2月22日 5日目




「ちょっ、待ってや〜!」

『ほらほら!早くしないと私の手料理が逃げますよ〜!』

「それはあかん!急ぐで〜!」

『ちょっ、待って!』

「はよせんと名前ちゃんの手料理が逃げてまう〜!」

『逃げないっ!逃げないからっ、』






2人でスーパーに行って具材を買って手を繋いで俺のアパートを目指す。思ったより名前ちゃんの足が速くて驚いたのは秘密やけど。言うたら怒りそうやし。それも可愛ええけどな。



「何作るん?」

『秘密です。ほらほら、向こうで座ってて』

「…え〜…」

『お茶でも飲んでてよ』

「ならお湯沸かすわ」




俺がそう言うと名前ちゃんは慣れた様に水道の下の扉を開けると電気ケトルを取り出した。





『やかん無いからこれで沸かして?』

「は〜い」





受け取って水を入れてリビングでセットして名前ちゃんの後ろ姿を眺める。そしてある事を思いついてスマホを取り出してカメラを起動してシャッターボタンを押すと部屋に機械音が響いた。





『……………撮った?』

「撮ってへん」

『両手でスマホ構えてるじゃ〜ん!』

「撮ってへん!!」

『なんで嘘つくの〜!』





俺は首を左右に振って否定すると名前ちゃんは笑いながらまたまな板に視線を戻した。





*******






「……カレーや!!」

『正解です!カレーが1番失敗無いと思って』

「俺は名前ちゃんの手料理なら何でも食える自信がある!」

『炭でも?』

「炭でも!」

『愛されてるな〜、私!』

「愛されとるね〜、名前ちゃん!」






そう言って名前ちゃんは自分の分のカレーを置くと俺の前に腰を下ろした。俺はパチンッと音を立てて両手を合わせた。





「いただきます!」

『いただきます』




焦らなくても無くならへんのに謎に急いで俺はカレーを掬って口に運ぶ。




「……うんまっ!!」

『良かった〜』

「なんか、俺ん家のカレーと凄い似とる!」

『だって隠し味にコーヒー入ってるからね』

「へ?」




楽しそうにそう言った名前ちゃんに俺は顔を上げる。すると彼女は不思議そうに首を傾げた。





「なんで俺ん家のカレーの隠し味がコーヒーやって知っとんの?」

『だって、侑くん言ってたよ?』

「言うてへんよ?俺、実家の話してへんもん」

『あれ?そうだっけ?…あ、お水取ってこよ。侑くんお水要る?』

「あ、おん、要る…」




水を持って戻って来た名前ちゃんに俺は声をかけた。





「そういえば前にも俺が居る場所当てたことあったよな?」

『え?あったっけ?』

「俺がシューズ破けたから買いに行った時」

『……そうだっけ?』

「……もしかして、名前ちゃん予知能力でもあるん?」





俺が演技じみた声でそう言うと名前ちゃんは静かに水を眺めながら言った。




『…あったらどうする?』

「………へ?」

『予知能力が、私にあったら』






予想外の答えに俺が呆然とすると、名前ちゃんはパッとさっきの雰囲気が嘘のように笑った。




『なーんてね!予知能力があったら今頃私は大金持ちだよ〜!予知能力なんて私には無いよ!』

「せ、せやな!大金持ちやん!」

『冷める前に食べちゃお!』





意外と名前ちゃんは茶目っ気が多いんやなって初めて知った。


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