02




確かに言った。確かに言ったよ?けどさ………




碧棺左馬刻が私のチェキ会に来ると思わないじゃん!?






ーー事の始まりは2週間前の事だった。




「チェキ会やらない?」

『チェキ会ぃ?』

「そう!ついてきてくれた数少ないファンの為にもさ!」

『前から気付いてたけど失礼だね?……事実なんだけどさ』

「だろ?だからお礼のチェキ会!」




私の幼馴染であり、ベース、及びマネージャー的な業務をこなしてくれているモブ太郎がそう言った。ちなみにモブ太郎はあだ名だ。





『……私アイドルじゃないんだけど?』

「分かってるって!そんな顔のアイドル見た事あるか?」

『よーし、名前ちゃん頑張っちゃうゾ〜?左頬出せオラ』

「右手の握り拳は何?」

『今からこの拳がお前の頬に届くからな〜?』




私が胸ぐらを掴むとモブ太郎は他人事の様にケラケラと笑っていた。その楽しそうな表情に毒気を抜かれソファに座り直す。




「名前SNSやってるよな?」

『……やってるけど』

「それって個人のやつ?歌手としてのやつ?」

『ひとつしかアカウント無い。別にどっち用とかも無いし…』

「じゃあチェキ会やるよって呟いて」

『……本気でやるの?』

「やる!儲けるぞ〜!」

『チェキ無いじゃん』

「…………」

『気付いてたけどお前バカだろ』

「……買ってくる!……1000円くらいのやつ!!」

『安過ぎない!?……行くの早っ!』






****





って事があって今に至るわけだけど………





『……ねぇ、』

「ん?なに?」



私は近くにいるモブ太郎にヒソヒソと口を寄せる。するとモブ太郎はクエスチョンを頭に浮かべたまま首を傾げる。





『碧棺左馬刻が居るんだけど!』

「いやいやいや!居るわけ無いだろ!自分の顔わかってんの?」

『殴りたい!殴りたいけどそんな事より問題は碧棺左馬刻だよ!』

「似てるだけだって!そんじゃあチェキ会始めるからな〜」

『お願い!今だけはちゃんと話聞いて!?一生のお願いだから!』





モブ太郎は形から入りたいのか黒いスーツにサングラスをかけてチェキを撮りに来てくれた人達の列の近くにスタンバっていた。




「いつも応援してます!特にロック系の曲が好きで!っ、えっと、応援してます!」

『ありがとうございます。これからも頑張ります』

「撮りますよ〜」



モブ太郎が連れてきたカメラマン(ただの友人)が安いチェキを構えて、チーズと言ってシャッターを切った。

それを何度も繰り返してあと残りも半分以下になった時、その人は現れた。




『…………えっと、』

「……」

『………………し、したい、ポーズとか、ありますか?』

「……………」




辛い!辛いよ!この無言が辛いよ!何かミスをしたら殺されそうだよ!



碧棺左馬刻と思われる男はいつもと同じでスーツにサングラスをつけていた。モブ太郎とは違ってすごく高いスーツだと言うのが私でもわかる。きっと触れたら弁償させられることもよく分かる。




「と、とととと、おります」



カメラマンの彼も恐怖からか、おりますと勝手に下車予告をし始めた。私も冷や汗を流しながらも笑顔だけは貼り付けて彼を見上げる。




「…………なんでもいい」

『……………へ?』

「……ポーズはなんでもいい」






低く唸り出された声に一瞬何を言われたか分からなかったけど、もう一度言われてやっと理解が出来た。そのままそっぽを向いてしまった彼に私は慌ててピースをしてチェキを見つめた。




『………………かっ、おが…、』

「…あ?」






隣でサングラスを外した気がして何となく見上げると、碧棺左馬刻の顔があまりにも良すぎて目を見開いてしまった。顔が良いことは知っていたけど近くで見ると本当に作り物の様だった。





『……な、なんでもないです…、すみません…』

「…なんで謝ってんだ」

『…その、……すみません…』





私は意味も分からず謝り、眉を下げたままチェキを見つめた。すると隣で鼻を鳴らす音が聞こえたのと同時にチェキのシャッターの音が響き渡った。

カメラマンは震える手でチェキを碧棺左馬刻に渡すと、隣にいた私は出来上がったチェキが見えてしまった。




『ヒェッ…!』

「……?」





私の小さな悲鳴に彼は眉を寄せて不思議そうな顔をしていたけれど私はそれどころでは無かった。



だって、


だって!!





ーー碧棺左馬刻が笑ってたんだもの…!!





ニッコリとか満面の笑みとかでは決して無いけど…!でもそれでも碧棺左馬刻は確かに薄らと笑っていた!その表情があまりにも優しげで私は膝から崩れ落ちそうになった。






「……また来ても良いか、」

『…………お待ちしております…、』




私がそう言うと彼は目元を微かに緩めた気がした。そしてまたサングラスをかけると静かに会場を後にした。






「私は名前ちゃんの味方であり、推しですからね!」

『……ありがとう?』

「好きなカプは左馬刻様×名前ちゃんです!」

『んんっ!?』



碧棺左馬刻の次に並んでいた女性ファンにそう言われて私は驚きのあまりガクリと後ろに尻もちを着いてしまった。



初チェキ会なのにこの有様……









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