オリジナル A
時おり呪いが透き通る後
「…………最近、苗字がうぜぇ」
「へぇー……………………………………ん?」
隣の部屋の伏黒が突然俺の部屋にバンッと大きな音を立ててやって来たと思ったら、突然そう言った。……え?いや多分俺の聞き間違いだよな…。伏黒が苗字の事うざいなんて言うわけないもんな。そうそう聞き間違い、聞き間違い……
「……苗字がうぜぇ」
「聞き間違えじゃ無かったぁ…!?」
俺はベットで読んでいたジャンプを放り出し寝ていた体を起こした。これは一大事だ!俺は伏黒を座らせて俺もその前に正座した。ジャンプなんて読んでる場合じゃなかった!
「どっ、どったの?苗字がうざいなんて…、伏黒絶対苗字の事悪く言わねぇし、否定しねぇじゃん」
「これを見てくれ」
そう言って伏黒は俺の前にスマホを見せた。するとそれは苗字とのトーク履歴で、本当に俺が見ていいのか分からなかったけど伏黒が見ろって言ったんだから見ていいんだよな。
「えっと…、なになに?…………へぇー、苗字と釘崎今、買い物行ってんのか!」
「問題はそこじゃねえ」
「……うん、まぁ、そこじゃないよね…」
俺的には伏黒の束縛が問題だと思う。だって、何時に帰ってくるんだとか、どこ行くんだとか、そこで何するんだとか、男が多い場所は行くなとか、これ父親が娘にやるやつじゃねぇの?それにしても細かく聞きすぎてる。なに?苗字の行動表を作るつもりなの?この細さだと分刻みの行動表作れちゃうよ?
「……えっと、これのどこが苗字がうざいってことになるの?ちゃんと返事してくれてるじゃん。むしろこれは伏黒がうざいのでは…?」
「はァ?」
「とっ、とりあえずこれのどこが駄目なんだよ?」
伏黒は俺を凄むとスマホを更に俺に近付けた。今日の伏黒は何が言いたいのかサッパリ分かんねぇ…。
「問題は返信の内容だ」
「…内容?俺が見た感じちゃんと細かく教えてくれてたけど…」
「俺が晩飯は寮で食うのかって質問の答え見てみろ」
「ん?」
俺がもう一度画面を見ると、確かにその内容の質問を伏黒がしていた。他の質問内容が濃すぎて見えてなかった。そして俺は苗字の返事を見た。
「…しゃけ?」
「そうだ」
「………あぁ!狗巻先輩の!」
最初は晩飯しゃけが良いのかな。なんて思ったけど、狗巻先輩の肯定がしゃけだって聞いたことあったなって思いだした。………え?これが伏黒のキレてる理由?なんで?
「えっと…、伏黒さん…、これのどこがマズイのでしょうか…?」
「はァ…?」
「だってただの返事だろ?別に狗巻先輩と一緒に居るわけじゃないし…」
「……はぁ…」
「え、なんで溜息?」
何故俺が呆れられないといけないのかが分からない。伏黒はなんで分からねぇんだ?コイツみたいな顔してるし。いやいや、俺は正常な筈だ。伏黒が少しおかしいんだ。
「……最近、苗字は狗巻先輩のおにぎりの具にハマってるらしい」
「へぇー…」
「メッセで送ってきたのもこれが初めてじゃない。ここ最近は何かとおにぎりの具で返してくる」
「ふーん…」
「うざいだろ」
「ほぉー……………え?なんで?」
だって、さっきのメッセの感じだと肯定が否定かの時にしかおにぎりの具は見当たらなかった。急にこんぶとか、明太子!って送ってきたわけじゃない。会話は成り立ってるから別にムカつく要素はないと思うんだけど。
「…………えっと、えっと?伏黒は何がそんなに嫌なの?だって会話はちゃんと成り立ってるじゃん」
「他の男の言葉を使ってんだぞ」
「苗字は多分スタンプ感覚だと思うんだけど」
「なら俺のを使えばいいだろ」
それこそおかしい。俺だったら急に自分の彼女が逕庭拳とか言い始めたら心配するし、伏黒の定義で言ったら、今日何する?って聞いて玉犬って返ってくるんだよ?……え?ってなるでしょ?
