3月1日〜4日17日目、18日目、19日目、20日目


『今日は遊園地に行こう!』

「……おん」




名前から衝撃の事実を話されてから俺の心はフワフワと足が地に付いているのか分からないほどやった。



『あっ!ポップコーン!ポップコーンあるよ!』





名前は前と変わらず楽しそうで、それが逆に不気味で仕方なかった。




なんで笑ってられるん?なんで普通で居られんねん。





『今日は公園デートします!』





前までなら気にせんかった言葉の言い方ひとつひとつにが気になる。結局、全ては手帳通り。手帳の言う通りにしか動けん。そんなん、ちゃうやんか。





前なら居るだけで楽しかった公園も全てに霧がかかっているように真っ白やった。


「……なぁ、名前、」

『あっ!見て!あのポメラニアン可愛い〜!』

「…………は?」





名前が指さしたのは俺達の最初のデートで見た、同じポメラニアン。




「……………」




あぁ、やっぱりそうやん。





ーーすれ違うことしか、できへん







『今日は山登ろう!』





名前は楽しそうに山の頂上からの景色を持ってきたカメラで撮っていたけど、俺はその景色を見ても何とも思えへんかった。


どうせ俺が覚えておっても、明日名前と語り合うことも出来へんのや。なら、覚えとっても意味無いやん。

覚えてんのは俺だけ。昨日楽しかった、とか、景色が綺麗やった、って話しても名前には分からん。


頭がグラグラして気持ち悪い。今俺は立っているのか座っているのか、もしかしたら倒れとるかもしれん。もうどっちが上か下か、右か左か分からん。




『よっし!降りたら何か食べよっか!あっ!もしかしたら降りてる途中にもあるかな!?』

「………なぁ、ほんまに、その手帳通りに進めんとあかんの?」

『……え?』





俺よりも数歩先に居る名前は急坂のせいでいつもよりも小さく見えた。




「…別に、手帳通りやなくてもええんとちゃうの?最低条件だけ、守ればええんとちゃう?……35歳ん時にお互いを助ける、とか」

『……なんで、そんな事言うの?』





その時初めて俺は名前の傷付いた顔を見た。泣いている所は何度も見た。でも、泣いている時はいつだって寂しそうやったけど、傷付いた様な顔では無かったと今更気づいた。




「………しんどいねん、手帳通りにすんのも、……すれ違うてまうことも、」

『………』

「……今ここで何をしようと、覚えとらんのやろ?……もう、ええやん、もう、しんどい…、」




そう言って俺が名前を追い越すと、彼女はハッと思い出した様に俺の袖を掴んだ。今はそれが何よりも辛かった。



『ーっ、待って!』

「………これも、手帳通りか?」

『………』


何も言わない名前に、あぁやっぱりな、なんて頭は冷めきっていた。何があろうと名前は手帳通りに進むだけ。そこにきっと自分の意思はない。そんなん俺と居るのも手帳通りなだけやんか。




好きやったのは、俺だけやん







「……あれ?侑?こんな時間に何?」

「……角名」

「なんでこっちに来たの?新しいアパートあんじゃん」



気が付いたら俺は角名のアパートに来ていた。数年歩いていた道は無意識にでも帰って来れるらしい。





「……何かあった?」

「……」

「彼女と喧嘩?」

「………喧嘩、ちゅーか、すれ違い、」

「……すれ違いねぇ」




角名は俺を部屋に招き入れると珍しく俺にコーヒーを入れた。





「……すれ違いってさ、なんで起きるんだろうね」

「…は?」

「だって、好き同士なのになんですれ違いって起きるの?」

「………好きや、無かったんやろ」

「じゃあ離れれば全て解決じゃん」

「…そうはいかへんやろ」

「なんで?」

「……なんでって、」



名前はこの世界の人間やないから。


そう、角名に言ってしまおうか、そんな考えが過ぎった。




「……名前は、利益の為に俺と居ったんかな」




35歳の時に救ってもらうため。その為に俺に会いに来たのかもしれん。それなら全てが納得出来るわ。俺のことが好きやなくても一緒に居ってくれた理由。なんや簡単なことやん。





「全然平気そうな顔しとってん。今まで一緒に居った時」

「………」



きっと角名は俺が言うとる言葉の意味が分かってへんと思う。それでも静かに聞いてくれるこいつはやっぱり長男やなって思った。




「すれ違うとんのに全然平気そうに笑っとった」

「……本当に?」

「……はァ?」

「俺はよく苗字さんのこと知らないけど、それでも俺には侑の事が大好きなように見えたけど。侑の言ってるすれ違いが何をどう指してるのかは分からないけど、好きな人とすれ違ってるのに平気な人なんて居ないと思うよ。それでも笑ってたなら、すれ違っててもいいから、侑と一緒に居たかったんじゃないの?」

「…………」

「…本当に、ただ笑ってただけなの?」

「……ただ、笑って…、」





今思えば名前はいつも変なタイミング泣いとった。初めて告白した時、初めて手を繋いだ時、初めて名前を呼んだ時




俺にとっての初めて≠フ事は名前にとって最後≠竄チたから。


日を重ねるにつれて他人になっていく。恋人が、恋人では無くなっていく


ーー全然、平気なんかでは無かったんや





「角名!今何時や!!」

「はァ?……11時58分、だけど」




俺は慌てて携帯を取り出して電源ボタンを押すと画面にはバッテリー切れのアイコンが出ていて慌てて角名の家を出た。






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