2月28日 15日目


『今日は寒いから侑くんの部屋で映画見ない?』

「おっ!ええなっ!それじゃあ借りに行こう!」





2人で手を繋いで借りたビデオを揺らしながら歩いておると名前はまた寒そうにマフラーに顔を埋めた。





「今日寒いな〜」

『こんなに寒かったら冷蔵庫要らないよね』

「飲みもんとか外に出しとったら凍るんかな?」

『どうだろ〜。今度侑のベランダで試してみよう!コーラで!』

「あかんやろ!」




ふざけないながら部屋に着いてコートを脱ぎ、テレビにレコーダーをセットして映画を見始める。




何本目かの映画のエンドロールに俺の隣に座っとる名前が俺の肩に寄りかかって柔らかい髪がサラリと揺れた。




「……どうかしたん?」

『恋愛映画選んだのは失敗だったかも』

「なんで?」

『……なんか、言葉では言い表せないけど、』




そう言って擦り寄る名前に俺の心臓はバクバクと耳の中に響き渡るほど脈打っていた。





「……あかん、」

『ん?』

「………抱きしめたい、」

『…………抱きしめたら、良いんじゃないかな?』







ゆっくりと名前の肩に手を回して抱き寄せると、顔を上げた名前の瞳と俺の瞳が交わる。そのまま吸い寄せられる様に唇を重ねた。





「…………もっかい、してもええ?」

『…うん、』




小さく首を縦に振ったのを確認してもう一度唇を重ねて、啄むように何度も重ねる。




『…侑、』





名前を呼ばれて胸元を少し押されても止められ無くて無防備に開かれた唇に自分の舌を侵入させる。






「………名前、」





思ってたよりも熱っぽい声が出て驚いたけど、それよりも今は名前を感じていたかった。





「……名前、…ええ?」

『……ん、』






俺の主語のない言葉に名前はコクリと頷いた。そして名前の体を優しく持ち上げてベットに下ろして組み敷くと俺はもう一度、唇重ねた。





*******





『…………』

「……名前?」




寝ぼけた頭で薄目を開いて名前を抱き寄せると裸同士のせいか温かさを感じた。そのまま名前の目尻にキスを落とすとしょっぱい味がして一気に目が覚めた。





「泣いとんの?」

『…泣いてないよ』






そう言った名前の瞳はやっぱりキラキラしていて、また泣いたんやなってすぐに気付いた。




「……俺、そないに下手やった?」

『ううん、違うよ…、本当に違うから、』





名前はそう言って俺にキスを落とすと胸元を毛布で隠したまま上体を起こした。




『…もう帰らないと』

「送るわ」

『大丈夫だよ、寝てて?』

「嫌や、送る」






俺も上体を起こしてベットの下にさっき俺が落とした服を拾い名前に渡して自分も身に纏ってコートとマフラーをして家を出た。



『…送ってくれて、ありがとう』

「全然ええよ」




名前は電車に乗り込むと、グッと唇を噛んでいつもより硬い表情で言った。




『……また、明日』

「おん、また明日」




俺は体を重ねたばっかりやからと思っとった。






「………なんやこれ?」





家に帰ると俺は絶対に使わないであろう可愛らしい手帳が落ちとって拾ってすぐに名前のやなって思った。この部屋に入ったのは俺と角名と名前だけやから。角名がこんな可愛ええの使っとるわけ無いし。



もしかしたらすぐに必要なものかもと確認する為に悪いと思いながら1ページ目をペラリと捲った。





3月14日 彼の30日目 (私の1日目)







手帳の1番上にそう書いてあって、下の行にはビッシリと文字が書かれていた。その次のページを捲ると、






3月13日 彼の29日目 (私の2日目)

侑のご家族に会いに行く。





そう書いてあって頭が混乱した。今はまだ2月の下旬やのに何で3月の事がこんなにビッシリ書いてあるのか。それに最初の1文目はどういう意味やねん。予定にしてもおかしい部分が多すぎた。


彼の30日目って何や。私の1日目って何やねん。




混乱していると携帯に着信が告げられ相手を確認すると公衆電話と出ていた。





「……もしもし?」

『…侑』

「名前か」

『……私の忘れ物、もう見た?』

「え?」

『…見た、よね…』

「…ごめん、」

『ううん、……意味わからないでしょ?』

「…おん、」




名前は自虐的に少し笑ってそう言うと、言葉を続けた。何となく見た時計の時刻は11時59分を指していた。




『………その手帳についてちゃんと話したいから、鍵の付いた小物入れを持って明日の朝9時にあの公園に来て』

「え、おい、名前?」



カチッと秒針が12を指して日付が変わった瞬間、名前の声が聞こえなくなり、俺は呆然とするしか出来へんかった。





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