『……助けたい、ってなに、』
「いくら!」
『…………』
真っ直ぐと私を見つめて小さく頷く狗巻くんに目を細める。きっとこの子は優しい子なんだ。私とは違って、酷く慈しい子なんだ。
『ありがとう、』
「しゃけ!」
『でも、いらない』
目を見開く狗巻くんの隣を通り過ぎて病院を目指す。私はこれから狗巻くんを裏切るから。
『夏油さん』
「そろそろかと思って待ってたよ」
病院に向かう途中、人通りの殆ど無い裏道に入り名前を呼ぶと彼は姿を現した。前と同じ全身が黒い。
『……夏油さんなら、母を救えますか』
「約束しよう」
そう言って微笑んだ夏油さんに私も小さく笑う。あの人を救う為なら私は何だってやる。喜んで自分の居場所だって、
∴∴
『お母さん』
「名前…」
病室に入るとお母さんは目が覚めてたみたいで安心した。けどその頬には痛々しいガーゼが貼られていて眉を寄せる。
『行こう、お母さん』
「行こうって…、どこに?」
『アイツらが来れない場所に。アイツらが居ない場所に』
お母さんは酷く驚いていたけど、あまり時間が無い。出来るだけ早く移動したい。家に寄って荷物も纏めないといけないし。
『…お母さん、』
「………」
一向に動こうとしないお母さんに焦りが募る。一緒に行くって言って。そうしたら私は何だって、
「名前、」
『………』
「…ごめんね、お母さん、一緒に行けない」
『……………なんで、』
お母さんは苦笑にも似た笑みを浮かべると優しく言葉を紡いだ。
「だって、最近の名前は楽しそうだったもの。新しい学校で友達が出来たんでしょ?」
『……そんなこと、』
「分かるわよ。…お母さんだもの」
グッと奥歯を噛んで俯く。すると病室の扉が開かれて夏油さんが私の肩を抱いて笑みを浮かべた。
「初めまして」
「えっと…、こちらの方は?」
『…………学校の、…関係者、』
「学校の関係者です」
夏油さんはそう言ってお母さんの額に指を置いた。するとお母さんの体から力が抜けて夏油さんに凭れ掛かる。
「それじゃ私は先に行って待ってるよ」
『はい』
ベッドにお母さんを寝かせて夏油さんは私の肩に一度触れると出て行ってしまった。眠ったお母さんの髪を避けて呪いを込めて言葉を発する。
『……ーーーーー』