04




気まずい…。

大変気まずい…。



私の車の助手席には二郎が座っていて、窓の外をじっと眺めている。


『いやぁ!晴れてよかったね!』

「.....」

『そ、そう言えば今日は今年1番の暑さらしいよっ!』

「.....」

『や、焼けないように、しないとなぁー!』

「.....」

『ね、ねぇ!?二郎くん!暑いね!』

「.....そうだね」


二郎が答えてくれた!と感動していると後ろから声がかかる




「俺らまで乗せてもらって悪いな」

「ありがとうございます」

『い、いやいや、行く場所一緒だしねぇ!』

「二郎?どうした?体調悪いのか?」

「ううん。悪くないよ、大丈夫。ありがと兄ちゃん!」

「ふっ」

「あァ?何笑ってんだ三郎」

「別に?」

『あ、あはは』





なんでこうなったのかと言うとそれは1週間程前に遡ることになる。







『ぷーる?』

「そう!俺と名前さんで行かない!?」

『んー、まぁ、いいけど』

「やった!!来週の祝日は?」

『うん、いいよ』

「よっしゃ!!」



*****


『え?一郎たちもその日プール行くの?』

「あ?たちも≠チてことは名前も行くのか?」

『そうそう。二郎と行くんだよね』

「だからあいつ嬉しそうだったのか」

『一郎たちは何で行くの?』

「俺たちは電車とバスだな」

『あ、それなら私の車で行く?』

「いや、それは悪いだろ」

『行く場所一緒なんだからその方が楽でしょ』

「ほんとにいいのか?」

『うん、もちろん』

「ありがとな」

『いいえ〜』




このことを一郎が二郎に伝えてくれていたと思ったし、二郎は一郎のこと大好きだから別に良いかなぁなんて簡単に考えていたのが悪かった





『迎えきたよー』

「あっ!名前さん!」

「んじゃ、今日は頼むな」

『はいよー』

「...え?」

『え?』






それからは助手席でムスッとして窓を見つめている






『あ、ここのサービスエリア寄ってもいい?喉乾いちゃった』

「なら俺らが買ってくる。乗せてもらってるしな」

『え、いやでも』

「いいから、なにがいい?」

『んー、とりあえずお茶で』

「わかった。行くぞ、三郎」

「はいっ!」




車内に2人きりになって、静寂が騒がしく走り回っている。


『えーと、二郎さん』

「...なに?」

『なんでそんなに怒ってるの?』

「...別に怒ってない」

『でも今日ちゃんと目を見て話してくれないし』

「...それは名前さんが運転してるから」

『いつも私が危ないからダメって言ってるのに手を繋ごうとするでしょ?』

「...怒ってないよ」

『ほんと?』

「怒ってはない。ただ、一言言ってほしかった。もちろん兄ちゃんは大好きだから嫌だって事は無いけど、でも今日は俺が名前さんを独り占めに出来ると思ってたから」

『...そっか、ごめんね』

「...いいよ。俺も子供みたいな事してごめん」

『高校生は十分子供だよ。』

「...すぐに追いつく」




それでも二郎の顔は晴れなくて。






『あのね、二郎』

「ん?」




私は助手席の方へと体を少し傾け、二郎の耳元で




『今日の水着二郎が好きそうなの選んだの』

「.....そうなんだ」

なんて、クールな答えが返ってきたけど、顔はニヤニヤしてるし顔も少し赤くなっている二郎を見て私は








ちょろいな





と思った。





「おー!人多いなっ!名前迷子になるなよ」

『前から思ってたけど一郎は私のこと妹がなにかと勘違いしてるの?』

「こんな姉がいるなんて嫌です」

『三郎、聞こえてる』

「とりあえず着替えたら待ち合わせるか」

『ん、りょーかい』



