かたく蓋をしたガラスの小瓶の中




『……箱根ー!!!』

「芦ノ湖!大涌谷!!」




子供の様に興奮した様子で駅に降り立ったふたりは大声で叫んでいた。周りの人達は驚いた様にしていたり、クスクスと笑っていたがそれに気付いたのは名前だけですぐに侑の腕を引っ張り旅館へと向かう。




「どこ行く!?なぁ!どこ行く!?どっから回る!?」

『とりあえず荷物!荷物を置いてから!あと大声出さないで!恥ずかしい!』

「温泉卵食いたいなー!」





瞳をキラキラと輝かせながら首根っこを掴まれて引き摺られる侑に名前は足を早める。





『すっ、凄い…!』

「ふふんっ!ええやろ!めっちゃ探してん!」





旅館に着き、部屋に案内されて名前は口をポカンと開いて思っていた事が勝手に口から漏れる。





『凄い、綺麗…』

「名前はこういう部屋好きやろな〜って思って予約してん」




畳の部屋の奥にある襖を開くと綺麗な風景が続いていて、力が入っていない筈の肩から力が抜けてフッと唇から空気が抜けた。




『……侑、』

「ん?」

『ありがとう、段取りとか、色々』

「……うん、」





柔らかい声でお礼を言った名前に侑は頬を緩めて小さく頷いて、弱い力で指を絡めて甘く目を細めた。





「ほら、はよ観光行こうや。2日しかないんやからさっさと行かんと時間なくなってまう」

『箱根を満喫するぞー!』

「おー!」





繋がれた手を天井に向けて掲げるふたりは荷物を旅館に預け、箱根の街へと歩みを進めた。




「どこから行く!?」

『とりあえず最初は!』

「飯やな!」

『食べ尽くすぞー!』







食べ歩きをしながら街の中を巡っていると、ふと侑の目にひとつのガラス細工が目に止まり名前の手を引く。





『綺麗な色…』

「凄いなぁ」

『綺麗なガラス瓶の中にお花が入ってる』

「見て!」





侑はそのガラス細工を掲げると窓から透ける太陽に翳した。キラキラとただのガラスだというのにまるで宝石のように輝いていた。






「これ名前にプレゼントしたる」

『なら……』






名前はキョロキョロと店内を見渡して、とあるガラス細工を見つけて人の邪魔にならない様にしながら駆け寄る。






『私は侑にこれをプレゼントしようかな』

「狐のガラス細工?」

『うん。ちょっと侑に似てる気がする』

「俺はもっとイケメンやろ」





ドヤ顔をする侑を無視して名前はレジへと向かうとその後を慌てて侑が追う。






「部屋に飾りたいな」

『窓際に飾ろっか。きっと綺麗だよ』

「せやな」




お互いに財布を取り出し払い終わると、レジ打ちをしていた店主のお婆さんがふたりを見て目尻の皺を深めて優しく笑った。





「おふたりは旅行で箱根に?」

『はい』

「仲のいいカップルですね」

「せやろ!めっちゃ仲ええねん!」

『そ、そんな大声で肯定しなくてもっ、』

「やって否定する方が可笑しいやんか」

『そうだけど…!』






頬を少し赤らめて俯く名前に侑は満足気に微笑みガラス細工の入った袋を受け取った。





「また来てくださいね」

『ありがとうございました』

「次は新婚旅行で来るからなー!」

『ちょっと、もう黙って!』

「そんな恥ずかしがらんでもええやん」






楽しそうに声を弾ませる侑に反して名前は少し不機嫌そうに唇を尖らせた。その唇に侑が自分の唇を一瞬重ねると名前は目を見開き、赤くなった顔で繋がらていない手で侑の腕を叩いた。






『しっ、信じらんない!外なのに!人が居るのに!』

「フッフ、俺の彼女は可愛ええなぁ」

『〜っ!もう早く次のとこ!』

「はいはい」





前を行く名前に手を引からながら侑は気付かれないように小さく笑った。甘く優しい笑みは前を見ている名前には見えず、真っ赤になっている耳を見て、侑はまた愛おしそうに目を細めていた。

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