2月21日 4日目

「やっとこれで部屋が広くなる」

「なんやと!?俺が邪魔だったみたいに言うなや!」

「いや、邪魔だったんだよ」



俺は角名と住んでいたアパートを出て、新しいアパートを借りた。その引越しを角名に無理矢理手伝わせておると角名は至極鬱陶しそうに眉を寄せた。




「それで?付き合ったの?」

「おん!!」

「同棲?」

「いっ、いやいや!同棲はまだ早いてっ!まだ付き合うたばっかりやし!結婚はまだ…!」

「誰も結婚なんて言ってないけどね」




角名の言葉に有頂天になっていると少し遠くから苗字さんの声が聞こえた。





『こんにちは〜!』

「苗字さん!」

「……飼い主見つけた犬みたい」

「なんやと!?」




ボソッと言った角名を睨むと、スイッと視線を逸らした事に苛ついたが今はそれよりも可愛ええ彼女の方が大事やった。




「ごめんな?手伝ってもろて」

『ううん!むしろ手伝わせてよっ!私の彼氏の引越しなんだから』

「かっ、彼氏っ!」

『あっ、私は宮くんとお付き合いさせてもらってる…』

「あぁ、うん。知ってる。侑から嫌ってほど話は聞かされてるから。俺は角名倫太郎、タメだよ」

『角名くん…、よろしくお願いします』

「よろしく」

『宮くんがどんな話してるのか気になるけど…、先に引越し終わらせよう!』

「彼氏……」

「侑、早く運んで」




角名に月バレが入った箱を渡されて部屋に運ぶと苗字さんは部屋を見渡していた。





『……凄い良い部屋だよね』

「普通の部屋ちゃう?むしろボロい方やと思うけど…」

『私は好きな部屋』

「お、おん…」





俺に言われたわけや無いけど、好きって言葉にギクシャクしてまう。




『よし!荷物入れたら次は掃除だね!』

「せやな!」




2人で腕まくりをしてホウキを手に取って掃き掃除を始めると、不意に名前を呼ばれた。



『宮くん、これどこに置く?』

「せやな〜…。…………なぁ、」

『なに?』

「……な、名前で、呼ばへん?」

『名前?』

「付き合うとるのにいつまでも、苗字にさん付けで変な感じやんか」

『…確かに。恋人っぽくないですね〜』

「やろ?やから、名前で呼んでも、ええ?」

『うん、私も侑くんって呼ぶね』

「……名前、ちゃん、」

『侑くん』

「………なんか、むず痒いわ」

『………そ、うだね』

「…え?また泣いとんの?」




震えた名前ちゃんの声に慌てて振り返ると、指で目じりを拭っていた。駆け寄ろうとした時、名前ちゃんはダンボールから小さな箱を持ち上げた。



『……これって?』

「おっ、懐かしいな…。俺な、5歳の時に東京に家族で旅行に来たんやけどはしゃぎすぎて湖に落ちてん。」



5歳の俺は治とどっちの方が早く走れるか競争しとったら足滑らせて湖に落ちた。そしたら見知らぬ通りすがりの女の人が助けてくれた。



「その女の人どんなに探しても見つからなかったんやけど5年後にまた会えてん!そん時にこれを渡されたんや。次会えた時に一緒に開けよう言うて」

『……そうなんだ。』





名前ちゃんは優しく微笑んで小さく頷いた

******




「やっぱ駅に近いアパート選んで正解やったな」

『近いんだから送ってくれなくても大丈夫だよ?』

「俺が送りたいねん」

『…ありがとう』




名前ちゃんは門限があるから、駅に向かって2人で歩いとると名前ちゃんはポツリと呟いた。





『門限が12時なんてシンデレラみたいで可愛いでしょ?』

「シンデレラより可愛ええよ、名前ちゃんは」

『え〜…、お世辞っぽい』

「お世辞ちゃうわ!」



口を開けて笑う名前ちゃんの手と俺の手がぶつかって、一瞬静寂がはしった。




「……手、繋ぎませんか、」

『繋ぎましょうか』




硬い声で言った俺に名前ちゃんは優しい声でそう言った。ゆっくりと手を取ると握り返してくれる小さな手に心臓がじんわりと熱なった。





『……』

「……え?また泣いとんの?」

『……泣いてませんっ、』

「声震えとるしっ、ほんまに泣き虫やな〜」

『うるさいっ、』



そんな会話をしながら駅に着くと、名前ちゃんは俺の前に立って小さく手を振った。





『それじゃあまた明日ね』

「おん、また明日」



また明日♂エらの合言葉のようになっとった。



名前ちゃんは見えなくなるまで俺に手を振っていた。その瞳はさっき泣いたせいかキラキラと輝いていた。

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