更衣室は人が多くて汗かくからさっさと着替えようと私は足早に向かう




「何そわそわしてんだ、童貞」

「はっ!?してねぇ!」

「はぁ、気持ち悪い」

「なんだとっ!」

『お待たせー』

「っ!名前さんっ!全然まって、な、い」

『ん?どうかした?』

「き、聞いてないっ!」

『え?』

「て、て、てぃ、Tシャツ来てくるなんて聞いてないっ!」

『...いや、だって焼けるし...。』

「っ、」

「はっ、ざまぁみろ」

「さっぶろう!!」

「おい!プールで走るなっ!危ないだろ!」

「ごめん、兄ちゃん!」

「ごめんなさい、一兄!」

「おー!ウォータースライダーあるぞ!」

「行こう!兄ちゃん!」

「僕も行きますっ!」

『私荷物番してるから行っておいで〜』

「えっ、さすがに...」

『元々泳ぐ気ないし、行っておいで』

「...すぐ戻るからな」

『いや、遊んできなよ。プールなんだから』

「一兄!行きましょう!」

「お、おう!」

『若いねぇ』



プールサイドに敷いたレジャーシートとパラソルの下で腰掛けていると、フラフラと三郎が戻ってきた



『あれ?三郎?』

「つ、つかれ、た、」

『うわ、若いくせに』

「...体力ゴリラと一緒にしないでください」

『...それ一郎も入ってるの?』

「そんなわけないだろっ!!」

『ぅわっ!いきなり大声出さないでよ』

「ゴリラは二郎だけ」

『お、おう。んで?プールは終わり?』

「元々人が多いのは好きじゃない」

『ふーん。あ、かき氷食べる?食べかけだけど』

「いらない。.....零れてますけど」

『え?うっわ!ほんとだ!Tシャツ黒のが良かったなぁ...。でも黒暑いし、なっ、』

「はぁ!?なにして!」


Tシャツをバッと脱ぎ去ると、蒸れていた肌に熱風のはずの風がひんやりと感じられた



『うぉー、涼しい〜。やっぱTシャツ脱ぐだけでも違うな〜』

「っ、」

『ん?どった?』

「なんでもないっ!!そんな貧相な体見せるなっ!」

『...三郎さん辛辣過ぎません?まぁ、無視されないだけいいけど。』

「...無視するわけないだろ。いちにぃが友達だって言ってたんだから」

『え?』

「は?」


三郎は少し不機嫌そうに私を睨んだ




『あー、うん。まぁ、そうなんだけどさ』

「...なんですか?」

『一郎も確かに友達だけど、私は三郎のことも友達だと思ってるんだけど』

「.......は?」

『だってたまに一緒にゲームやったりするじゃん。私バカだから負けるけど。え?もしかしてそう思ってたの私だけ?まじか。』



密かにショックを受けていると、三郎は立ち上がって私を見下ろした




「っ、僕は...」

『ん?』

「僕はあんたのそういう所が大っ嫌いだ」

『うぉー、辛辣〜。』

「一兄の所行ってくる!!」

『おー!いってらー!』





「あ?三郎顔赤いぞ。熱中症か?大丈夫か?」

「だ、大丈夫ですっ!!」

「はっ、ガキだな」

「うるさい低脳」

「あ゛ぁ?」

「くっそ、暑い...。」



三郎が居なくなってから数十分が経って、特にやることもなくぼーっとしていると、また三郎が戻ってきた




「...」

『あれ、戻ってくるの早くない?』

「...別に」

『そっか、うっわ、モテモテだねぇ』

「は?...なに、一兄に近づいてんだあのクソ女共」

『こわ、』

「.....気にしないの?」

『なにがー?』

「あの低脳でも、童貞でも、気持ち悪い奴でも顔だけ、顔だけは良いから女が集まってる」

『...前半はディスりだし、だけを強調してるところにお姉さんは驚きです』

「...で?どう思ってるの?」

『別になんとも。』

「...普通ああいうの女は嫌がるでしょ」

『んー、私はあんまり気にしないな。だってキスとか浮気とかしてるわけじゃないし』

