終末はあなたの言うとおり(完)




「んで、式の日取りはどうする?」

『………式?』




十糸沢の家から侑の社宅に戻ってから数日後、唐突に侑がそう言った。名前は首を傾げて両手に持っているカップを机に置いて侑の隣に腰を下ろした。





『なんの式?』

「は?式言うたら、結婚式やろ」

『……なんで?』

「なんでやないわ。あほ」

『いたっ』




名前の額を弾いた侑はカップを持つと口に運び、飲み込む。名前は額を抑えてジトリと睨む。





「さっさと結婚しとかんとまたお前、面倒な事考えるやろ」

『………そんな、ことは、』

「無いって言えんのか?」

『……………』

「嘘でも無いって言えや!!」





吠える侑に名前は視線を逸らしてカップに口をつける。その間も侑は隣でガミガミと口を開き続けるが、名前は適当に相槌を繰り返す。




「それにまだ説明してもろて無いからな!あの時の男!」

『あー、はいはい』

「誰やねん!あのオッサン!」

『オッサンって言わないの』

「ジジイ!」

『口悪いなー。本当』





カップを置いて両手を耳に当てる名前は、立ち上がって逃げようとするが侑に腕を引かれてそのまま後ろから抱きしめられる。





『お腹のお肉摘むな!』

「なー!結婚!婚姻届いつ出すー!?」

『少なくとも侑くんの収入が安定して年齢もそこそこになったらですかねぇ!?』

「俺の結婚適齢期待っとったら名前お婆ちゃんやで!?」

『よーし!歯食いしばれ!!』





侑の胸倉を掴み右手を振りかぶった名前に、侑は唇を重ねるとスルリと頬を撫でた。突然の事に名前が固まっていると侑は口元を緩めた。




「やから、収入…、というか選手として安定したら結婚しような」

『…………その時まで、付き合ってたらね』

「また別れる気か!?その前に俺は別れたつもり無いけどな!!」






名前の両頬を掴んで引っ張る侑に慌てて名前がその手を掴む。





「ほんまに次別れる言うたら孫の代まで呪ったるからな!その子供も俺との子やけどな!!」

『意味分からないし、痛い!』

「んぎゃあ!?」





名前は侑の短い前髪のせいで顕になっている額に頭突きをすると、そのまま唇を合わせる。





「…へ!?」

『ならババアの気が変わらないうちにさっさと有名になってよ!!』

「…………誰に言うとんねん!当たり前やろ!!お前が追いつけへん所まで行って!無理矢理その手を引っ張ったるわ!!」





甘い雰囲気に感じられないまま唇が重なって、ふたりして吹き出して笑う。





『将来、日本を背負って立つ男に愛されて、私は世界一の幸せ者だ!』





そう言って子供の様に笑って、興奮した様に少し頬を赤らめる名前に侑は目を見開いて、小さくポツリと言葉を漏らした。けれどその言葉は酷く、幸せそうだった。





「俺の事幸せにしろ言うたやろ。自分が幸せそうにしよって…。ほんま、……憎いわ」






宮侑に憎まれる 〜完〜


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