溺れる真秀
「………はァ?異動だァ?」
『…はい、4月から東京だそうです』
「……今何月だ?」
『……』
「言ってみろ。何月だァ?」
『………3月、』
「3月の?」
『3週目、です…』
練習の終わりに烏野の部員達がストレッチをしている体育館の端で名前は烏養の目の前で正座をしていた。名前の正座姿に部員達は慣れたのか全員気にすることなくストレッチをしていた。
「………はぁ…、言うのが遅せぇだろうが」
『……ごめんなさい』
「……急に決まった事だろうし、仕方ねぇんだろうけどなぁ」
烏養はガシガシと頭を掻くと、目の前で俯いている名前の頭を雑に撫でる。
「先に言ってくれれば俺だって何か手伝えたかもしれねぇだろ」
『……繋心くん』
「何か困ったことがあったら言え。手貸せることは貸してやるから」
『………繋心くんっ!!』
「うぉっ!抱きつくな!」
名前が抱きつこうと手を伸ばすと、それよりも先に烏養が名前のおでこを抑えて距離を取る。
『ちょくちょく帰ってくるからね〜!!』
「うるせぇ!!」
涙と鼻水を流しながら烏養に抱きつこうとする名前を月島は信じられないと顔を青くしていたのに気付き、名前は両腕を広げて月島に駆け寄る。
「ちょっ、こっち来ないでください!」
『づぎじまぐ〜ん!!』
「本当にっ、来ないでください!」
『がげやまぐんも頑張るんだよ〜!』
「…?…うっす!」
影山は頭にクエスチョンを浮かべながらも返事をすると隣に居た日向も何故名前が泣いているのか分かっておらず首を傾げていた。
『山口くん…、』
「はい?」
『全国応援に行くからね!!優勝してね!!』
「……あの、ティッシュ使いますか?」
山口は返事をすることも忘れ名前にティッシュを渡すと、名前は鼻をかんで鼻声の声でお礼をのべる。すると影山が名前に近付いてまた首を傾げた。
「苗字さん」
『ん?なに?』
未だにズビズビと鼻を鳴らしながら名前は首を傾げると、同じように影山も首を傾げた。
「4月から宮さんと同棲するって本当ですか?」
『…………へ?』
「…はァ?」
「…あ?」
名前は目を点にしながら間抜けな声を出すと、後ろで月島と烏養の低い声に日向と山口がビクリと肩を揺らした。
『……ちょ、ちょちょ、ちょっと影山くん、それはどこ情報かな?』
「…?宮さんからですけど」
『……まさかの直通だった』
「なんかメールが来て、これで名前に手出せへんやろ≠チて最後に言われたんですけど…。どういう意味ですか?」
『……うん、影山くんちょっと1回黙ろうか』
「うっす」
「……名前、」
『……け、繋心くん?顔が怖いよ?』
「どういう事か、説明してくれますよね?」
『つ、月島くん?笑ってるはずなのにどうして青筋を浮かべてるの?』
ジリジリと圧をかけてくる2人に名前は少しずつ後ろに下がると壁に背中があたり、冷や汗がたらりと背中に流れる。
「なぁ、なんで月島怒ってんの?」
「…多分ツッキーは苗字さんのこと放って置けないんだろうね。しっかりしてるのにちょっと抜けてるところあるから」
「ふーん…」
「…影山も、もう黙ってなくて良いんじゃないかな」
名前が月島と烏養の前に正座させられている間に3人は部室へと戻って行った。
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