刎頸の交わり





日付が変わった頃、高専の自分の寮に戻って荷物を纏める。纏めると言ってもそんなに荷物がある訳でもないけど。



『………』




最後にスマホで時間を確認して部屋を出る。校舎の外に出ると、9月だというのにどこか肌寒かった。




『…………もうこんな時間だよ』

「…………高菜」





門を潜り抜けようとした時、ザリッと砂を踏む音がして足を止めると相手はやっぱり狗巻くんだった。




「すじこ…?」

『私、一般人と問題起こしたから退学だってさ。だから荷物纏めて出て行かないといけなくて』

「……ツナマヨ」

『………うん、嘘』




狗巻くんは少し強く、嘘でしょ、と言った。そりゃバレるか。本当に退学なら五条先生から同期には説明があるはずだから。





「いくら、すじこ」

『……話したところで、何になるの、』

「高菜、…ツナマヨ」

『話したって何も変わらない。駄目なんだよここじゃ。私の命より大切なものが守れない』

「明太子…!?」

『………楽しかったと思う。高専での生活は』





今まで私には友達なんて出来たことなかったから。いつだって傷だらけの私はみんなから距離を置かれていた。触らぬ神に祟りなし、正しい判断だと思う。誰だって面倒事には手を突っ込みたくない。




『…友達ってこんな感じなんだろうな、って思ったし、凄く楽しかった』

「高菜…!」

『こんな私でも生きてていいんだって、勘違いしちゃうくらいに』




私は生きてちゃいけないから。何も出来ないのに生きてる価値はない。だから少しでもあの人の為に、




『……ごめんね、狗巻くん』

「おかか!」

『………ありがとう、』

「お、かかっ!」




何度も首を振る狗巻くんに、頭が回ったりしないのかなと不安になる。出会った時より少し伸びた髪を見て、思ったより一緒に居たのに私は彼の事を何も知らないなと他人事のように思った。





『…私を助けてくれて』

「おかか…!」




彼は私に手を伸ばしてくれたけど、その手を避けて門を出た。たったそれだけなのにもう戻れない気がした。




∴∴




「……ここは、」

『……おはよう、お母さん』




夏油さんから教えてもらった小さなアパートを借りてお母さんの目が覚めるのを待っていた。




「……名前?」

『うん。…ごめんね、無理矢理連れ出して』





謝るとお母さんは小さく首を左右に振った。この部屋には最低限の物しかない。布団と小さな机と持ってきた数少ない日用品。でもそれだけで十分。余計なものを置いておくと逃げる時に面倒だから。




「さてと、名前は弱すぎるからもうちょっと強くなってね」

『……それは、どういう意味でですか?』





夏油さんに稽古をつけてもらう為に彼の元を訪れると一言目で言われた言葉に眉を寄せる。





「どういう意味…?そのままの意味だよ。体術も呪力の操り方もまだ赤子同然だ」

『……そっちですか』

「そっちもどっちもないと思うけど…」

『私の勘違いです。すみません。お願いします』





五条先生の言葉なんて気にする必要ないのに。まだ私の気持ちは浮ついている様だ。そんな時間なんてないのに。




「高専を襲おうと思うんだ」

『……どうして私だけに話すんですか』

「ん?嫌がるかと思って」

『嫌がりませんよ。…万が一に嫌がったらどうするつもりですか?』

「君だけを置いていく。私も鬼じゃない。あまり家族を傷つけることはしたくないんだ」

『……家族?』





夏油さんの言いたいことがよくわからなかった。私達は家族なのだろうか。…いや違う。だって血の繋がりがなければ出会ったばかりの赤の他人。
赤の他人って言葉もよく分からない。血の繋がりがないのにどうして赤って言葉を使うのか。ただの他人と赤の他人は違うのか。もう、全部分からない。




『…夏油さんは非術師を殺すんですよね。ならどうして高専を襲うんですか』

「乙骨憂太の呪霊が欲しいんだ」

『殺すんですか』

「…君はどっちがいい?」





何故かその質問に私は答えられなかった。



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