2月19日 2日目






「………俺、落ちてしもうた」

「……はァ?」





目の前で飯を食っとる角名にそう言うと、めっちゃ嫌な顔をされた。何言ってんだ、こいつ、みたいな。




「また会えるかな〜…」

「……大学教えたんでしょ?なら会えるんじゃない?」

「会えへんかったらどうしよ〜…」

「……恋愛を楽しんでるところ悪いけど、シューズ買ってきたの?」

「…………シューズ?」

「昨日の練習で穴空いたって騒いでたじゃん」

「……はっ!せやった!買いに行かな!」




俺は残っていたネギトロ丼をかき込むと手を合わせて、ごちそうさん、と言って席を立ちスポーツ店を目指した。




「ん〜…、ここのはちっと踵が硬いからな〜。…でもこっちのは俺の足に馴染まへんしなぁ〜」




シューズ売り場でウンウン唸っていると周りにいた子供達に変な目で見られた。




『独り言多くない?』

「せやけどシューズは大事やろ!やからちゃんと選びたいねん。……………うぉぁあ!?」

『大阪人もびっくりのコケ芸だね』

「なっ、なんで苗字さんがここに!?」

『あっ!このシューズなんてきっと宮くんにピッタリだよ!』

「へ?」




試着用の椅子から転げ落ちた俺を無視して苗字さんは1足のシューズを持ってくると俺の足元に置いた。俺はもう一度椅子に座ってそのシューズを履いた。





「……めっちゃピッタリや」

『でしょ〜?』



自慢げに口元を緩める苗字さんに俺の心臓はまた忙しなく動きまわった。




「そ、そういえばなんでここに居るん?」

『だってまた明日って言ったじゃん』

「言うたけど…、なんで俺がここに居るって分かったん?」

『だって昨日言ってたよ?ここに来るんだって』

「…言うとった?」

『うん、言ってた。……あっ!見て!あのジャージ可愛い!』




そう言って駆け出した苗字さんに俺は慌ててシューズを脱いで箱に仕舞い、脇に抱えて後を追った。




******




『あ〜!楽しかった!久しぶりにこんなに歩いたよ!宮くんもシューズ買えたしいい日だねっ!』

「いい日ってなんやねん」



俺がそう言って笑うと昨日初めて会った駅に着いた。そして苗字さんは振り返ってカバンから2つ折りにされた紙を俺に差し出した。




「なに?これ」

『開いて』

「…………」





中を開くと固定電話の番号が書かれていて、その下には苗字名前≠ニも書かれていた。



『携帯持ってないから、不便かもしれないけど…。ごめんね』

「………あかん、」

『…やっぱり携帯の方がいいよね。本当にごめ、』

「めっちゃ嬉しい……」




俺は片手で口元を覆ってそう言うと、苗字さんはまたクスリと笑った気がした。



『…あ、電車来た。……じゃあまたね、宮くん』

「おん、また」



電車のガラス越しに手を振ると彼女も嬉しそうに手を振ってくれた。そのまま電車が走り出し姿は見えなくなった。




******



「これもう付き合ってるのと同義やんな?」

「それストーカーの思考」




角名と一緒に住んどるアパートに戻りそう言うと角名は冷たい表情でそう言いおった。




「……これ、連絡してええんかな?」

「番号教えてくれたんだから良いんじゃない?」

「…………いやでもなぁ!ハードル高いっ!」

「面倒臭い…」





俺が床に寝転びバタバタと転がっていると角名は俺の手に持っていたスマホと紙を取り上げるとポチポチと操作し始めた。




「……は?何しとんねん」

「電話」

「……はぁぁぁああ!?」

「あっ、コール始まった。はい返す」

「返すやないわ!あほ!」





慌ててスマホを受け取り耳に当てると数コール後にあの声が聞こえた。




『……はい』

「あっ、えっと、苗字さん?」

『………宮くん?』

「おんっ!」




勢い良く返事したはいいものの次に何を言えばいいか分からず角名を見ると小さな声で言った。



「…今日のお礼」

「きょっ、今日はほんまにありがとう!シューズめっちゃええ感じやった!」

『それなら良かった』

「…次のデートのお誘い」

「えっ、どこ?どこに!?」




電話口を抑えて俺がそう言うと角名は面倒臭そうに眉を寄せて「………映画」と言った。




「こ、今度映画行かへん!?俺見たい映画あって!」

『映画?…うん、良いよ』

「ほんならいつ空いてる!?」

『………明日』

「あした!?……明日の午後でもええ?今春休みなんやけど俺午前中はバレーの練習があんねん」

『うん、勿論いいよ』

「なら15時にあの駅の近くの公園でええ?」

『分かった。楽しみにしてるね』

「おん!それじゃあ、また明日」

『また明日』





ゆっくりと通話停止を押して俺はガッツポーズをすると角名は無表情のまま拍手をしていた。



嬉しさのあまり抱きつくとアッパーを食らった。

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