2月18日 1日目


産まれて初めて一目惚れをした。





ガタガタと揺れる電車の中で俺の心はある女の子に奪われてしもうた。ボーッと見つめているせいで体が左右に揺れまくって周りの人から迷惑そうな目をされても俺は彼女から視線を逸らすことが出来へんかった。



彼女の見た目は、まぁ普通。何もかもが普通やった。特に可愛いわけでも美人なわけや無いのに、視線が奪われる。


強いていえば雰囲気に惹かれた。





「…………」





だからと言って話しかけられるわけやない。俺はこの見た目のせいで女慣れしてるだの、女遊びをしているだの言われてきたがよう考えて見て欲しい。




バレーしとんのにいつ遊んどる時間があんねん





たまにある休みなんて家で寝とるだけ。やのにいつ女に使う時間があんねん。





「……勘弁してや」





音にもならないような小さな声でそう呟くとガクッと首を落とす。二度と会えへんかもしれん人を好きになるなんて最悪以外のなにものでもないやん。





「…………」




よし。決めた。降りる駅が同じやったら声をかける。





そう決めて顔を上げた時、タイミングが良いんか悪いんかアナウンスが鳴った。慌てて顔を上げると彼女の姿が無くなっとって降りる駅では無いのに気付いた時には電車を降りとった。





「…どこ行ったん?」




首を左右に振って人混みの上から彼女を探した。寒くて吐き出す息の白さも今は邪魔で仕方なかった。バレー以外で初めて自分の身長が役に立った気がした。





「…あ、」




彼女は向かいの電車に乗るのか改札には向かわず駅内にある踏切を渡っとって慌てて後を追った。




「あ、あの!」

『………え?』




あかん!勢いで話しかけてもうた!!何言おう!何言おう!?






「あのっ…、」

『…どうかしました?』

「そのっ…、あのっ、…………電話番号!教えてもろえませんか!?」

『………………え?』





彼女の驚いた顔に俺はやってしまったと顔を青くした。そして慌ててすぐに両手を大袈裟なくらいに振って否定する。




「ちゃっ、ちゃうねん!ナンパや無くて…!」

『……電話番号聞くのに?』

「そっ、そうなんやけど…!」





バレーん時は頭回んのになんでこういう時に回らへんねん!




『…ぷっ、』

「…へ?」

『あはは…!』





突然笑い始めた彼女に次は俺が驚いた。





『電車までまだ少し時間あるんですけど、少し話しません?』

「…お、おん!!」




彼女からの嬉しすぎる提案に時間を確認する事も忘れて頷き、2人で電車を待つ間にベンチに腰を下ろして話をした。




「俺、宮侑。20歳や」

『苗字名前です。私も20歳』

「タメ!?」

『タメだったね〜』




そう言って笑う彼女ーー苗字さんに俺の心臓は早よなって取り繕う様にペラペラと口を動かす。




「…おっ、俺っ、そこの大学行っとんねん!やけど今日電車1本遅れてもうて…」

『そうなんだ。私はいつもこの時間の時間に乗ってるんだ〜。だから会ったこと無かったんだね』

「せ、せやな」





そのまま緊張が取れない中色々な事を話した。好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きな映画。そんな数十分を過ごすと電車が来るアナウンスが流れてビクリと体が勝手に揺れた。




『……もう行かないと』

「……せ、やな、」





自分でもびっくりするくらい暗い声が出て、ここに治が居ったら大爆笑したであろう事は予想が簡単に出来た。




『それじゃあ、私行くね』





ベンチを立ち上がった苗字さんに慌てて俺も席を立って声をかける。





「なぁ!明日も会えへん…?」

『……明日?』

「おん…」




苗字は首を傾げるとすぐに優しく微笑んだ。





『……うん、会えるよ』

「ほ、ほんま?」

『うん』





俺は意を決して吸った息を一瞬止めてゆっくりと吐き出すと、苗字さんの目をジッと見つめて震える唇を必死に動かした。





「…お、俺、苗字さんのこと、好きやねんけど、」

『…………』






俺がそう言うと苗字さんは何かを言おうとしたんか唇を1度開いてグッと結ぶと、後ろへと振り返って俺に背を向けてしまった。






「……苗字さん?」

『………』






次第に聞こえてくる鼻を啜る音や後ろからでも手の甲で涙を拭いているような仕草に彼女が泣いとることに気付いた。




「…え?…そ、そないに嫌やった!?」

『違うっ、ちがうのっ、…ちょっと、嫌な事があってね』




苗字さんに手を伸ばそうとした時、タイミング悪く到着した電車に彼女は片足を乗せてしまった。




『…また明日ね!』

「…え?」

『また、明日!』

「…お、おん!また明日!」





何があったのか聞きたかったけど電車に乗ってしまった彼女に俺は必死に手を振った。




俺は去っていく電車を見送る事しか出来なかった。
そして家に着いてから電話番号聞いてへんことに気付いてめっちゃ落ち込んだ。

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