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家に着いて気がついた


「...服なにもねぇな」

『...?』

「取りに行く、しかねぇか...、いや明日にするか」


既に時刻は20時を過ぎていてとりあえず今日は俺の服を着せることにした



「名前お風呂ですが...」

『入れるよ!』

「え?」

『名前!1人でできる!』



そう言って名前はパタパタと足を鳴らし走っていった


「.....風呂の場所教えてないだろ...」


俺が仕方なく後を追うと名前は首をキョロキョロさせていた


「こっちです」

『あ、』



教えると名前は服を脱ぎ始めた


「(...風呂って1人で入るようになるのって何歳だ?)」



疑問に思っているといつの間にか名前は扉を開け、中へと入っていった


が、すぐに扉を少し開け顔を覗かせた



『...?いるまさん』

「なんですか?」

『名前のがないよ』

「は?」

『名前のせっけんがないの』

「...せっけん?」



シャンプーのことだと思い、指をさそうとして
メンズしかないのを思い出したが、仕方ないと割り切った


「それ使ってください」

『だめだよ』

「は?」

『プシュってやるのは使っちゃだめよ。ってママが言ってたよ』

「...はい?」

『名前がいつも使ってるのはプシュってやるやつじゃなくて、ゴシゴシするやつ!』

「...?」

『四角くて、ゴシゴシするの!』



名前は両手を擦り合わせていた



「.....本当にせっけんを探してたのか」

『どこ?』

「...ないので、そこにあるやつを使ってください」

『でも、』

「いいですから」

『...うん』


様子を見ていると名前はシャワーへと手を伸ばした



昨日は疲れていてシャワーだけで済まそうと熱めにしていたことを思い出した



「まっ、ばかっ!」

『へ?』


お湯がシャワーから出た瞬間にシャワーを自分の方へと向けた



『っ、いるまさっ!』

「あっ.....ちぃ、」




スーツはびちょ濡れになり、セットした髪型も崩れた



「...怪我は?」

『だ、だいじょーぶ...』

「はぁ...」



俺は濡れたスーツに手をかけ脱いだ


『あ、』

「...?」

『いるまさんも一緒にお風呂入るの!?』



名前は目を輝かせていた


「は?」

『はいろー!』

「.......はぁ」



俺はシャワーの熱さを調節して1度風呂を出て
スーツを脱ぎ、もう一度風呂場に戻った



『名前ね!ちゃんと一人で洗えるの!』

「そうですか」


俺は湯船へと浸かった

名前は俺がいつも使っているシャンプーに
手をかけ、力いっぱい押しシャンプーを出すと頭を洗い始めた


「ぶはっ!」


俺が名前に目を向けると、シャンプーを付け、手ではなく、何故か頭を前後左右に振っていた



「ふっ...、ははっ、.....っ、」

『...?』

「か、ふふっ、かべ、壁の方、向け」

『...?なんで笑ってるの?』

「いいから、ぶっ、」



そう言って名前を壁の方へと向かせ、浴槽から腕を伸ばし名前の頭を洗った




「頭洗う時は手を動かせ。...ぶっ、ふふ、」

『いるまさん、楽しそうっ!いるまさんが楽しそうだと名前も楽しいっ』

「...そうか」



そう言うと名前は鼻歌を歌っていた



『〜♪』

「音痴だな」

『おんち?』

「歌が下手ってことだ」

『えー!いるまさんおんちなの!?』

「なんで俺なんだ」




体を洗い終わると名前は椅子から立ち上がりドアへと向かった



「おい」

『...?』

「入らないんですか?」

『...?お風呂入ったよ?』

「.....」


俺は頭を抱えると名前を手招きで呼び、
湯船から腕を伸ばし名前を抱き上げた



『わっ!』


そのまま湯船に入れようとすると、浴槽が深く
名前が沈んでいくのに気が付き仕方なく自分の腹の上に乗せ高さを合わせた


『あったかーい!!』

「お風呂ですからね」

『ふふっ、プールみたい!』

「そうですね」



俺は半分聞き流しながら相槌をうっていた



自分が体を洗っていないことを思い出し、
お風呂の栓を抜き名前に高さを合わせ自分は浴槽から上がり頭を洗った

その間もずっと名前はキャッキャッと遊んでいた



「.....引きずってますね」

『あるき、ずらい、』



自分の持っている服の中でも小さいものを選んだが
当たり前だけど大きくて、名前はTシャツ
引きずっていた


「...明日、買いに行きましょう」



ソファに目を向けると既に名前は首をかくかくと揺らしていた



「はぁ...」


時計は10を指していた


名前を抱き上げ、寝室へと連れていきベットへと下ろし自分も布団へと潜る



