ガラス細工みたいな朝




『…………』




カーテンの隙間から射し込んだ光で目を覚ました名前は眉を寄せてスマホの電源をつけて時間を確認する。





『……侑、…起きて、』

「…………」

『……今日から仕事でしょ…、』

「………ん、……」





名前は一旦起こすことを諦めるとベッドから起き出し、顔を洗いパンをトースターで焼く。





『侑ー、本当にそろそろ起きないと』






未だに布団に丸まっている侑を叩きながら声をかけると、侑はゆっくり瞼を持ち上げて名前と視線を合わせる。





「……………はよ、」

『うん、おはよう』





寝癖の付いた侑の髪を撫でると気持ちよさそうにまた瞼をどしようとする侑に名前は慌てて手を止めて声をかける。





『ほら!今日からやっと実業団のチームでバレーできるんでしょ?』

「…………おん、」







侑の手を掴んで起こす名前は自分よりも大きな体の背中を押して洗面台に押し込み息を吐き出す。




『………出勤初日からこれは思いやられる』







顔を洗って少し意識がハッキリした侑は名前が焼いておいた食パンを食べると牛乳で流し込んだ。





「帰る時に連絡するわ。何時になるか分からんし」

『定時じゃないの?』

「午前は仕事やけど午後は練習やねん」

『…実業団って大変なんだね』

「レベルが高いところでバレーできるんは最高や!」






子供の様に瞳を輝かせて笑う侑に名前は柔らかく口角を上げる。そしてふたりで両手を合わせて食後の挨拶をする。






「名前は何時に出るん?」

『私はもう少し時間に余裕あるから』

「そっか。んじゃ行ってくるなー!」

『いってらっしゃい』

「…………」

『…え、なに?』





玄関で靴を履いて出ようとする侑を見送る名前は突然立ち止まった侑に首を傾げる。





「………やっぱ、新婚みたいでええなぁ〜…」

『………さっさと行きなさい』

「奥さんのいってらっしゃいのキスがあればもっと頑張れると思うんやけどなぁ〜」

『…………』





チラチラと名前を見る侑に名前は目を細めて視線を逸らす。侑のことをチラッと見ると、唇を尖らせながら瞼を閉じていて名前は眉を寄せる。





「まだかな〜、まだかなぁ〜」

『……遅刻するよ』

「してくれたらすぐに行けるんやけどなぁ〜」

『…………』





名前は時間と恥を天秤にかけて、社会人としての常識に傾いて深く溜息を吐いて瞼を閉じる。そんな名前を見て、侑は嬉しそうに腰を少し折った。







『…………はい、いってらっしゃい』

「………頬やなくて口が良かった」

『早く行きなさい』

「ちぇっ…」






侑はそう言いながらも玄関に手をかけた。そんな彼の服の裾を掴んで名前がポツリと小さく少し自信なさげに呟いた。





『……口には、…帰って来たらね、』

「………………うん!!」






侑は瞳をキラキラと輝かせて大きく頷くと嬉しそうに扉を開けてスキップでもしそうな勢いで会社へと向かったようだった。





『………同棲に浮かれてるのは、私だったかぁ』







玄関には顔を隠すようにしゃがみ込んでいる名前が居た。

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