「...変わってる」

『...冷たい目線やめて』

「うっわ、二郎の奴こっちチラチラ見てくる。気持ち悪い」

『実の兄に対して辛辣』

「あの女共一兄に迷惑かけるなよ」

『声、声低すぎ。私ラーメン食べたい、買ってきていい?』

「.....」

『今デブとか思ったでしょ』

「.....思ってません」

『嘘つけ』



まぁ、気にしないけど。

三郎に少しの間、荷物番を頼んで立ち上がり、ラーメンが売りている屋台を目指す




「名前さんっ!」

『お、おつかれー。プールサイド走ったらまた一郎に怒られるよ〜』

「い、いつの間に、Tシャツ脱いだの!?」

『さっき。かき氷零しちゃってさ』

「そ、そう、なんだ。」

『...二郎さん。見すぎ』

「っ、だって、やば。可愛いっ」

『あ、ラーメン発見!』

「俺も行く!」

「あー!さっきのイケメンみっけ」

「ねぇねぇ!私たちと遊ぼうよ!お兄さんも一緒に!」

「いや、俺っ!」



二郎から助けてオーラが出てるけど
ごめん、ラーメンの欲には勝てない。




「おねぇーさんっ!」

「おねぇさん?聞いてる?」

『え?あ、私ですか?』

「そうそう!今1人?」

『そうですけど...』

「なら俺らと遊ばない?」

『え?いや、一緒に来てる人いるので』

「その子も一緒にさ。女の子でしょ?」

『いや、男の子ですけど』

「じゃあ、お姉さんだけ俺らと遊ぼうよ」

『...いや、遠慮しときます』

「えー!なんでよ〜」

『なんでって…、』

「名前さん!」


プールでよくあるナンパをされてどうしたものかと悩んでいると後ろから名前を呼ばれ、振り返ると二郎がいて、私を隠すように前に立つ



……ちょっとキュンとした




「...近寄んじゃねぇよ」

「はぁ?ガキじゃねぇか」

「ア゛ァ?」

「しかもこいつさっき女と遊んでたぜ?」

「遊んでねぇわ!さっさとどっか行けや」

「クソガキ」





うっわー、めんどくさい。
二郎キレてるし。
一郎は.....ウォータースライダー...。気に入ったんだね。

三郎は.....うん、見て見ぬふりね。わかります。





『二郎...』

「っ、なに?」

『ラーメン...』

「あ、買いに行こうか」

「まだ話終わってねぇんだよ。つーかお前いらねぇよ。お姉さん♪一緒に遊ぼうぜっ」

「あ゛ぁ?んだと?名前さんに近づくんじゃねぇよ。てめぇらみてぇな奴を相手してる暇ねぇんだよ。バーカ。」



本格的に二郎がキレ始めてるなぁ...。

そう言えば前にスタバで会った時に腕組んでたよなぁ...
あれくらいのスキンシップなら平気なのかな...?





『二郎っ』

「え?っあ!な、なな」

『早くラーメン買いに行こ!』

「うっ、あ、あた、っ、て!」



え?二郎顔真っ赤なんだけど...。
この間平気だったんじゃ...。



『あの、二郎?大丈夫?』

「腕に、あ、あたっ、あたって、」

『え?.....っわぁ!!二郎!鼻っ!鼻血出てるっ!!』

「や、やわらかっ、」

『いやっ、今そんな感想いいからっ!てぃ、ティッシュ!』




てか、柔らかいのパットだし!!
私当たるほど胸ないし!!
ごめんね二郎!!お姉さんはその夢叶えられないですっ!!





「はっ、やば」

『いちろーーー!!ティッシュくださーーい!!』





あのね、二郎くん、私はプールに来たのであって

決して血の海で泳ぎたいわけではないです。


『止まんないんだけどっ!!』

「うっ、」

『人が手当してる間どこ見てんだっ!!』





周りにいたキッズからしたらトラウマだよ、二郎くん








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