「(すごく温かい)」


子供体温ですぐに布団は温まった


隣にいる名前に目を向けると既に眠っていた


慣れない子供の相手をしたからかいつもよりも疲れていてすぐに意識が無くなった






「.....ぁ?」



ふと目が覚めると隣にいたはずの名前がいなくなっていた



布団から出て探しに行くと名前は廊下をキョロキョロしていた



「なにしてるんですか」

『あの、おトイレ、行きたい、』

「あぁ、」



そういえば教えてなかったことを思い出し
トイレへと連れていった




「(この年の子供って一人でトイレ行くの嫌がるんじゃないのか...?
それに、風呂だって普通はまだ親と入ってる歳だろ?)」





そんなことが脳裏に過ぎり、名前の育った環境は俺の想像以上に過酷だったことに気がついた




『...あれ?いるまさん?』




ドアの近くで待っていると名前はなぜ俺が待っているのか分からないと言う顔をしていた


「...寝るぞ」

『うん!』



次の日起きると名前はまだ眠っていた


俺は際に布団から出て朝ごはんの準備を始めた




『おかいものだ!』


朝ごはんを済ませると最初はスーパーへと向かった




「まずはシャンプーか」

『できるよ!』

「...今度はなんですか」



名前はそれだけ言うとスーパーの中へと走っていった



足早に追いかけると名前はシャンプーコーナーにいて辺りをキョロキョロしていた


「...?」



嫌な予感がし、名前を見ていると突然
服の中にせっけんをしまい歩き出した


俺は腕をつかみ名前を止めると、当の本人はキョトンとしていた


「なにしてんだ!」

『...?』

「とりあえず出せ!」

『なんで?』



名前は本当に分かっていない様子で首をかしげていた



「何やってんだ...」

『だって、ママがいつも言うよ?自分で取ってきなさいって』

「あんのっ、クソアマっ!」

『いるまさん?』

「...はぁ、名前」

『なぁに?』



俺は名前の前にしゃがみこみ目線を合わせた



「店の物を取るな」

『でも、』

「店の物を金を払わずに取ると俺はお前と離れないといけなくなる」

『ぇ、』



俺がそう言うと名前は瞳に涙を溜めた



『や、やだっ、』

「なら約束できるな」

『できるっ、できるっ、からっ!』



泣き始めた名前を抱き上げると、必死に俺の服を引っ張り掴んでいた


片手で名前の体を支え、もう片手でカゴを持ち買い物を進める


『...おりる、』


おりる、とは言ったものの名前の手は未だに俺の服を掴んでいた


そのまま名前を下ろさずに買い物を終えると
名前の家へと向かい、名前を車に乗せたまま服を取ってきて車を走らせた



家に着きテレビをつけソファに2人ならんで座っていると名前がソワソワとしだした




「(なんだ?)」



時刻は17時でまだ腹が減ったわけではないだろうが俺は一応何かを作ろうと立ち上がり着替えるために寝室へと向かった




リビングの扉に手をかけると中からさっきまで流れていたニュースではなく軽快な音楽が聞こえた



音を立てないように開き、中を見るとテレビはニュースではなく子供番組になっていた


中へとはいると名前は振り返り顔を青くし
テレビをニュースへと戻していた



「見ないのか?」

『こ、これでいい!』


リモコンを胸元で握るとそう言った



「別に見ればいいでしょう」

『いいのっ!名前はこれがいいのっ』

「(嘘だろ)」



家では隠れながらテレビを見ていたんだろう
と検討をつけ俺は名前が握っているリモコンを取り上げるとチャンネルを子供番組に変えた



『え、』

「俺が見たいから変えたんだ」

『そ、そっか!!』



俺が苦し紛れにそう言うと名前は目を輝かせテレビへと目を向けた



『いるまさんとラビットマンは似てるね!』

「ラビットマン?」

『これ!』


名前はテレビを指さした


「は?」


画面は兎のようななりをしたキャラクターが
ゴリラと戦っているシーンだった


すると兎はどこからかトンカチを取り出しゴリラを殴っていた


「これ子供番組で大丈夫なのか?」

『ラビットマンは悪い人を倒すんだよ!』

「倒す前に殺してるだろ」

『いるまさんもラビットマンと一緒で名前をたすけてくれた!ありがとう!いるまさん!』



トンカチでゴリラを殴っている兎男と一緒にされるのは心外だったが、名前が笑っていたから、まぁいいかと思い俺は夜ご飯を作るために台所へと向かった




「今日はハンバーグです」

『やったぁ!!!』




その日は名前が好きだと言うハンバーグに
してやった










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