07




『あ、私が払うよ』

「え、いや、」



『会計済ませといたよ』

「あ、ありがと、」




『ん?これ欲しいの?』

「ち、ちが、」





『お姉さんに甘えなさい』




イケメンすぎるっ!!
俺の彼女がイケメンすぎるっ!

これじゃあどっちが彼氏か分からない!ダメだ!このままではダメだっ!!




『え?バイト?』

「うん、そうなんだ。2週間前から」

『へぇ、凄いね。頑張ってね』

「うん!」




っていう会話が1週間前にあったわけだが...



『あれ?二郎?』

「え?...っ!名前さんっ!」

『ここでバイトしてたんだぁ』

「うん!」


俺は名前さんの会社の近くにあるカフェで
バイトをしていた。カフェなんて俺らしくないけど名前さんはこういう落ち着いた雰囲気のカフェが好きだったから、もしかしたら仕事終わりに会えるんじゃないかー。なんて下心満載の気持ちでこのカフェでバイトを始めた


で、読み通り会えたわけなんだけど...


「あっれー!?一郎のとこの子じゃん!」

「.....シブヤディビジョンの、」

「飴村乱数っでーす!」

『仕事終わりに歩いてたら会ってお茶しようって話になったんだ〜』

「そうそう!んで!?名前と一郎の弟君はどういう関係!?」

「彼氏」

「え!?そうなの!?」

『うん、そうだよー』

「へぇ...。僕はてっきり一郎と付き合ってるのかと思ってたよ〜」

『違うよ、一郎は助けてくれたんだよ』

「ふ〜ん。でもさぁ、名前って年上好きじゃなかった?」

『なんかその言い方嫌だな...』

「ごめんごめんっ!でも付き合うなら年上がいいって言ってたじゃん?」

『まぁね〜』

「俺が彼氏なんだからいいだろ!」

「...そうだね!とりあえず席つこうよっ!」



多分兄ちゃん経由で知り合ったんだろうけど...。でも、納得いかない...



「ご注文は?」

「うっわ〜。この店員さん態度わっるーい!」

「...」




右手を握りしめたのは仕方ないことだと思う




『えっと、私はココアにしようかな』

「ここオススメなのコーヒーじゃないの?」

『えっ、そうなの?』

「名前さんはコーヒー苦手なんだよ」

「...へぇ。なら僕はミルクティにしようかなっ!それでココア1口ちょーだいっ!」

「はぁ!?」

『え〜』



いや、え〜、じゃなくてちゃんと断ってよ!それ間接キスってことだろ!?


「ねぇ?いいでしょ?」

「...ココア2つですね?カシコマリマシター」

「はぁ?僕ミルクティなんだけど」

「ココア飲みたいんだろ?ならココアでいいだろ」

「ミルクティも飲みたいのっ!」

「じゃ、ココア2つとミルクティ1つでよろしいですね?カシコマリマシター」

「.....僕こいつ嫌なんだけどっ!」

『まぁまぁ、とりあえずココア2つと...、私木苺のタルト食べたいな』

「うん!わかった!」

「.....クソガキ...」

『乱数くん、本性でてるよ〜』

「え〜?なんの話〜?」



これが1週間前の話だ




『やっほー!また来たよ!』

「あ!名前さん!いらっしゃいませ!」



今日は女の人と来ていて多分仕事の人だ。
男じゃなくて良かったと思ったのは秘密だ。



*****


私はまた二郎が働いているカフェに来ていた


「ほらみて!あの人!」

「ほんとだっ!かっこいい、」

「彼女いるのかな〜?」



なんて声がちらほら聞こえてくる


「あらまぁ、名前の彼氏人気じゃん」

『あー、うん、そうだね』


確かに二郎はかっこいい、

それは前からわかってたんだけど...



