2月20日 3日目
「………」
やばい。めっちゃ緊張しとる。俺汗臭くないかな。シャワーは浴びたけど早よ会いたくて雑に済ませてもうた。そのせいで待ち合わせの30分も前に来てもうたし…。そういや髪型崩れとらんかな。
高校の時よりも少しだけ伸びた前髪をいじっていると視線の先に彼女の姿が見えて姿勢を正した。
『宮くん!こんにちは』
「こ、こんにちは」
『本当に来るの早いね』
「たっ、たまたま時間が余ってな?それで早めに着いてもうた」
『そうなんだ!』
「苗字さんも早いやん。まだ30分前やで?」
『え?だって待たせるわけにもいかないし』
「…え?」
『時間があるなら少し歩かない?』
「お、おん…」
そう言って笑って歩き出した苗字さんに慌てて着いて行くと彼女はまた楽しそうに笑った。
『公園の中歩いたの久しぶりだな〜』
「俺も久しぶりや。ガキん頃はよう走り回っとったのになぁ」
『確かにっ!子供の頃は真冬でも走り回ってた!』
「苗字さんが走り回っとったん?」
『想像できない?』
「…あんま出来へんな」
俺の言葉に苗字さんは口を開けて笑うと、見た目は大人しそうなのに意外やな、って思った。またそのギャップを見て深みにハマっていくのが分かった。
『あっ!見て!ポメラニアン居るよ!可愛い〜!』
「ほんまや!ちっさいな〜」
公園を散歩している犬に2人して頬を緩めていると苗字さんはとある場所を指さした。
『見て!クレープ屋さんある!食べよ!』
子供のように燥ぐ苗字さんに頬が緩まりそうになり慌てて筋肉でグッと頬を引き締めてクレープ屋に近づいた。
*****
『あ〜!面白かった〜!』
「せやな」
『最後があんな展開になるとは思ってなかった!本当に怒涛のラスト20分だったね!』
「まさか主人公にあんな過去があるなんて思わへんよな!」
『すっごいハラハラした!』
映画館を出て興奮気味で2人で話をしながら歩いとると待ち合わせした公園に自然と足が進んですっかり暗なった筈やのにその場所はネオンの光でキラキラと光っていた。
『……イルミネーションだ』
「これも久々に見たわ」
『……綺麗だね』
不意に苗字さんに視線を移すとマフラーに埋めていた唇から白い息が出ていて、初めて冬やなって思た。
「………なぁ、苗字さん」
『ん?どうかした?』
俺が名前を呼ぶと彼女は俺の方にゆっくりと顔を向けて首を傾げた。ただそれだけの事やのに胸が苦しくなった。
「初めて会うた日にも言うたんやけど、俺な、苗字さんのこと好きです。…俺と付き合うてください」
『………私、大人しそうとか言われるけど全然大人しくないよ?』
「…おん」
『結構言いたいことは言っちゃうし』
「…おん、」
『食い意地は張ってるし、結構面倒臭がりでわがまま』
「おん、」
『甘えるのだって上手じゃない。……可愛げも無いよ?』
「……ええよ。俺は苗字さんがええねん」
『………』
素直に出てきた言葉に自分でも驚くと彼女は初めて会った日の様にまた俺に背を向けてしまった。
そしてまた鼻を啜る音が聞こえた。
「…苗字さん?」
『……あと、私結構、泣き虫みたい』
そう言うた苗字さんの表情は涙に濡れていた。
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