透き通るガラスを見つけたら




「そんでな!お盆休みやねん!5日間!」

『へぇー。なら部屋の片付けしよっか』

「なんでー!違うやろ!?」





桜が散り、ジメジメとした梅雨を乗り越えた太陽の日差しが強くなり肌がジリジリと焼ける季節になった頃に侑は練習から帰るなり名前にそう報告したが、当の本人はどうでも良さそうに洗濯物を畳んでいた。




『だって仕事は休みでも練習でしょ?』

「練習は3日間休みや!」

『なら片付けられるね』

「せやね〜、お盆やしね〜…………ってちゃうわ!」

『それにお盆くらい実家帰ってあげたら?』

「…え。名前帰るん?」

『侑が帰る予定なら帰ろうかなって』

「なら帰らん。ぜぇっ〜たい帰らへん!」

『なんでよ』





畳む手を止めて侑を呆れた様に半目で見つめる名前の前に、緊張した面持ちで正座をする侑に首を傾げる。すると侑は旅行雑誌を取り出した。





「……お、俺と、1泊2日の、温泉旅行に、い、行きませんか」

『何をそんなに緊張して……』





普通の提案に名前は眉を寄せて頭を捻ると、顔を少し赤らめた侑が洗濯物の上に置かれた名前の手を震える手で包み、もう一度口を開いた。その声はどこか震えていた。






「…と、泊まり、やから、…よう、考えて欲しい、」

『…………あ、』






その言葉で名前は侑の意図に気づいて目を見開き、小さく声を上げる。つまり、“そういう行為”を含んだ旅行、という事だろう。侑の緊張が映ったように名前の頬にも赤みが差して、本意が伝わった事に侑も気付いたのか覚悟を決めたような顔をした。





「もちろん、名前が嫌なら、ただの旅行でもええ。……よう、考えて欲しい、」

『……侑、』

「ただ、俺かて男やから…。それだけは、覚えとって」

『う、ん、』

「おっ、俺!風呂入ってくる!」

『追い炊きしてから入って!』

「分かった!」






声を裏返させながらスっと勢い良く立ち上がった侑に慌てて名前が声をかけて浴室に消えたのを確認してボーッとする。





『…………へ、』







そしてハッと我に返り、燃えたように熱い頬に両手を当てて洗濯物の山に頭ごと突っ込む。







『……なに、それ、』






混乱する名前は小さくそう零して、新しい下着を買うのに頭の中で自分の財布の中身を思い出していた。






「……言ってもうた、…言ってもうた!」






シャワーを頭から浴びながら顔を赤らめて額をタイルにゴツンとぶつける侑が居たそうな。

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