2月23日 6日目
『…侑くん前髪長いね』
「確かに邪魔やな…」
『バレーの時は邪魔にならないの?』
「汗かいたらペターって張り付くからな〜」
『美容院行く?』
「…………」
『嫌そうな顔だね』
名前ちゃんはそう言って笑うと立ち上がってゴミ袋とハサミを持って俺の後ろに立った。
『お客さん、どんな前髪にします〜?』
「せやな〜、彼女が俺にメロメロになってくれるようなかっこええ前髪やな〜」
『おっ、それは私好みにしちゃっていいって事ですね〜?』
「よろしくお願いします〜」
美容師の見よう見まねなのか後ろから手を回して俺の前髪をいじる名前ちゃんにそう言うと、彼女は楽しそうに俺の肩にゴミ袋を被せた。
『失敗しても侑くんの顔なら大丈夫だよね?』
「できるなら失敗して欲し無いけどな?」
『善処しま〜す』
「お願いしま〜す」
俺の前に移動した名前ちゃんはチョキチョキと少しずつ俺の前髪を切っていった。
『いい感じですよ〜』
「おっ、見るのが楽しみやな〜」
『……………あ、』
「…………………………名前ちゃん?」
『………………侑くんの顔が良く見えて嬉しいな〜!』
「ちょっ!?えっ!?」
俺は慌てて目を開けて近くに置いておいた鏡を取って確認した。
「オン眉通り過ぎとるやん!?」
『かっ、かわ、可愛いよ?』
「既に笑っとるやん!」
『ほら、あれだよ、かきあげ前髪みたいにしちゃえばバレないって!』
「反省しないんか!?」
名前ちゃんは楽しそうに笑って、俺の前髪に触れると『本当に短いね』と言うた。いや、切ったの自分やからな。
『………似合ってるよ』
「まぁ、名前が切ったんやから当たり前やろ」
『………』
「……今、呼び捨てにした?」
『…しましたね〜。でも、良いんじゃないかな?』
「……名前?」
『…侑』
問いかけるように名前を呼ぶと彼女は優しく笑って俺の名前を呼んだ。するお名前の瞳からポロリと涙が一筋流れた。
「……泣く程俺の前髪おもろかった?」
『……うん、そうかも』
「………名前は笑い泣きもできるんやな」
『…うん、器用でしょ?』
そう言って笑う名前の瞳は涙のせいでキラキラと輝いて綺麗やなって思った。
でもその瞳には嬉しさ以外の何かが含まれているような気がした。
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