「……それは、無理じゃないカナ…」
「なら使うなよ」
「…………最近気づいたんだけどさ、伏黒ってちょっとお馬鹿だよね」
「オマエと一緒にするな」
俺も今の伏黒とは一緒にされたくないかな…。どうしよう。明日から苗字が玉犬、とか大蛇とか鵺って叫び出したら…。会話出来る気がしねぇよ俺……。
「……直接、苗字に言ってみたら?おにぎりの具やめてくれって」
「言った」
「言ったの…!?勇者だな…!?」
「俺が昨日、おにぎりの具で返すのやめろって言ったら、苗字は首を傾げてなんで?っつったんだよ」
「……うん、普通の反応…」
「そしたら苗字はしゃけって可愛くない?って笑うから……」
「…………………可愛くて許しちゃったワケね…」
図星なのか伏黒は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。やめて欲しいけど苗字の笑顔には勝てなかったのか。
「それに、しゃけって言いながら笑う苗字は素直に可愛い」
「開き直らないでもらえますかね…!?」
もう全て解決してる気がすんだけど…。苗字が可愛いんだからもう良くない?可愛い苗字が見れて伏黒はハッピーじゃん。はい、この話終わり。
「…あれ?伏黒電話鳴って…、ってもう出てる」
今鳴ってからワンコールだったんだけど。
「どうした?…………分かった。虎杖と向かう。………いい。釘崎と待ってろ」
「なに?どっか行くの?」
「苗字と釘崎が買い物しすぎて荷物持ちが欲しいらしい」
「………俺も行くの?」
「釘崎の荷物持ち居ねぇだろ」
「………………あ、そう、」
考える事を放棄して伏黒の後について行くと、釘崎と苗字が居た。釘崎は遅いって怒ってたけど苗字は凄く申し訳なさそうだった。性格真逆だよな。コイツら。
「遅い!腕が痺れ始めてるんだけど!」
「自分の荷物だろ…!?」
「持つから貸せ」
『え…!いや、私はそんなに無いから野薔薇のを持ってあげて!』
「やっぱり名前を使えば来ると思ったのよ」
確かに苗字の荷物は少なかった。つまり釘崎の荷物が多くなったから苗字を使って伏黒を呼び出してついでに俺も呼び出されたワケね…。
「………俺、流れ弾当たってんだけど」
「はァ?何言ってんの?」
「こっちの話…」
俺が釘崎の荷物を受け取ると釘崎は首を傾げていた。その間も苗字は伏黒の申し出を断っていた。まぁ確かに紙袋ふたつなら頼みずらいよな…。
『本当に大丈夫だって!袋だって小さいし』
「転んだら危ねぇだろ」
「「小学生か」」
俺と釘崎の声が重なると苗字は引かない伏黒に諦めたのか比較的小さい紙袋1つを渡していた。でも伏黒は2つとも奪うと、苗字の手を取った。本当に俺たちの前でも隠さなくなったよな。
「あー、軽くなったー」
「飯は?寮で食うの?」
「私結構お金使っちゃったし、名前も寮がいいって言ってたから寮で食べるわ」
「えー!俺腹減ったんだけど!」
『なら荷物持ってもらっちゃったしコンビニで何か奢るよ!』
「俺が持ってるの釘崎のなんだけど…」
「名前の給料舐めんじゃないわよ」
「なんで釘崎がドヤ顔してんの…?」
確かに苗字は準一級で任務も1人で行って、俺たちの倍以上こなしてるわけだしなぁ。改めて苗字凄ぇな。
『野薔薇は?何か食べる?』
「肉まん!」
『虎杖くんは?』
「俺はおにぎり食おっかな!」
『おぉ!おにぎり!』
俺の何となく発した言葉に苗字は瞳をキラキラと輝かせていた。ちょっと選択ミスったかも。
『何食べるの…!?』
「え、えっと、」
「…………」
やばい。伏黒が俺を睨んでる。分かってる。しゃけとおかかは駄目なんだろ?……あれ?でもさ狗巻先輩ってこんぶとかいくらとかも言ってるよな?おにぎり選べなくね?
『私のおすすめはねぇ〜…』
「い、いや、いいよ!今度聞くから!」
苗字は伏黒と繋いでいない片手で拳を作って掲げるとコンビニの中で許される位の大きな声で高らかに宣言した。
『しゃけー!』
「…………」
まぁ、確かに可愛いと思うよ。いつも遠慮とか控えめな苗字が子供みたいにはしゃいでるもんな。だから伏黒も嫉妬と可愛いの板挟みで困ってるんだろ。顔が微妙な顔してるもんな。
『伏黒くんもおにぎり買う!?』
「絶対買わねぇ」
でもさ伏黒、俺やっぱりおにぎりの具を気にするくらいなら、数十分事にどこにいるかとか聞いてるオマエの方がうぜぇと思うんだよね…。