「あの〜」

「はい、なんすか?」

「彼女いるんですか?」

「は?彼女?」

「はい」

「います、けど」

「...そうなんですか〜...。」





女の子は落胆したように息を吐いていた



「狙われてんじゃん」

『うん...、そうだね』

「...?.....ははーん。なるほど」

『な、なに?』

「なんでも〜」



なんか、面白くない。




「声かけちゃおっかな〜」

「え〜!」

「だってかっこよくない!?」

「かっこいいけどさ〜」



……なんか、面白くない



「あ、名前さん!何にする?ココア?」

『...』

「あ、私はコーヒーで」

「かしこまりました。名前さんは?」

『私もコーヒー...』

「え?でも、名前さんコーヒー...」

『...コーヒー』

「そ、そっか、わかった!」

『...ん、』

「.....なんか機嫌悪い?」

『...べつに、』

「ねぇ、名前さーーーー」

「山田くーん!次のオーダーお願い!」

「は、はいっ!」




今はとにかくこのモヤモヤする感情を無くしたくて、甘いものを飲む気にはなれずコーヒーを頼んだ



「旦那。チラチラこっち見てるけど?」

『旦那じゃない。』

「あ、こっちきた」

「お待たせしました!」

「あ。ありがとう」

「あと、名前さんは、これ」

『...なに?』

「砂糖とクリーム多めに持ってきたから」

『...』

「コーヒー苦くてって言ってたから」

「さすがは旦那」

「だ、旦那?」


旦那と言われて二郎は頬を染め困ったように
笑っていた



私、勝手に機嫌悪くなって二郎に冷たくしているのに。二郎はそんな私には優しくして甘やかしてくれる。これじゃあどっちが大人か分からないよ。

さっきまでの苛立ちが少し無くなったような気がした。



「あ、それじゃあ、俺戻るね!」

『.....二郎』

「ん?どうしたの?」

『.......ありがとう』

「っ、うん!」





「うっわ、あれは好きになってもしゃーないわ」

『え?』

「お礼言っただけであんなに嬉しそうに笑われちゃあね〜」

『...べつに、』

「別にって、どこのツンデレキャラよ」

『ちがう』


キャラっていうか、エリカ様だし。



「あ、そうだ!名前さん!」

『なに?』

「まだここにいる?俺あと30分で終わりなんだけど...」

『.....』




この空間に30分か...





『あー、ごめん、もう帰るから...』

「そ、そっか...」

『それじゃ、ごちそうさまでした』

「うん…」


同僚と帰り道を歩いていると、つんつんと肩を啄かれる。



「旦那落ち込んでたよ〜」

『だから、旦那じゃないって』

「意外だな〜」

『なにが?』

「名前がヤキモチやくなんてさ」

『へ?』



いまなんて?



「え?」

『な、なに?』

「...え?嘘でしょ?」

『.......え、』



いやいやいや…。まさか…。



*****



なんか名前さん、元気無かったな...
でもお店来た時は普通だったし...。俺なんかしたのかな…。

とりあえず電話して...


「.......」

出ない...。


まだ20時だし、寝てないよな...


家行ってみるか...





