「あー…、痛てぇ、痛てぇなぁ、…オマエのせいで右手がずっと痛いんだ…、」
『お母さん病院に行こう!』
ブツブツを小さく独り言を零す男を無視してお母さんに駆け寄る。すると背中に衝撃を感じた時には顔を壁に強く打っていた。多分背中を蹴られてた。しかも鼻の骨折れたかもしれない。
『あ゛っ…、』
「名前っ!」
「俺の話を無視してんじゃねぇよ。父親の話はちゃんと聞けって教わらなかったか?あ?」
『ガァッ…!』
背中を踏まれるように蹴られて最後に思いっきり顔を蹴られた。頬骨もいった。口の中が血でいっぱいで気持ち悪い。痛い。苦しい。
「やめてっ!やめてください!」
「うるせぇ!」
男はお母さんを左手で殴ると私に視線を戻した。私はお腹を抑えながら上体を起こすと一気に気持ち悪さが来て部屋の中で吐いた。それを見て男はゲラゲラと笑って私の顔を殴って踏みつけた。
「汚ぇな!オマエによく似合ってるぜ!」
『……………』
踏まれながら力を入れてお母さんに目を向ける。瞼は閉じられてるけど肩は動いてる。息はしてる。生きてる。
「絶対にオマエだけは許さねぇ。死なない程度に死ぬより苦しめてやる」
『…………』
コイツも息をしてる。生きてる。
「楽しみだなぁ!?」
なんで、コイツは生きてる
『…………』
やっぱり誰も私を救ってくれない。別にいい。私は救われなくたっていい。だからあの人だけは助けて。
「また3人で楽しもうなぁ?家族だもんなぁ?」
『……ねよ、』
「あ?」
踵で頬が蹴られて血が飛び散った。鼻と喉に血が詰まって息がしずらい。呼吸が止まりそう。
『……し、ねよ、』
「……よく聞こえなかった」
『ッガァ!』
お腹が蹴られて背中に衝撃を感じた。呼吸が上手くできないせいで頭が働かない。血が出てるせいもあるかも。
『…こ、ろす、』
「オマエみたいな奴に出来るわけねぇだろ!」
『ころす、…しね、オマエなんか、』
きっと私はこいつらを殺す事は出来ない。何度も殺してやろうと思った。でも、出来なかった。自分の中の理性が壊れてくれない。壊れて欲しいと、壊れてしまえと何度願っても、私の理性は私の手を止めてしまう。
私はきっと、こいつらを殺すことはできない。
でもこの世に本当に怨念があるのなら、
ーー殺してしまう程呪う事ならきっと、出来る。
『………オマエなんか、死ね、』
私が手を汚す事でこの人の命が救われるのなら、私は喜んで手を汚す。
『オマエらだけは、私が殺す』
倒れた体の下から黒い渦が現れて大きなムカデが現れる。こんな奴が自由に生きれる世界なんて、いらない。
∴∴∴
『……ごめんね、』
病室で眠るお母さんの近くに腰を下ろすと扉が開かれた。入ってきたのは五条先生で、中には進まずに扉の前で立ち止まっているようだった。
「自分がしたこと、わかってるね」
『……私は、悪い事だとは思いません』
「もう少し手当が遅れていたらあの男は死んでたんだよ」
『だったらなんですか』
「君はもう力の使い方を知らない一般人じゃない。今回犯したことは簡単には許されないよ」
『…どうでもいいです』
そんなことどうでもいい。私が罪を犯してこの人を救えるのなら私はいくらだって罪を犯す。それが間違いだったとしても、誰に否定されても。
「……名前」
『退学ですか私』
「とりあえず今回は君の怪我も酷いし、僕がもみ消した。運良く君の父親も一命を取り留めたし」
『……任務に行かせてください』
そう言うと五条先生は少し雰囲気を暗くして、息を深く吐いていた。早く纏まったお金が欲しい。いち早く。この人を逃がす為に。
「まずは反省をするべきだよ」
『どうしてですか。反省するべきはアッチでしょ』
「確かにそうだけど、君は一般人に力を向けたんだ」
『なら、一般人はどれだけ力を振るってもいいって事ですか』
「違う。僕が言いたいのは、」
『もういいです』
「名前、」
病室を出る為に先生の隣を通り過ぎると腕を掴まれた。でもその腕を振り払って見上げる。
『…私はもう、誰にも何も望まない』
全部私がやる。なんでも自分で出来るようになる。ひとりでもあの人を救えるように。何を犠牲にしても私はあの人だけは救ってみせる。