3月13日 29日目
「……久しぶりの実家や〜!」
半日かけて久しぶりに実家に帰ってくると手土産を持っとる名前は少し固い様に見えた。俺からしたら名前と出会って29日目やけど、彼女からしたら俺と出会って2日目。なのに急に実家やもんな、そりゃ緊張もするわな。
「そんな心配せんでも平気や。むしろうちの緩さに驚くと思うで」
『……うん、』
決意した様に顔を上げた名前に、俺は少し笑って扉に手をかけて開いた。
「ただいま〜!」
『お、お邪魔しますっ!』
俺のでかい声に家族は気付いたのかパタパタと集まった。
「……ツム?」
「おぉ!サムも帰っとったんか!」
「まぁ俺、一人暮らしいうても神戸には居るからな」
「あら侑、久しぶりやね〜。それに……」
『えっと、侑くんとお付き合いさせて頂いてます。苗字名前です』
「……まぁ!可愛らしい子やね〜!上がって上がって!」
「可愛ええやろ!俺の彼女やねん!」
自慢げに胸を張って言うとサムは鬱陶しそうに顔を歪めとった。
「名前ちゃん好きだけ食べてええからな〜?」
「おい!おっさんが俺の彼女にデレデレすんな!」
「はァ!?父親に向かってなんやねん!その口の利き方は!」
「カレー出来たで〜!名前ちゃんカレー平気?食べれる?」
『はい!大好きです!』
オカンはカレーを置くと、名前は手を合わせて1口運ぶと咀嚼した。
『……凄くおいしい!』
「うちのカレーにはコーヒー入れとるんよ〜!」
『そうなんですか?今度やってみます!』
名前は瞳を輝かせて頷くと、また1口運んだ。
「名前ちゃんはほんまにええ子やね〜!侑なんかでええの?」
「ほんまやな。ツムみたいなひとでなしでええの?」
「それでいくと俺と双子のお前もひとでなしやからな!」
「俺とお前を一緒にすんなや」
「侑ほんまに落ち着きないで?5歳の時に東京に旅行に行ったんやけどな?湖のそば走っとったせいで落ちてん!運良く通りすがりの女性が助けてくれて助かったんやけどな?その女の人全然見つからなかったんよ〜」
『……そうなんですか』
オカンの言葉に名前は少し間を空けてから相槌を打つとチラリと俺を見上げた。俺が少し笑うと名前もつられたように笑った。オカン達はよう分からんって顔しとったけど。
『あっ!みなさんで写真撮りませんか?』
「ええね〜!撮ろう撮ろう!」
名前はカバンからカメラを取り出すと、俺の家族は喜んで準備をし始めた。
『は〜い!撮りますよ〜!』
タイマーをセットして名前は俺の隣に駆け戻りカメラを真っ直ぐに見つめた。そんな名前をチラリと見てから俺もカメラに視線を戻した。
『今日は本当にありがとうございました!晩ご飯まで頂いちゃって…、』
「全然ええよ!…それより泊まっていけばええのに…、帰んのめっちゃ時間かかるんやろ?」
『えっと、』
「初めて挨拶来て泊まるんは勇気いるやろ。今日は帰るわ」
そう言って俺たちは実家を出て、東京を目指して新幹線に乗り込んだ。
「やっぱ東京は夜でも明るいな〜」
『本当にね〜、星空なんてほぼ見えないよね』
東京に着いてバスに乗り込むと、遅い時間のせいか俺ら以外の人は居らんくて、1番後ろに2人で座って外を眺めた。
『侑のお母さんのカレー凄く美味しかった〜』
「ほんま?オカンめっちゃ喜ぶわ」
楽しそうに言う名前に俺は窓を見ていた視線を、彼女に向ける。俺の家族と一緒に居った名前はほんまに家族みたいやった。
「………っ、」
『……侑?』
名前の不安げに呼ぶ声で自分が泣いとる事に気付いた。ボロボロと自分の瞳から涙が流れて片方の手のひらで顔を覆うように涙を拭って肘を膝に付いて必死に言葉を紡ぐ。
「な、んでっ、俺と名前は、家族にっ、なれんのっ、」
『侑…』
「なんでっ、離れなあかんのっ、なんでっ、…なんでやっ、」
分かっとる、名前が悪いわけやないって。
それでも涙が止まることは無く、流れ続ける。名前が息を呑む音が聞こえたと思ったら、ゆっくりと触れているかも分からないような強さで俺の背中に触れると名前は震えた声でたった一言放った。
『………ごめんね、』
誰も悪いわけやないのに、なんで好きな人と一緒に居られへんの
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