チャイムを押すと家の中から声がした



『...はい?』

「あ、名前さん」

『二郎?』

「そ、そう。ドア開けてもらってもいい?」



そう言うとドアを開けてくれたんだけど俺はドアを自分で閉めた



『え?え、な、なに?』

「.....はっ、あ、ご、ごめん!!あの、その、か、格好、が...」

『...格好?』




名前さんはお風呂上がりなのかタンクトップに
ショートパンツというラフな格好だった


『...あ、なるほど、』

「ご、ごめん」

『...二郎はどうしたの?バイト終わりなんでしょ?帰らないの?』

「名前さんの様子がおかしかったから…。大丈夫?」



いつもならすぐにドアを開けてくれるのに今日は開けてくれない


「...名前さん?」

『...ごめん、二郎』

「ど、どうしたの?」

『...今日は帰ってほしい』

「.....え」


多分頭を殴られた様な衝撃ってこういうことを言うんだろう

名前さんの声は元気がなくて、俺を拒否しているのもわかった





「な、なんで?俺、なにかした?」

『してないよ。』

「じゃ、なんで?体調悪い?」

『...悪くない。ごめん、』

「な、なんで、」

『明日、ちゃんと話は聞くから、今日だけは帰って』

「...、」


頭が真っ白になった。拒否されたのが初めてで、どうしたらいいか分からなかった





けど、





「...ドア、開けてほしい」

『...え?』

「ちゃんと話したい。」

『...今日は、』

「今、話したい。」

『二郎、』

「俺がなにかしたんでしょ?ちゃんと話を聞いて謝りたい」

『...ちがうの、』

「え?」

『私が、悪いから、』

「え?」

『とにかく、帰って、』

「...帰らない。ちゃんと話聞くまで、待ってる」

『...二郎、』

「本気だよ」

『.....』




俺が本気なのを分かってゆっくりと名前さんはドアを開けてくれた。部屋に行くと名前さんは俺にお茶を出してくれて、俺はゆっくりと床に腰を下ろした



静かな時が流れる


『あのね、』

「な、なに?」



静かに名前さんが話始めた



『...えっと、なんて言えば、いいのかな、』

「...俺、なにかしたかな、」

『ちがうよ!それは、ちがう、』

「...」

『あの、ね、』

「う、うん、」



名前さんは意を決した様な顔つきになり、話し始めた



『その、あのね、』

「うん、」

『私が、』

「う、うん、」

『や、やき、』

「やき?」

『ヤキモチ、』

「.....へ?」


やばい、すごい間抜けな声出た




『だから、その、』



名前さんは珍しく頬を染め目線を下へと泳がせていた


『だからっ、あーもう!!』

「え!?」

『二郎があのカフェで女の人達にモテモテだから
ヤキモチやいたの!!!それでモヤモヤしてたの!!だから今会ったらきつく当たっちゃいそうだったから会いたくなかったの!それだけ!以上!質疑応答は認めません!解散!!』




そんなの、さ、



「か、可愛すぎ.....」

『へ!?』



俺は耐えられずに手の平で顔を覆い顔が見えないように下を向いた



『で、でも、こんな女、めんどくさいじゃん...』

「...そんなこと言ったら俺はもっとめんどくさいよ」

『え?』

「この間の飴村乱数と来た時だって嫌だったし、
会社の奴だって、嫌だったし、それに、俺ばっかり好きだと思ってた、から」

『...嫌じゃないの?』

「嫌じゃないよ!...俺は嬉しいよ、」

『...ほんと?』


名前さんは自信なさげに机を挟んで向かいにいる俺に目線を送った


俺はゆっくりと立ち上がり向かいにいる名前さんの前に正座をして座って、そのまま名前さんの額に自分の額をコツリと合わせる




「本当に嬉しい。」

『よ、よかった、』





名前さんは嬉しそうに目を細め目線を下げた




「それに俺がバイト始めたのは名前さんの為だし」

『え?』


俺は名前さんの膝に乗っている名前さんの手を握った


「いつも名前さんがお金払ってくれてるじゃん?...だから、それじゃ彼氏として、男としてダメだと思って、それでバイト始めたんだ」

『そ、そうなん、だ、』

「それにあそこのカフェを選んだのだって名前さんの会社が近いからだし」

『へ?』

「ああいう雰囲気好きでしょ?だから、もしかしたら仕事終わりに来てくれるかなって」

『そ、そっか、』


名前さんは恥ずかしそうに、擽ったそうに身動ぎをした




『...私、ヤキモチやいたの初めて、』

「え!そうなの!?」

『.......なんでそんなに嬉しそうなの?』

「だって、そんだけ俺のこと好きなんだなぁって、」

『.....そっか、なるほど、』

「どうしたの?...っ、」




名前さんは納得したような顔をして
そのまま俺にキスをした




『好きだよ、二郎』




そう言った名前さんの顔はすごく可愛くて



可愛くて、




『っ!こらっ!退いて!』



押し倒した。







もちろん未遂で終わったけど



けど、今はこのままでもいいかな、なんて




名前さんが俺のこと好きだって確認できたから









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