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「チッ…」



部屋にあったゴミ箱を蹴飛ばし、事務所のソファに腰掛ける


「あ、あの、兄貴…」

「あ゛…?」

「ヒィッ…!」



機嫌が悪く、勝手に声が低くなり、その声にビビった男は小さな悲鳴を上げて足を縺れさせながら部屋から出て行ったのを見届けて煙草を咥えて火を点ける


煙を吐き出すと携帯から着信音が流れ、俺はチラリと携帯を見て電話に出ることなく無視を決め込む


「……」


けれど、携帯が鳴り止むことなくなり続ける


堪忍袋の尾がきれてソファから立ち上がり苛立ちを隠すことなく相手にぶつける


「あ゛!?誰だ!うるせぇんだよ!!今!俺様は機嫌が悪ぃんだよ!!!!」


怒鳴りながらそう言うと電話口から高い声の悲鳴に似た声が聞こえてきた


『たすけて!!!いるまさんが…!!』

「… 名前?」

『ど、どうし、どうしよう…!』

「落ち着け。どうしたんだ?」

『さまときさ、名前、どうしたら…!』

「何があった」

『いる、いるま、さんがっ、し、死んじゃう…!』

「…は?」



名前は混乱しているのか俺の話を聞かず、ずっと銃兎の名前を呼んでいた



『いるまさんっ…!いるまさっ、』

「名前、今どこにいる?」

『お、うちにいるっ、』

「すぐに行くから待ってろ。電話は切るなよ」

『いるまさんっ、いるまさんっ、』



電話を切ることなく、外に止めてある車のダッシュボードに携帯を置き、車を走らせる



銃兎の家に着き、チャイムを鳴らすことなくできるだけ静かに扉を開ける。
リビングを目指し、扉を開けると銃兎が倒れていてその近くに名前が座り込んで銃兎の体を揺すっていた



「銃兎…!」

『さまときさん!!』



俺に気付いた名前は顔を上げて、顔を歪めた



「銃兎!」


銃兎に駆け寄り、肩を揺すり、まず息を確認する


「……」

『さま、とき、さん…、いるまさん、だいじょうぶだよね…?』



ボロボロと涙を流す名前の頭を撫でて安心させる



「大丈夫だ。息はしてるし、怪我もしてねぇよ。」

『よか、た…』



名前は安心した様に息を吐き出すと銃兎のスーツを握った



「熱があんな…。とりあえず運ぶか…。名前、銃兎運ぶから少し離れてろ」

『…うん』



とは言ったものの名前は銃兎から離れる様子はなく、ずっとスーツを握っていた


俺は名前の頭を撫で、声をかける


「銃兎が起きた時のために、水持ってきてくれ」

『わかった…』




名前は一度ギュッとスーツを握ると立ち上がりバタバタと水を取りに行った
銃兎を抱え、寝室に運びベットに寝かせる



「あいつに心配かけてんじゃねぇよ」











いつもより重たい目蓋を上げると、頭がボーッとした
天井を見つめ、ただボーッとしていると、不意に右手が異常に熱くて顔を向ける


「… 名前」



自分の声は酷く枯れていて驚いたけれど、それよりも俺の手を握って上体をベットに倒して俺の手を握って眠っている名前が気になった



「おい、そんなとこで寝てると体調崩すだろ」

「体調崩してる奴に言われたくねぇだろ」

「…左馬刻」



小さな鍋を持った左馬刻が寝室へと入ってきて、ベットの近くにある机に鍋を置き、名前の頭を撫でた



「平気だっつってんのにお前のそばから離れねぇんだよ。風邪が移るっつってんのによ」

「……」

「お前が急に倒れるから不安になったんだろ」

「…悪かった」



俺は涙が乾いて少しカピカピになっている頬を撫でる



『いるま、さん…?』



名前はゆっくりと目蓋を上げて俺の顔を見た



『い、るまさ、』

「悪かったな、名前。心配かけた」

『い゛、るまさっ!いるまさんっ!』



名前はボロボロと涙を流し、ベットによじ登ると俺に抱きつき顔を埋めて声を上げて泣き続けた


『う゛〜…、いるまざん、いるま、さ、』



泣き続ける名前の頭を撫で、安心させる様に背中をリズム良く叩く




名前は泣き止んでも離れる事はなく、俺のスーツを握っていた



「とりあえず、飯食った方がいいだろ」

「あぁ、悪いな」

「お前じゃねぇ。名前だ」

「おい」

「名前、お前飯食って無いんだから、飯食え」

『ん…』



左馬刻は名前のために作った鍋の蓋を開け、小皿に移してスプーンを渡す

名前は受け取ると鼻を啜りながら、スプーンで掬い俺にスプーンを向けた



『いるまさん、』

「俺は良いから、名前が食べなさい」

『……』



けれど名前は自分で食べる事なく、俺に向けたまま俺を見つめた



「ちゃんとお前の分も考えて作ってあるから食ってやれよ」

「…代わりのスプーンあるんだろうな」

『いるまさん、』



名前に名前を呼ばれ、少し息を吐き出して小さく口を開ける


『おいし?』

「美味しいですよ」

『へへっ…』


名前は嬉しそうに笑うとまた掬い、俺に差し出した



「おら、名前の持ってきたぞ」

『あっ!それ名前のスプーン!』



左馬刻は名前が気に入って使っているキャラクター物のスプーンを持ってきて、何故か俺に渡した


「…は?」

「俺は事務所に呼ばれてるからもう行くぞ」

「それは良いが…」


左馬刻は忙しそうに携帯をいじり、部屋から出ていった
少しして玄関の扉が閉じる音がして、左馬刻が帰ったことを知らされた



『いるまさん…?』

「……」



スプーンを持っている俺を見つめ、首を傾げている名前を見て小皿に鍋の中身をよそり、スプーンで掬い名前に差し出すと名前は驚いた様に目を見開き、次の瞬間には嬉しそうに笑ってスプーンに齧り付いた



食べ終わり、楽になった体を起こし鍋と食器を持って立ち上がると名前は焦った様にベットから降りて俺の足にしがみつく




『名前が持っていくよ!』

「重たいから良いですよ」

『だいじょうぶ!持てるよ!』



流石に大人1人分入っていた鍋を持たせるのは不安で、名前に言い聞かせる


「落として怪我したら危ないですから」

『でも…でも…、』


名前は今にも泣き出しそうな顔をしてしがみついている腕に力を込めた




ふと、ある仮説が頭に浮かび、自分でその考えに至った事に目を見開く


「…俺がまた倒れるんじゃ無いかって、不安…なのか?」

『……』



名前は俺の足に擦り付ける様に頷くと眉を寄せて涙を堪えていた



俺は持っていた鍋を机に戻して、名前の前にしゃがむ



「片付けは明日にして、今日はもう寝るか」

『…いるまさんも、ねる?』

「あぁ」


不安そうに俺を見上げる名前の頭を撫でてやると名前は気持ち良さそうに目を閉じていた



スーツから寝着に着替えベットに潜り込むと、疲れたのか名前はうとうとし始めていた


いつもより腫れている名前の目を摩ると名前はゆっくりと瞳を開けた




『あった、かいねぇ…』

「…そうだな」



腫れた目に腹の辺りが心地良い暖かさに包まれ、同時にむず痒くなったのを感じた



いつの間にか腕の中に感じる暖かさに慣れてしまっている自分が居たが、それも悪く無いなとフッと笑って瞳を閉じた






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