。うん、疲れた時はとことん休んじゃお。休むのも仕事だって言うでしょ。…言わないかもしれないけど。




「…………もう、いい。離せ」





少し経った頃に彼はそう言って私の背中を叩いた。でもその手が優しかったから少しは警戒心を解いてくれたのかもれない。





『…大丈夫そう?』

「別に。最初から平気だ」

『…そっか』





彼らしい答えに私が目を細めて口元を緩めると彼はフイッと顔を逸らしてしまった。やっぱりまだ完全には信用してくれてないみたい。




『早く戻れるように五条先生に聞いてみよっか』

「……」

『…嫌そうだね』

「アイツ、保護者面してくるからウザイ」

『まぁまぁ。私もそんなに好きじゃないけど呪術には詳しいから』

「はぁ……」





大きな溜息を吐いた小さい伏黒くんはどうやら私の歩幅に合わせてくれるらしい。私がゆっくり歩くと彼の足並みも遅くなっていた。こういう優しいところはやっぱり伏黒くんだな、って思う。




「……おい」

『ん?なに?』

「……俺は、オマエと付き合ってんだろ」

『今はそうだね』

「……ふーん」






私が首を傾げると小さい伏黒くんは外に視線を逸らしてしまった。まぁいいか、と思いながらみんなが待つ教室の扉を開くとすぐ目の前に大蛇の顔があった。私は驚いて数歩下がると、小さい伏黒くんが私の肩を掴んで支えてくれた。





「……おい、苗字に変なことしてないだろうな」

「………………してない」

「間があった!間があったわよ!名前!アンタ伏黒ならなんでもいいの!?」

『なっ、何もしてないよ…!』

「俺からは何もして無い」

『その言い方も語弊があるね…!?』






私が目を見開いて小さい伏黒くんを見上げると、彼は小さく笑っていた。今の伏黒くんより少しあどけない笑顔に不覚にもときめいてしまった。





「恵もそんなにキレないでさ。多分もうすぐ戻るだろうし」

「……早く戻れ」

「言われなくても戻る。うるせぇな」





小さい伏黒くんはそう言って私を見下ろすと、私の髪を耳にかけた。え、なに。急な行動にお姉さんついていけない。



「名前」

『…え!?』

「はァ…!?」






突然名前で呼ばれて目を見開くと、横から伏黒くんの驚く声が聞こえた。私の髪を耳にかけるのは伏黒くんがよくやる仕草で驚いてしまった。すると小さい伏黒くんはフッと優しげに目じりを下げた。





「…すぐ迎えに行くから待ってろ」

『…………………へ!?』





彼は柔らかい声でそう言うと体が弾けるように消えた。でも私は動けなくてただただ立ち尽くしていると、我に返ったように顔が熱くなって慌てて両手で顔を抑える。なにこれ。顔が燃えてる。誰か消化器持ってきて。






「あれは完全に名前に惚れてるわね」

「恵はいつの時代も名前が好きなんだねー」

「ちっこい伏黒めっちゃ嬉しそうだったな!」

「…………殺す」

『………………ブレザー、最っ高……』

「五条先生、俺今から中学の制服持ってくるんで学校に申請出しておいてください」

「なに真面目な顔して馬鹿みたいなこと言ってんの?」






口ではああ言ったけど、正直ブレザーとか学ランとかどうでもいい。伏黒くんが私にあの顔で、あの声で、あの触れ方だったのが問題なのだ。あぁもう、野薔薇の伏黒くんならいいってセリフはあながち間違ってないのかもしれない。




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