琥珀になるために




「おー、名前から電話してくるなんて珍しいやん」



侑は風呂上がりにスマホが光っている事に気付き相手の名前を確認すると嬉しそうに笑い、それを隠すことなく上機嫌な声で電話に出ると、電話の相手である名前は侑とは対照的にこの世の終わりとでも言わんばかりの暗い声を出して侑はギョッとした。




『……侑、』

「どっ、どないしたんっ!?死にかけのヤギみたいな声出とるで!?」

『……どんな声それ…、』




侑の妙なボケに名前は覇気のない声でツッコミを入れると、重症だなと侑は自室に移動して濡れている髪を放置して聞く体勢に入った。




「ほんまになんかあったんか?」

『………職場で、今日の朝、急にチーフに呼び出されて、』

「おん」

『…………異動って言われた、』

「……………は、」




異動の2文字に侑は頭が真っ白になった。せっかく付き合い始めたのにまた離れ離れになるのか。元々、遠距離なのは変わらないが、それでも異動の2文字は侑に大きな衝撃を与えた。




「い、異動って…、どこに?……ほ、北海道か…?…沖縄か…?……………もしかして、海外とか…?」

『………東京、』

「…………………………はァ?」

『だから、…東京』




また新たに発せられた衝撃の2文字に侑は大口を開けて目を見開いた。イケメンと言われている顔もイケメンのイの字も見る影がなかった。





「……………東京」

『…東京、』

「……東京?」

『東京…』

「東京か〜〜!!」

『……なんで嬉しそうなの…?』





急に嬉しそうな声を出した侑に名前は電話口の向こうで首を傾げるが、それを知らない侑はまるで初めて烏野の変人速攻を見た時のように瞳を輝かせていた。治の言葉を借りるなら精神年齢が5歳低くなった、とも言える。




「東京かぁ〜!!」

『だからなんで嬉しそうなの…?』

「むしろなんで死にかけのジャガーみたいな声出しとんねん!」

『だからその例えは何?』

「東京やで!?東京!!」

『何回も言われなくても分かってるよ…』



侑は楽しそうに声を弾ませて言った。




「これで会える回数増えるやん!」

『………え?』

「もし東京の端と端でも宮城と東京よりは近いやん!会おうと思えばいつでも会える距離やん!」

『………あ、そっか』





異動の衝撃が大きすぎて忘れていたが、4月から侑も東京に住み始める。あとは侑の言った通りだった。

会おうと思えば会える


その言葉が酷く魅力的だった。





『………行こうかな、東京』

「せや!家とか困っとるなら俺と住めばええやん!」

『……え?』

「4月から一人暮らしやねん!なんやったっけ?なんか実業団のおかげで安く住めるんやて!一人暮らし用やから少し狭いけど全然2人でも住める広さやったし、めっちゃ家賃も安く済むで!俺が払ってもええし!」

『……いやいやいや……え?』

「これは運命や!!同棲しろって神様からのお告げや!!」

『…………………………………え?』






その後、苗字家に女性の大声が響き渡ったらしい

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