私のとある1日目
「おい!あつむ!さっき買うてもろた菓子多く食ったやろ!」
「食ってへん!」
「口の周りにクリーム付いとんぞ!」
「やば!」
侑は小さな手のひらでグイグイと拭うと、その手に付いたクリームをズボンで拭った。
「そないに言うなら勝った方が多く食ってええ事にしようや!」
「ええで!ここの線からあそこまで勝負や!」
侑の言葉に双子の治は強く頷くと後ろでのんびり東京を観光している両親を気にすること無く、横並びになり湖のすぐ側で走り出す。
「ぐぅ〜!」
「まけへん!」
治が少しリードした時、侑は歯を食いしばりスピードを上げようと力を入れた瞬間、足首を挫き体が横に倒れる。
「あつむ!」
治の叫び声に気付いた両親は慌てて湖を見下ろすと侑がバタバタと両手両足を動かしていた。足を挫いたせいか上手く泳げない侑に両親は慌てて手を伸ばす。
「……え?」
その瞬間、湖を見下ろしていた治の隣に風が吹いて声を出すと、バジャンと大きな水音が響いた。
『ーーハァッ!』
「ごほっ、…っ、がはっ、」
1人の女性が湖に飛び込んでいて、侑の体を抱きしめて湖の中を泳いで上がれる高さの段に侑の手をかけさせると侑の両親が彼を引き上げると女性も手をついて上がる。
「あのっ、本当にっ、ありがとうございますっ!」
『…いえ、ご無事で良かったです』
母親は女性に頭を下げると、女性は服の水気を絞ると背を向けてしまった。
「お礼をっ、させてくださいっ!」
『いやっ、本当に大丈夫なのでっ!』
「でもっ、」
侑は濡れた小さな手で女性の服を掴むと、彼女は振り返って少し目を見開いてしゃがみ込んだ。
『………どうかした?』
「……助けてくれて、ありがとう」
『…ううん、無事で良かった』
女性は首を振ると柔らかく笑った。侑は首を傾げてギュッと服を強く握った。
「なぁ、また会える?」
『………最後の、言葉まで一緒になんて、』
「……え?」
侑は女性の言葉の意味が分からずに頭を捻ると女性は濡れている侑の頭に手を置くと割れ物を扱うような優しい手つきで撫でると目じりを下げた。
『……また、会えるよ』
それだけ言うと彼女は背中を抜けて去って行ってしまった。
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