飢えた犬は棒を恐れず





「あれ?棘これから任務?」

「しゃけ」

「……あ、そういえば言ってたかも」

「…………」

「そんな怖い顔で見ないでよ」




棘が任務に行く為に歩みを進めていると後ろから話しかけられて振り返ると思い描いていた人物が立っていた。五条はペコちゃんの様に舌を出して拳を軽く頭にコツリと当てている姿を棘は冷たい視線を送る。




「僕だって生徒達の任務を全部覚えてる訳じゃ無いからね。忘れちゃう事だってあるよ」

「………こんぶ」

「嘘じゃないよ〜。で?棘はどんな任務行くの?」

「高菜、いくら、すじこ」

「へぇ〜。普通に人が住んでるアパートねぇ〜」

「ツナマヨ」

「でも面倒だね。人が住んでるのは」

「いくら」

「帳を下ろすにしても避難してもらわないといけないしさ。まぁ、棘なら大丈夫でしょ!頑張ってね〜ん!」

「……………すじこ、」




スキップをしながら去って行った五条の背中を棘はジト目で見送ると小さく溜息を吐き出して伊地知の元へと歩き出した。



「…あ、狗巻くん」

「ツナマヨ」





棘は短い髪を揺らして軽く会釈すると伊地知はメガネのブリッチを押し上げて運転席に乗り込んだ。棘も乗り込んで車はゆっくりと走り出した。




「…………こんぶ」

「……え?」




任務先であるアパートに近づくにつれ、呪霊の力を強く感じて棘は前のめりになる。伊地知は違法にならない速さで車の速度を上げ、辿り着くと棘は飛び出す様に車から降りるとアパートを見上げた。




「……た、かな、」




棘はアパートを見上げて目を見開いた。伊地知も慌てて車を降りて見上げると、また伊地知も目を見開いた。



「……こ、これは、」

「……こんぶ、」




アパートからおびただしい呪力に2人は目を見開いた。伊地知は慌ててスマホを取り出して連絡をしていた。棘は開いたままだった唇をグッと固く結ぶと伊地知の方へと顔を向けて声を張った。



「高菜!」

「…えぇ!?行くんですか!?ひとりで!?」

「いくら!」

「たっ、確かに、早く住人を避難させて、安全を確認しないといけませんが…、」

「ツナマヨ!」

「……分かりました分かりました!でも危険だと思ったら必ず逃げてください!私も住人の避難を急ピッチで行います!」

「すじこ!」



棘は伊地知にお礼を述べると走り出し、呪力が特に大きい階を目指して階段を駆け上がった。そして禍々まがまがしい空気が1番強い部屋の前で立ち止まりゆっくりと息を吐いてドアノブに手をかけて時間をかけて回す。





「…………っ、」



棘が部屋に入ると、座り込んだまま女性を横抱きにして下を向いている棘と年の変わらないであろう女の子がいた。

けれど棘が驚いたのはその女の子は大きなムカデに巻き付かれていた。



「………高菜?」

『…………誰?』





棘の声に反応をした女の子の声は酷く震えていた。棘が1歩近づくと、近くで男の人の呻き声が聞こえた。



「が…、だ、だずげ、」

「い゛、い゛だぃ、」



棘が視界を下げると右手を抑えている男性2人が居て、棘は駆け寄った。



「いくら!」



抑えている手を見ると2人の右手から先、手のひらが無くなっていた。まるで噛み切られた様にボロボロになっている手首に棘は慌てて近くにあったタオルと太めの輪ゴムで2人の手首を縛る。



『…………』



棘が顔を上げると女の子はただただ無表情で棘を見つめていた。






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